チラチラ動く鈍い灯りで目が覚める。灯りはあたたかな暖炉の火で、真横に傾いた視界と右頬の下の柔らかい絨毯の感触から自分の状況を思い出した。

「寝ちゃったのか」

あったかかったし暇だったからな…。
――今日もまた誰にも会えなかったな。
残念がる気持ちを隠しながら体を起こす。すると、肩にかかっていたものがパサリと落ちるのが見えた。私は思わず、あっと声を洩らした。肩にかかっていたのは、見覚えのあるヴァリアーの隊服。持ち上げて、すんと鼻をひくつかせてみる。


「XANXUSだ……!」

私が眠っているうちに来てくれたんだ。


そう思うと残念な気持ちより嬉しい気持ちが込み上げて、私はぎゅっと隊服を抱きしめる。(会いにいこうかな。でも、部屋を出るといけないんだった。)パチパチと時折薪が鳴るのの、隙間に、暖炉とは反対側からカランと何かの音がした。私は、その時ようやくこの部屋に自分以外の人間がいることに気が付いたのだ。


「XANXUS!!」

ベッドの淵に腰かけてグラスを傾けるXANXUS。カランと鳴ったのは、グラスの中の氷であった。
私は急いで起きてXANXUSに駆け寄っ…――寄ろうとした。のだが、長い間横たわっていた所為と、治りきらない傷の所為でその体は大きく傾いた。
「チッ」
「わあっ」
しかし、床に倒れ込む前に視界は白いもので覆われる。
それはふわふわの長い毛。低い唸り声。美しい鬣。


「ら、ライオン…!?」

そのライオンは私が再び身体を起こすのを待つと、大きな尻尾を左右に一度揺らしてのっそりのっそりXANXUSの傍へ歩み寄り、彼の足元に身を横たえてしまった。


「……」
「何をぼさっとしてやがる」

久しぶりに聞くXANXUSの声に、ライオンの衝撃から目を覚ます私。
「だ、だって…私ライオン見るの初めてで」それに、絵本や図鑑やテレビで見たライオンよりずっと綺麗。

「……ライオンって飼えるんだ」
「カス。匣兵器だ」
「ぼっくす?」
「……いや、いい」
思い直したふうに首を振ったXANXUSは、指先で私を呼んだ。それに従うと、XANXUSは持っていたグラスを近くのテーブルに置いた。


「あの、これありがとう」
「俺のじゃねぇ」
「XANXUSの匂いがした」
「…犬かてめぇは」
「つ、」

不意に伸ばされたXANXUSの手が、私の頬に触れた。その手が敵意を持っていないと分かっていても、少しだけ心臓がヒヤリとしてしまうのが申し訳ない。XANXUSはそれを分かっているようで、つとめて、ゆっくりと手を動かしてくれた。
湿布のあてられた頬と、多分青痣のできている口の端。


「痛ぇか?」

「え!」
まさかそんな言葉を貰うとは思っていなかったものの、咄嗟に大きく首を振る。
「全然痛くないよ!」
「…」
「だってもう治、」
その言葉の先を紡がせないように、意志を込めてXANXUSの掌が私の口を覆う。

「……てめぇに見せたいものがある」
「え、」
「ついて来い」
そう言って立ち上がったXANXUS。
「部屋から出てもいいの?」
「俺と一緒ならな」
そうか、XANXUSが一緒ならこのお屋敷に危険なんてないんだ。
「うん!」
先を行くXANXUSの傍にぴったりとくっついて歩く。
使用人の人達や、見知らぬ隊服の人達は私を見て、驚いていたけどでも大丈夫だ。だってXANXUSが一緒だから


「ここから中庭に出られる」
ある扉の前でXANXUSは立ち止まって言った。
「中庭」
「……開けてみろ」
言われるがまま、私はその扉の取っ手を引いた。

きい、

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