「今日の集会って?」
「あー、どっかの部の表彰だって聞いたけど」
「え?そうなの?私、新任の先生が来るって聞いた〜」
「この前来たばっかなのに?」
「確かに。でもまたイケメンな先生だったらいーなあ」
「あれ?そういえばスク先生達いなくない?」
「ほんとだぁ」
「あ、始まるみたい」



ステージに登った校長は、まず重々しい表情で頭を下げた。そして青白い顔を持ち上げると、マイクを手に取り、震えた声で話し始める。
『えー……君達には、まず、謝らなければならない事がある。それは、我が校で起きている苛めについてだ』

ざわざわ。瞬く間に体育館にざわめきが広がった。

『私たち教員の目の届かない場所で起きていたこととはいえ、真に、ゆゆしき事件だ。……大変、申し訳無い事をしたと思っている』

(何が目の届かないところ、だ。)
私は、私に突き刺さる多数の視線を体中に感じながら、背筋を伸ばしてステージを見続けた。

『そして今日は、ある……方たちを、交えて。この件についての明確化を、計ろうと…考えています。』
校長は生徒達を見下ろして、続けた。

「苗字なまえさん。………前へ。」




視線。視線。生徒達の間を真っ直ぐに歩く私に注ぐ沢山の小さな、針。たまに耳をかすめる嘲笑。
(馬鹿な奴ら。自分達が今どんな状況にいるのかも知らないくせに。これから何が起きるかも、知らないくせに)
負の渦に飲まれそうになった時、私の腕に誰かが触れた。


「……跡部」
「…俺も行く」
――驚いた。
数秒視線を交わしたのち、私は微笑んでその手をほどいた。

「ありがとう」

でも大丈夫だよ。
だって、これはあたしの勝負だから。





ステージに登った私は、真っ青な校長からマイクを受け取った。体の向きを変えれば、蠢く人の波に軽く眩暈がした。
「…」
(んー…けど)
この寄せ集まった悪意や殺気は、たまらなく私を昂揚させる。理由は明白。―――似ているからだ。

あの、血肉踊る、戦いの最中に。


「……つい先日ここへ転校してきた、3年の苗字なまえです。知っている人も、知らない人も、どうぞよろしくお願い致します。」

知らない人とかいないと思うけど。

「今、私がここへ立っている理由は、ある人に、ひとつだけ、言葉を贈りたいと考えているからです。」
私はマイクを下げて、生徒達の顔を見渡した。すぐに見つかった彼女に向かってマイクを向ける。

「鳥居亜里沙」


名指しさせた亜里沙や、その周りに居た人間はギョッとし、ざわめき出した。
「あ、亜里沙に何を言いたいってんだ!!」
「そうよ!」
「今更謝っても遅ェぞ!!」
「それともそこで、言いわけでもしてみるか!?」

「謝罪?弁解?馬鹿馬鹿しい。
あなたに贈る一言は"これ"に尽きます。」

私はマイクを切って、大きく息を吸い込んだ。




「ブーーーーース!!!」



中指を立てて言い切った私に、体育館内は騒然とする。
亜里沙に至っては、(言われ慣れない言葉だったのだろうか。)唖然と口を開いたままだ。
視界の隅でジローが笑いこけているのが見えた。


「以上です。」
ふわりと微笑んでお辞儀をした。数秒後。爆発する生徒達の怒り。
あれそれと個々の声は聞こえないものの、今の私の発言に対しての反感を投げかけられている事は確かだ。

「あー、もう、うっさいなぁ」

いつまでたっても静まることのない騒ぎ。でも私、これの鎮め方を、実は知ってる。つい最近見たから。
――まずは自分の前の前に会ったものを蹴っ飛ばす。
(あれ、でも蹴飛ばすものないな)
しかたなしに私は手元のマイクスタンドを掴み、それを思い切り床に叩きつけた。
バキイッっと鈍い音を立てて折れ曲がったスタンドをステージの端にブン投げる。


「ごちゃごちゃ煩いのよ。もう時間ないんだから、黙ってあたしを見なさい!」
静まり返った体育館に、私の声は驚く程よく通る。


「鳥居亜里沙。もう、手加減なんてしてやんないから」
パチンと指を鳴らせば、私の後ろにスクリーンが降りて来る。私は、手元のスイッチを躊躇いなく押した。
「―――…あんた達の大事な大事なお姫様の化けの皮、あたしが剥いであげる。」


ザザ・・


『「皆に嫌われる気分はどーお?」』

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