「……」

「……」

「……覚悟はできてんだろうな、ドカス」


地の底から這いあがってきたような声が鼓膜を揺らした瞬間、私はだっと走り出した。ドアを飛び出した途端、私の真上を(憤怒の炎込な)銃弾がズドォォォン!と通過する。ヤッベー!ヤッベー!!

「う゛お゛おぉ゛ぉおい!!!」
「乗せろ!」
「あ゛あ!!?」
「走れ!!」

ザンザスに書類でも提出しに来たのだろうか。片手にファイルを持ってこちらに唖然とした視線を向けるスクアーロの背中に飛びつき、進行方向を指差した。
スクアーロは怒鳴り散らそうと口を開けたが、ザンザスの部屋から二波、三波が放たれ、とりあえず逃げることにしたようだ。

私は右腕だけをスクアーロの首に回し、振り落とされないように頑張ってしがみ付く。
「で、でめ…ぐるしいぞぉ」
「ちゃんとおんぶして!落ちるぅ!」
「く、くそがぁ」
「……ちょっと!おしりさわんないで!ザンザスに言いつけてやる」
「テメェがおぶれっつったんだろぉがぁ!!!」


言葉を交わしながらも執務室からは必死で距離を空けるスクアーロ。私に捕まった時点で身の危険を感じたのだろう。


「てめぇ一体何しやがったんだぁ!!」
「…ハハ」
廊下の窓越しにスクアーロと目が合う。スクアーロの視線が、私の服装に移った。

「………何だそのナリはぁ!!!!」

「うっるさ!おま、うるさ!!」
「襲われたんじゃねぇだろぉなあああ」
「…」
「やっぱりかぁ!てめぇ、俺が病室行った意味ねえじゃねぇかクソッカスがぁ!!何もされてねェんだろうなぁ!!」
「うん。無事。あぎゃー!」
ピースサインをしたらバランスを崩して、折れた腕を壁にぶつけた。スクアーロは何とも言えない顔で私を見た。


「つーかこれ、どこまで逃げりゃいいんだぁ!?」
「どこまでっつーか、いつまでだぁ!?」
「う゛お゛おおい!!」
「シカトすんなぁ!!」

私はスクアーロのがなる声をどこか遠くに聞きながら(実際は滅茶苦茶煩いんだけど)この後のことを考えた。XANXUSの怒りが収まったらちゃんと謝りに行こう。何もされてないから大丈夫だよって、心配屋さんの彼に教えてあげなければ。

きっと目を三角にして毒を吐くけど、小さくほっと息を吐いて、私を抱きしめてくれるはずだ。


「…う゛おぉぉおい!!何ニヤけてんだぁ!」
「うふふ、あはー」
「ついに壊れたかぁ」
「失敬なやつ。…あ、ベルだ」
「ん?何でスクアーロがなまえおぶって、……」

部屋の扉を開けて現れたベルは私達をじっと見つめた。するとたちまち、にたぁっと笑みを浮かべ、手をメガホンにして息を吸い込む。


「ボースゥゥ!!スク先輩がなまえ犯しかけて「違ェェェェ!!!」…っせー!王子の鼓膜破けたらどーすんだよ」
「俺の命には代えられねぇ!!」
「あ、そうだベル、ベルのご指導ご鞭撻が役に立ったよ!」
「ハ?何の話だよ。つーか、お前、ししし!エロいね」

無事生還
ドゴォォン…!!(…いや、まだ命の危機は続行中だったわ)

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