「どうしたツナ?ぼーっと突っ立って」
「リボーン…」
「誰から電話だったんだ?」
「XANXUSだよ」
「XANXUS…?」
「桜を持って来いって」

受話器を見下ろしながら、綱吉は真剣な表情で零した。

「桜は時期じゃないから咲いてないって言ったんだ。…そしたら種でもいいから送れって」
「……」
「リボーン…。俺、何だか胸騒ぎがするんだ。」


XANXUSの声は静かだった。静かに、でもあれは確かに切実な頼みだったのだ。

「…」

考え込む綱吉を彼の足元から見上げ、リボーンは細い溜息を吐いた。
――そうだな。
お前に隠す事に、意味なんかねぇな。

リボーンは瞼を落として口を開いた。
今イタリアで起こっている悲劇と、その全貌を。リボーン自身の独断で。―――すると綱吉はゆっくり立ち上がった。

「この事は、まだ獄寺君達には言わなくていい。」


綱吉の中で全ての糸が繋がった時、既にその答えは出ていた。
自分の要求を必ず果たそうとするヴァリアーの部下達でなく、綱吉にそれを頼んだのは、恐らく誰にも知られたくなかったから。自分の、あまりに自分らしくない行いを。



「――早咲きの…狂い桜を借りに行こう」






***

その日、ヴァリアー邸にはボンゴレの開発した超スピードノヘリで桜の木が届いた。差出人は不明。XANXUSに宛てられたカードには「枯らさないように。」と一言綴られていた。

「…」

そのカードを、XANXUSは燃やさずに机に伏せた。

「いかがいたしますか」
「…裏庭に埋めろ。」
「はっ」

部下に命じて、すぐに部屋を出る。

意図して近寄らなかったその部屋の扉を開けるのは、思うより、ずっと単純な動作だった。

「…」
しかし、部屋の主がXANXUSの訪問に反応を示す事は無い。
なぜならなまえは、暖炉の前の絨毯で丸まるようにして眠っていたからだ。


「おい」

僅かに距離を詰めて呼び掛けても、やはり返事は無い。小さく上下する肩を見て、無意識のうちに生死を確認した。
薪は随分前から足されて居なかったらしく、炭の奥が僅かに赤みを帯びているのみで、ほとんど暖炉は役割を果たせていなかった。

XANXUSはなまえを見下ろす。
つい一昨日まで独房に閉じ込められ拷問を受けていたとはとても思えない、安心しきった表情がそこにはある。

「…痛ぇのか?」


口に出してから、XANXUSは即座に馬鹿な真似をしたと後悔した。その問いは愚問であったし、痛みすら押し殺して笑うなまえを、もう何度も見かけていたからだ。


「いたい」
「!!」
起きてやがったのか、と思ったのはつかの間、XANXUSはすぐにそれが寝言だと分かった。
なまえの呼吸に乱れはなく、閉ざされた瞼から木賊色の双眸が覗くこともない。加えて、なまえはXANXUSの問いかけに答えたわけではなかったのだった。

「ひとりはいやだよ」

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