「集合!」

跡部の一声によって揃った返事が200人分戻ってくる。集合した部員達の先頭は見知った顔ばかりだが、これはもうちょっとした集会だ。人数に呆気にとられている私の背中を跡部が押す。


「今日から新しく入ったマネージャーだ」
「…苗字なまえです。なったからにはそつなくこなすつもりです。宜しくお願いします」

ぺこりと頭を下げる。
クラスの時のように笑顔を浮かべたりはしなかった。必要以上にすると、それの価値が失われてしまうような気がしたからだ。

「そう言う事だ。今までマネージャーは亜里沙一人だったが、今度からは何かあればこいつにも頼んでくれ。以上だ。各自練習に戻れ」

言い放つ跡部は確かに部長に相応しいカリスマ性を秘めているように思う。それは他の様々なところで生かされているようだ。(血筋、だろうか)

「なまえちゃぁん」
きたー!
「…何でしょうか」
「亜里沙がマネージャーの仕事説明してあげるね!」
Vサインを作った亜里沙の背後で、忍足が微笑む。
「おお、ええやないか教えてもらい」
「亜里沙さん、しっかり!」
「もう、ちょたぁ!心配しなくても亜里沙大丈夫だってぇ!」
「亜里沙抜けてっからなー。心配だぜ」
「岳人まで!もぉ」

早く終わってくれ。私は心の底からそう思った。オエー

「じゃ、さっそく行こっか!」
「…はい」

整備されたコートの西側に四角い建物がある。それが部室らしい。
レギュラーと準レギュの部室は分けられており、シャワールームもついているんだとか。用意されていた資料に書かれていたそれらを見て私は中々驚いた覚えがある。
私の高校時代(って、そんな昔の話じゃないけど!)、テニス部なんてグラウンドの端っこに追いやられてたぞ!?何だろうこれ。時代の格差?ジェネレーションギャップとはこんな感じの事を指すのだろうか。うん、違う気がする。


「ここがぁ、レギュラーの部室だよぉ!」
「へえ…わりと綺麗なんですね」
「人数が少ないからね。で、今日なまえちゃんに頼みたいのはこっち」

ジャジャーン、と少し離れたドアを開く。むんっとすえた臭いが鼻腔を刺激し、なまえは思わず眉をしかめた。
レギュラーの部室もそこまで綺麗さっぱり美しく磨き上げられていたわけではないけど、こっちは酷い。虫が湧いててもおかしくない。というか、絶対いる。G的な何かが。


「…ここを、一人で?」
「そぉだよぉ!ごめんね!亜里沙他にもお仕事があるから、そっちやんなくちゃ」

どうせ表立った事ばかりでしょう?
分かりきってますって。
――でも

「分かりました」


私がこんなことでへばって仕事放棄するような女だと思ったら大間違い。
「じゃあよろしくねぇ!」と手を振って上機嫌で去っていった亜里沙の背中にこっそり中指を突き立てて、私は部室に向き直った。広い、臭い、汚い。


「よし。―――やるか!」

錆びついて開かない掃除用具入れのロッカーを、私は軽い蹴りで叩き割ったのであった。

雑用も暗殺も要領の良さがモノを言う時代ですから。
(どどど、どうしよう!勢い余ってぶっ壊れたー!)

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