グロ有。閲覧要注意!





暗闇の中、黒革のソファにゆったりと腰かけながらグッチオは微笑んだ。興奮を抑えられないようにしきりに時計を気にしては、ずいぶん白の混じった髪をいじくって、また時計を見た。(――ついに来た。)グッチオは襟元のマイクを引き寄せて、低く囁く。
「出陣だ、お前達。」
その途端、森の奥深くにある廃工場の壁が、男達の雄叫びで揺れた。グッチオも同場所の別室にて、それを感じて、いる。――――はずだった。
「…?」
いくら待っても男達の血に飢えた雄叫びは耳に届かない。もう一度呼びかけてみるも、応答はない。
「マイクの故障か…。仕方ない、私直々に指示を下しに行くとしよう」
重々しく腰を上げたグッチオは、昨日と一昨日に集めた、ボンゴレに恨み辛みを抱く者達の集う広間に向かった。

その最中で、彼はボンゴレを潰した後の優雅な生活を思い浮かべていた。
まずは屋敷を立て直そう。新しい車を買い、一流のシェフを雇うのもいい。企業はまた立て直す。私にはそれができる実力がある。なにはともあれ、まずは邪魔なボンゴレから消すとしよう。
鼻歌交じりに心でそう呟き、グッチオは広間の扉を開けた。
月明かりの漏れこむ広間の景色は、例えるなら地獄のようであった。


「な、なんだ、これは…!!」
肉塊と化した男達。その殆どが巨体を地に伏せて絶命していたが、数人は壁や天井に吊るされるような形で殺されていた。グッチオは言葉を失い、五感の全てを奪うような異臭に耐え切れず嘔吐した。(なんだ…どうなっている…!!)
その時、グッチオの足に肉の削げた男の腕が絡みついた。
バランスを崩したグッチオは血の海にバシャリと倒れ込み、振り返って悲鳴を上げた。なんと、屍となったはずのグッチオの手下が、血まみれの姿で自分の足を掴んでいるではないか。
「お、ば、えも、ごろざれろ゛」
「う…うわぁぁあああ!!」
男の顔を蹴って立ち上がったグッチオは駆け出すが、目の前には次々と死んだはずの手下達が立ち塞がり、いくつもの憎しみに満ちた目に見つめられてグッチオは発狂した。もう何が起こっているのかすら、解らない。そんなグッチオの片目に、突如激痛が走る。

「ぎゃあぁあぁぁぁああ」
「しっししし…王子と、目ん玉くりぬきゲームしようぜ」

もう片方の目で、自分の眼球が抉られて持ち去られていくのが見えた。痛みに喘ぎながら残った目で辺りを見回すと、自分のすぐ傍に金髪の青年が立っているのが分かった。
「お、まえぇはぁ」
「ベルフェゴールだよ」
その手には炯炯と輝くナイフと、白くぬらついた自分の眼球。グッチオはベルに背を向けて走り出したが、数歩も行かないうちに自分の体が大きく傾いだのが分かった。
「ししし…逃がさねーって」
「うわあぁああ」
ワイヤーで吊し上げられた自分の、切断された膝から下。最早グッチオに抵抗の術は無かったが、それでもなお身を護ろうと、彼の手は服の中の拳銃に伸びた。――しかし数秒後には、その腕すらもスパッと切り落とされる。グッチオは今度こそ絶叫した。剣に血をしたたらせたスクアーロは耳煩わしそうに舌打って、その血を払った。
「あ、ああ…ああああ」
「テメェはもう終わりだぁ」
「お、まえら、ぁぁ!ヴァリアーだな、こん、こんなことをして、ただで!ただで済むと、おもっ、ぼ」

「ドカスが」

低い、低い、地獄の底から這いあがってきたような声。
拳銃を口に押し込まれたグッチオは、全身を襲う気の遠くなるような激痛の中でXANXUSの姿を見上げた。
目にした瞬間に決定的な死を悟ってしまう程の威圧感。それと同時に湧き上がる畏怖の念。グッチオは吐瀉物と涙で無残になった自分の顔をXANXUSに向けながら、彼らの静かで巨大な怒りを全身に感じていた。

