ぶつぶつと小言を溢しながら噴水の向こう側に向かって行く、噴水係のモン太を見送った。
(作戦開始は20秒後!モン太が走り出したらスタートだ)

ドキドキと煩い心臓に「落ち着け」と唱えてモン太が動くのを待っていると、なまえと阿含さんの方に動きがあった。阿含さんが、なまえに背中を向けるようにして屈みこんだのだ。

(…え?)

なまえは困ったように眉を下げて何か言っている。
その唇の動きを読もうと目を凝らしたところで、向こうから全速力で噴水に向かうモン太が見えた。

や、やばい!!僕も行かなきゃ!
でもあの二人の雰囲気…カツアゲとか、そんな殺伐とした感じじゃないような…


そんな気持ちがよぎった時、なまえがふふふっと可笑しそうに笑うのが見えた。
「!」
驚いて思わず足を止めたセナの目には、なまえをおぶって立ち上がる阿含の姿。その阿含の口元も、心なしかゆるんでいるように見える。


(ま…まずい。モン太、ごめん)

「作戦…中止でいいかも」セナのそんな些細な呟きがモン太の耳に届くはずもなく、噴水では激しい水しぶきが上がった。
なまえは何事だと身をすくめたようだが、阿含は特に気にしたふうもなくこちらに向かって歩いて来ていた。「どっかの馬鹿が落ちたんだろ。」うん、もう会話も聞こえる距離だ。


「あれ?セナ君」
「!!」
「…テメーは泥門の」
「あ、あああ!あ、阿含さん!それになまえ!どうしたの!?奇遇ですね!あはは」
「セナ君汗いっぱいかいてるけど大丈夫?」
「え!?う、うううん!大丈夫!」

や、やっぱり勘違いだったんだ!
カツアゲだったらなまえこんなに余裕そうじゃないよねフツー!助けてとか言うもんね!ごめんモン太!


「ふ…二人はこれからどこへ?っていうか、なまえはどうしたの?」
「あ゛ー?何でそんな事お前に言わなきゃなんねェんだ?」
「ファミレスだよ!わたしはね、腰がぬけたの。あだっ」
「テメーも何ベラベラ喋ってんだよ」
「痛いよ…阿含さん…」

阿含の後頭部での頭突きを額に食らったなまえは中々のダメージらしく、額を抑えながら呻いていた。


「行くぞ。」
歩き出した阿含の背中でよろよろとバランス保ちながら手を振るなまえ。

「じゃーね!セナ君!6時までには帰るからってよー兄に伝えといてね!」
「あ゛?帰さねェよ」
「だめですよ!だって夜ご飯の仕度をしなきゃ」
「アイツはカップ麺で十分だ」

「う……うん。バイバイ」

遠のいていく会話と二人の姿を目で追いながら、弱々しく手を振るセナ。
なまえと阿含の関係を深く思案するその傍らで、背後からビシャッビシャッと近付く音の主に何と説明しようか、セナの脳内はひっきりなしにフル稼働であった。

 

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