両親が「結婚20周年記念!世界半周旅行~二人の愛を深める旅ツアー~」(お父さん命名)に出発してから1週間が経った。私が以前から思ってた、もしかしたらあの二人アホなんじゃないかなという疑惑が、疑惑から確信へすり替わったのもちょうど1週間前だ。
では、少し回想でもしてみましょうか。



「私まだ高校生だよ!それなのに、なのに」

「大丈夫よ」

「どのへんが大丈夫なの?お母さん!」

「あなた家事も洗濯もちゃーんと一人でできるじゃない」

「それはお母さんが半年前から急に鬼のように叩き込んでくれたからで……ハッ!まさかあの時にはすでに…」

「ピーンポーン!お母さんって計画的でしょ偉いでしょ」

「計画的なのにバカだよ、もう」

「やだわ、なまえ。泣いちゃだめってずっと言ってるじゃないの」

「泣きたいよこんな現実」

「とにかく、何があっても泣かない事。でももし仮に間違って人前で泣いてしまったらとりあえず逃げなさい。お隣にでもいいわ。きっと匿ってくれるから」

「ばーか!もう。……気を付けてね、怪我しないように、ね」

「ふふっ、可愛い私達の娘。手紙送るわ」

お母さんは私を抱きしめるとおでこに唇をくっつけた。我が家ではこれはわりと普通の事で、それはお母さん達がずっと外国暮らしだったからだと思う。
日本の一般家庭で生まれ育ったお母さんはイタリア人のお父さんと結婚した。出会いは並盛中だとか言っていたけどそのあたりのことはホントかどうか良く分からない。

「ただいまー!マイハニー、準備はできてるかい?」

「おかえりあなた。ばっちりよ〜!」

とりあえず、この二人は100年先だってこの通りラブラブなんだろうと思う。
呆れかえって言葉も出ない私をよそに両親二人はこれから行くアラビアンな世界やトレビアンな幻想にうつつを抜かしているのだった。

「じゃあ、行ってくるよなまえ。お土産はたくさん買ってくるからね」

「いつでも電話していいのよ!家のことは任せたわ」

にこにこにこ。うちの親は非常に能天気なのである。こういうわけで、私の心細い一人暮らし生活は始まったのだった。

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