やがてXANXUSは口を開く。



「あいつはテメェを赦すだろう」


誰と聞かずともグッチオの中には一人の少女の姿が浮かんだ。理由は知らない。
「両親を利用し、死に追いやり、自分の人生を狂わせた男を、それでもあいつは赦すはずだ。だから俺達はテメェをあいつと合わせるなんて真似はしねぇ。

死んで償え。話は それからだ。」

XANXUSの銃弾を受けて完璧に絶命したグッチオは、死の寸前、愛らしく微笑む少女の姿を思い浮かべた。過去に一度だけ言葉を交わした事のある少女は、幼い姿のまま、いとけない表情でこちらを見上げている。
「こんにちは、おじさん、あったかいココアをのむ?」
「こらなまえ!」
「ごめんなさいね、グッチオさん。でもいかがです?」
「はは。…この子のココアは案外評判がいいんですよ」


次いで、心の美しい二人の夫婦の姿も。
グッチオの頬に涙の筋が伝った。
(走馬灯の代わりにしては、随分と幸福過ぎる思い出だ。)

先程まで怨みと欲にまみれていた心に、白い光がなだれ込んでくるようだった。グッチオは身勝手と知りながらも懺悔した。どうかあの少女に幸福が訪れるようにと、心の底から、そう願った。



救世と浄化論



「カエル、てめー仕事ちゃんと終わったのかよ」
「終わりましたー。全てが中途半端なベルセンパイと一緒にしないでくださーい」

フランは言う通りちゃんと職務を全うしたようだ。廃工場を出たところにある草むらには、猿ぐつわと鉄の縄で縛り上げられている男達が大勢転がっていた。それを脇目に通り過ぎ、二人は屋敷までの道のりを並んで歩いた。XANXUSとスクアーロはその足で本部へ向かった。

「あんなんしなくても、もう抵抗なんてしねーと思うぜ。しししっ」
「そりゃああんだけ自分がぐちゃぐちゃに殺されるシーン見せられたらそうなりますよねー。」
「上も甘いよな、生け捕りとか」
「ですね。あー、あのゾンビ案どうでしたー?ミー的に中々スプラッタな仕上がりにしつもりでしたけどー」
「ししし。上出来じゃね?あいつ失禁してたし」
「なーんだ。その程度ですかー」
「幻覚なんだから充分だろ?調子乗んなカエル」
「げろっ」
「つーかこれいる?」
「げー…何ですかそれー」
「あいつの目ん玉」
「センパイ相変わらず悪趣味ですよね」
「ししし」
「…」
「…」
「…」
「…おい泣くなっつーの」
「泣いてませんー」
「じゃあその目と鼻から出てるの何だよ」
「ミーの体液ですけど」
「早く拭けって。オマエほんっとガキ。王子ガキ嫌い」
「ベルセンパイも十分ガキじゃないですかー」
「は?」
「隠してもダメですよー。さっき目赤いの見えたし」
「…死ねクソガエル」
「死ね堕王子。……、ぐず」
「…はぁ」


フランは滅多に泣かないが、全く泣かないわけではない。映画もので感動すれば泣くし、ベルにナイフで刺されても(生理的に)泣く。
「…」
しかし、ベルの知る中で、今回のフランは本気で落ち込んでいるように見えた。

「しかたねーだろ、やっちまったもんは」
「わかってますー」

月明かりに照らされた道は、ぼうっと輪郭を滲ませた。

「…ミーは感情豊かな方ですのでー、勝手に出て来ちゃうんですよー」
「どこがだよ」
「はあ。こんな後味悪い仕事初めてですー」
「王子も」
「ヴァリアー辞めてもいいですかー」
「ボスに殺されるっつーか、辞めても行くとこねーだろ」
「………なまえは」
フランは隊服の袖で目元を拭ってから静かに呟いた。

「なまえは、どこへ行くんでしょうね」

top
×