彼ら…氷帝テニス部レギュラー陣には会わない事にした。(準レギュの皆にはちょっとだけ会いたかったけど。)また謝られるのは嫌だし…なんか、うん。とにかく会わない。 そう決めて、彼らが朝練をしている時間に登校した。 テニスコートは避けて、こっそりと校舎に忍び込む。下駄箱に寄らなかったから靴下だけど、まあいっか。 私が廊下を歩いていると、ちらほらといた生徒達が一斉に口を閉ざす。驚きに染まった顔を私に向け、それから友人達とこそこそと言葉を交わし始めた。 (なんだ、このスタンスは変わらないわけね) 苦笑しながらなおも進み、立ち止まったのは自分が数週間世話になった教室。 ――ガラッ ざわっ 慣れたもんだ。 私は自分の机に歩み寄り脇にかかっているスクールバックを取った。教科書類は置いていこう。つってもほとんど捨てちゃったけど。 「苗字……さん」 「?」 振り返ると、クラスメイトの女子が1人、私の後ろに立っていた。 私の中での彼女のイメージは、亜里沙ファンクラブ女子部門の会長さん。である。 彼女は怯えたように口ごもった。 「…ああ、別に仕返しに来たわけじゃないよ。」 私は体を屈め、ベルの使っていた机を漁った。 ガシャガシャ音がすると思ったらナイフが十数本とトランプのケース。それからゲーム機が出てきた。 アイツ勉強する気ないわ絶対。 それらを私のスクールバックに押し込み、少し重みの増した鞄を肩にかける。 「コレ取りに来ただけだし。」 これでもうこの教室に用はなくなった。 身を翻してドアに向かう途中、さっきより大きい声でもう一度彼女に呼び掛けられた。 「苗字さん!!お願い、待って」 「………あたし急いでるんだけど」 「苗字。…頼む」 再度振り返る。声を出したのは、アダルトサイトの彼だ。 彼の頬に貼られた大きなシップを見て、そういえば亜里沙裏ファンクラブの奴に殴られてたのこいつだっけ、と妙な事に気が付いた。 「私達…どうしても謝りたいの」 「亜里沙なんかに騙されてて…お前を殴ったりしたこと、本当にすまねぇと思ってる」 彼らに続き、教室の所々で謝罪の声が上がった。 私は眉をしかめて吐き捨てる。 「言ったじゃん。謝罪はいらないし許す気もない。私はここを去るし、アンタらに不都合なんてないでしょう」 「…」 「じゃあね。」 「亜里沙の分…だよ。」 思いがけない言葉に、私は首をかしげた。 亜里沙の分? 「あいつは俺達を蔑んでた。自分で言ったんだから間違いない……。でも、全部がそうだったとは思えねぇんだよ」 「もしそうだとしても…その上辺だけの優しさに救われた子が、何人もいるのよ」 「……」 「亜里沙は、死んじゃったんだろ…?」 彼らは亜里沙の死を見ていない。 ただ人づてに聞いて、 何を思ったのだろう。 私はてっきり、彼らはすべて亜里沙のせいにして楽になろうとしているのだと思っていた。 ――そして思い出す。 「俺達は亜里沙と同罪だよ」 「そうだ!」 「だけど、まず、あの子の分もあなたに謝りたかったの。」 「…ごめんなさい!」 「亜里沙が酷いことして、企んで、ごめん」 「気付けなくてごめんなさい」 「亜里沙を助けてやれなくて…ごめん」 「それから」 「有難う。」 「俺達を守ってくれて」 「ありがとう、」 「亜里沙を――救ってくれて」 「俺達全員分が代弁する、鳥居亜里沙からの謝罪と感謝も……いらないか?」 ずっと思ってたじゃない。 ――こいつら、バカなんだって。 「…いらない。」 私は答えた。目線を少し上げれば、真剣な彼らの顔が悲しげに変わるのを見た。 そのまま彼らに背を向けて教室を出る。 (知らないよ。あんたらなんて、一生馬鹿な仲良しごっこをやってればいい) ……たったった、 「あのさー!」 戻ってきた私に、全員が目を見開く。私は気にせずに言葉を続けた。 「……机の落書き、消してくれて、ありがと。」 それだけ言って直ぐに顔を引っ込める。 (別に許したわけじゃない。) (…ただ、ほんとに綺麗になってたから) ブツブツと念じながらも今度こそ本当に教室を後にしたのに、二つほど離れた教室の前を歩いている時、あのクラスから歓声が沸いた。私は廊下を駆け抜けた。 さっさと離れよう。これじゃ善人にでも、なったみたい。 ×
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