「ああ」
跡部が真顔で頷いた。
「メチャ怖いC〜」
ジローちゃんも。
「ウス」
樺地まで。

私はやっぱり、と肩を落とす。
殺してないとはいえ常人離れした戦闘技を跡部達に見せてしまったんだ。
周りに他の氷帝生がいないのを良い事に、日頃のストレス発散とばかりに私もハメを外してしまった!…怖がられたってしょうがない。
でも悲しい。

「お前達っていうかお前だな。」
しかも追い打ちをかけてきやがって跡部の奴。
畜生、と視界がうるみかけたところで、私の鞄を樺地に預けた跡部がポケットを漁り始めた。


「、ぎゅえ」

そして取り出したハンカチで私の顔を強くこする。
「ちょ、痛いいたいいたい」
「アーン?我慢しろこんくらい」
「つ、つよっ、何なのいったい」
「中々落ちねぇな」
ぼやきながらしばらく頬を擦っていた跡部が、ようやく手を離した。
跡部の手にあるハンカチにはべったりついた赤いもの。


「顔面に返り血つけてる女なんて恐怖以外の何でもねぇよ」
「、え?返り血…?」
「これで元通りのなまえだC〜」
「なまえさん」
樺地に鞄を手渡される。

「助けてくれて、ありがとうございます」
「か…樺地」
「ほんとほんと!なまえ達ってマジで強いんだね〜!」
「っししし!たりめーだろ、幹部だぜ」
「ちょ、いはいいはい!ふひいっぱんらいれ!あほべ!」
「誰がアホ部だ。」
私の頬をつねり上げながら、跡部が綺麗な顔を近付けて凄んだ。
な、なかなか怖いよ。
マフィアのセンスあるんじゃない?なんて軽口は叩けない雰囲気である。

「大体何で俺様がびびらなきゃいけねェんだ。アーン?こっちは守られてる身だってのに。これ以上無いくらい心強かったに決まってんだろ」
「あ、あとべ…くひいはい!」
「だからしょぼくれた顔をすんな。情けねぇ」
「う、う・・ん」
「返事は」
「っはひ!」

頬をさすりながら跡部を見上げると、跡部は口に弧を描いて私の頭を撫でた。

「ちゃんと見てた。」
「…うん」
「お前ら強ェじゃねぇの。……でも、なまえはなまえだ。」

跡部がこんな事を言うとは思わなかった。
彼も極まりが悪くなったのか、すぐに手を離して歩き始めてしまう。

「もう朝練は諦めだ。」
「えー、せっかく早起きしたのに〜?」
「安心しろジロー。放課後こってり絞ってやる」


跡部の秘めるカリスマ性は誰彼かまわず虜にすると言うけど、私はその原因の一つに彼の人間性も含まれているんだろうな、と勝手に納得した。
こんな中学生中々いないけど、将来がとても楽しみである。


「……ハッ!あたし今なんておばさんチックな事を…」

「何言ってんだぁ?置いてかれてんぞ」
「あ、うん。あれ?ベルは?」
「前で芥川とじゃれてるぜぇ」
「…」

嵐の登校
あの二人、いつからあんなに仲良くなったんだろ。

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