幻惑の国・ロトリア、宙の月――
空には満天の星空が輝いていて、その下で歩く私たちはというと……
「「トリック・オア・トリート!!」」
「お、可愛いオバケさんだ。ほら、お菓子だよ」
「「わーい!!」」
オバケの仮装をした双子を見守りながら、お菓子を配っていた。
「収穫祭とはな……バケモノに仮装し魔を払う儀式というのは、なかなかに興味深い」
「秋の収穫を祝うお祭りの一環なんですよ。特に子供は邪気などを引き寄せやすいということもあり、それを取り払う習慣の一つでもありますね」
吸血鬼の仮装をするアポロに、魔女の仮装をしている私は人差し指を立てながら話をする。少し離れた場所では、お菓子が入ったバスケットを手にしている黒い羽根の模型を背負う悪魔の格好をしたアスクが子供たちに囲まれながらお菓子を配っていた。
「それは、お前が暮らしてた土地での習わしか?」
「はい。ハロウィンと呼ばれていました」
私やアポロ、それにアスクに双子のサラとレオンと共にこのロトリアに足を踏み入れたのはつい今朝方のこと。
今日行われる収穫祭の知らせを、ロトリアの王子であるロルフ君から招待状付きで受け取ったのが全ての始まりだ。ここ最近は公務に明け暮れていて、家族団らんの時間を取ることが出来ないでいたのを気がかりにしていたから、ロルフ君の好意を有難く受け入れたというわけだ。
ここ最近の状勢は平穏そのもので、国内の警備も厳重にすることが出来たし周囲からの脅威に怯えることも少なくなった。だから、公務が少なく休日を連続して取るには今の時期が打ってつけだと思ったのも理由の一つと言えるだろう。
ロトリアでの収穫祭に参加するのは、実を言うと私以外の家族は全員初めてだ。私の場合、ウィルさんに誘われて彼がプロデュースした『恐怖の収穫祭』に参加した経緯がある。昔のことになったとはいえ、彼がプロデュースした収穫祭の空気は今も引き継がれているらしい。
そのことも手紙に書かれていて驚きながらも、皆に「一緒に収穫祭に行かない?」と提案した。すると、満場一致で参加するという結論に達し、今に至るというわけだ。
特に双子は、仮装衣装を選ぶのがとても楽しみだったらしく、準備に相当時間が掛かったなぁ……
「お前が暮らしてた土地と習わしが似ているというのも、もしや発案者は……」
「ふふ、一体誰なんでしょうね〜」
十中八九、私の想像しているハロウィンのイメージが少なからず入っていることは否定しない。
元々収穫祭の風習は根付いていたけれど、それに少しだけスパイスとして私の過ごしてた場所での習わしを取り入れただけのこと。
そのことに気付いてなのか、アポロはこれ以上追及してこなかった。いや、追及できなかった、と言ったほうが合っているのかもしれない。
「トリック・オア・トリート!」
「ほう? 狼男の子供か、なかなかに似合っているぞ。そら、目当ての菓子だ。受け取れ」
「わーい!」
そう、こうして行く先々で仮装した子供たちに大人である私たちは用意したお菓子を配っているのである。
この行事は、一般人も王族も関係ない大規模なイベント。それに加えて遠方から来た私たちの素性を知る者はほとんど居ないということもあり、こうして城下を家族揃って歩きながらハロウィンの賑わいを楽しんでいた。
「父上ー! 母上ー!」
「おなかすいたー!」
すると、色とりどりのお菓子を籠一杯に入れた双子が仲良く駆け寄りながら私たちの足にしがみついてきた。
「確かに、少し腹が空いたな。丁度いい出店がいくつかある、食事にしようか」
「うん! そうしよー!」
そんな話をしながら、手持ちのお菓子が尽きそうになって子供から逃げているアスクと合流した私たちは、出店で出しているかぼちゃのスープにパンプキンタルト、大きめのかぼちゃを丸ごと使用したオーブン焼きの料理を購入し、広場に設置されてる木製の椅子に座りながらテーブルに広げていく。
「「おいしそー!!」」
「ビックリするほどカボチャばっかだな……」
「収穫祭だもの、当然でしょ?」
収穫祭の習わしが根強いロトリアだ、料理も種類が豊富で見て飽きない。
かぼちゃのオーブン焼きを事前に頼んだ取り皿に分けながら、子供たちに振舞っていく。
「ん、なかなかに美味いな。くり抜いたかぼちゃの中に米が入ってるのか……」
初めて口にする料理に、アポロは目を丸くさせながら頬張っていた。
「炒めたお肉にチーズも入っているからか、とても美味しいですね」
「タルトも美味しいよ〜!」
「美味しい、美味しい〜!!」
「口からボロボロこぼしながら騒ぐなってば……」
普段以上にテンションを上げてる双子に、長男のアスクは呆れながらも世話を焼いているみたい。
随分と双子の扱いも慣れたようで、普段と変わらない動作で双子を見守ってくれている。
そんなアスクだから、レオンもサラも酷く懐いているのがよく分かる。兄弟仲が良い光景に、アポロは瞳を細めながら優しく見守っていた。歳の離れた兄と不仲ということもあって、自分たちの子供……特に兄弟の仲は良好であれるようにと気にかけていたから。その功を成した光景を前に、彼はとても満足そうに見て取れた。
「食べ終わったら、近くにハロウィンのアトラクションがある広場に行ってみましょうか。お化け屋敷もあるみたい」
「お化け屋敷!?」
「行く行くー!!」
そんな話をしながら、購入した食事を平らげていく私たち。周囲から「トリック・オア・トリート!」という元気な声が響いていく中、食事を済ませると多くの人たちが賑わう広間へと足を向ける。
目的地であるお化け屋敷に到着したレオンとサラはというと、中に入って早々に想像以上に怖かったからか甲高い声を上げながらアスクにしがみついてベソベソと泣き出してしまい、お化け屋敷の外で出迎えた私とアポロが双子をあやして落ち着かせたのは、また別の話になる。
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