どこかで授業エスケープに興じていたと思われる阿含が、血相を変えて教室に戻ってきたのは、昼休みより少し前の話だ。
「あ、阿含君、どこにいたんだね。まだ授業は」
「うっせーカス!それどころじゃねぇんだよ」
明らかな焦りをもって発した台詞に、尋ねたのは雲水だった。

「何かあったのか、彼女に」

双子として長年連れ添った勘とでも言うべきか。
阿含は鞄を肩にかけたまま動作を停止させ、雲水を見やった。雲水の落ち着き払った目を見て、阿含は口を開く。

「……拉致られた、たぶんな」
「何だと…!?」
「電話も通じねえ。分かるのは、攫われた場所だけだ」

それも、もう移動してるだろうが。
心底苛立たしげに吐き捨てた阿含はそのまま窓に向かう。階段二階分と正面口までの距離を省略する気なのだろう。

「阿含!」
「あ゛?」
「俺達も探すのを手伝う。――いいな」

阿含はサングラスの奥で目を細め、数秒逡巡して、口を開いた。

「泥門高校の傍の郵便局だ」

 

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