Side アポロ
収穫祭の存在は知っていた。后の話を耳にしていたことも理由の一つではあるが、城下で暮らしていた民たちが遊びに行っていたという話を耳にしていたからだ。

俺にとっては無縁だとばかり思っていた行事を、こうして家族と共に過ごせているこの奇跡に俺は心の中で感謝した。

幼少時代に過ごせなかった、家族との時間……こういう季節行事に足を運べるというのは、とても新鮮で貴重で……尊いものだ。


「おかえりなさい、皆さん。収穫祭はいかがでしたか?」


お化け屋敷からの帰路、俺たちはロトリア城へと足を踏み入れていた。

招待状を送ってくれたロルフ王子のご厚意もあり、この城の客間で数日過ごすこととなっているのだ。収穫祭が開かれている間だけではあるが、俺たちを快く城に招いてくれた王子に感謝する。


「とても楽しかったよ、今年の収穫祭も怖かったわ」

「そうでしたか! 今回もウィル王子にプロデュースしてもらった企画がいくつかあるので、その影響も大きかったかもしれません」

「あー、成程……」


ホラー映画の監督として名を轟かせている映画の国・ケナルのウィル王子と面識があるロルフ王子は、この収穫祭を催すにあたり毎年彼に依頼を出しているようだ。

当の本人もノリノリで了承しているらしく、この収穫祭で得られる会場の空気や雰囲気を映画作成の題材にしているらしい。


「夜も遅いですし、寝室に行かれますか? お風呂もご用意してますけど……」

「なら、入浴を済ませるとしよう。用意してもらった好意を無駄にするわけにもいかんからな」


お化け屋敷から出てからというものの、震えあがる双子を落ち着かせるためにも家族揃って風呂に入るのが一番手っ取り早い。

俺の腕の中にしがみつくレオンを撫でながら、妻の腕の中に収まるサラの頭を撫でながら、俺たちはメイドに案内されながら浴場へと向かうのだった。その背後で、アスクがロルフ王子に一言二言何かを話していることに気付かないまま……









家族揃って入浴するというのも悪くないな。風呂場で気分転換が出来た双子と共に身体を洗い合い、湯船に浸かったりと身も心も温まりきった俺は、バスローブ姿で家族と共に廊下を歩いていく。

案内人として先導してくれる執事が、見えてきた扉の前に立つ。


「こちらが、アポロご夫妻のお部屋。お隣がアスク王子様たちのお部屋となります。何かご不便なことなどありましたら、遠慮なくお声がけください」

「ん……?」


深々とお辞儀をする執事に、俺は何回か瞬きをする。

部屋を二つ、わざわざ用意してくれたと言うのか? 后の話によれば、家族で広い部屋一つを頼んだと聞いていたが……


「んじゃ、そういうことだから。俺たちはこっちの部屋で寝るからな」

「アスク……」

「たまには、俺たちを気にしないで夫婦仲良く過ごすのもアリだろ? じゃ、そういうことだから」


アスクは手をヒラヒラと振りながら、寝むそうに歩く双子を連れて行きながら隣の部屋へと消えていく。

何処かのタイミングで、ロルフ王子にでも頼み込んだんだろうな。妙な気が良く回るのも、后の影響があるからだろう。


「折角の好意だ、使わせてもらうとするか」

「え、あ……そう、ですね」


后もこの展開が予想外だったらしく、目を白黒させながら驚いているのがよく分かる。

そんな彼女と共に部屋に入っていく。部屋には大きなベッドが一つ、窓際に洒落た長いソファが置かれていた。


「私、ロルフ君には大きな部屋を一つしか頼まなかったんですけど……どうして……?」

「まあ良いではないか。偶然出来た二人きりの時間だ、有意義に過ごすとしよう」


そっと、彼女の腰に手を回しながらソファへと誘導していく。

子供たちが生まれてからというものの、日常の公務だけでなくプライベートの大半をアスクや双子の為に費やしていることもあり、こうして二人きりで時間を過ごすということが少なくなっていた。それを気にしてかは知らんが、アスクが時々こういう気を遣うことがあるわけだが……それに后が気づいていないというのもおかしな話だ。ま、俺が分かっていれば別に構わんだろう。直接話さなくても良い範囲だ。


「なんだか、こうして貴方とゆっくりと時間を過ごすのも……久しぶりですね」

「公私共に忙しなかったからな……子供が出来てから、尚更だ」

「はい。とても充実して、賑やかで、楽しい忙しさでしたからね」


外では、収穫祭の賑わいが続いているからか大人から子供までの様々な声が飛び交っている声が聞こえてくる。


「お前はいつも子供たちのことばかりに気を回しているからな、たまには構ってもらえないと寂しいぞ」

「ごめんなさい……でも、そう思っているのは私も同じなので。おあいこ、ですよ」

「そう切り出してくるか……」


互いに笑い合いながら、そっと手を握り合い、彼女が俺の肩へと頭を預けてくる。

子供が出来てから、彼女の優しさや温かみに一層の磨きがかかったな、と思いながら……ふと、ある言葉を口にした。


「トリック・オア・トリート」

「え……?」


突然の言葉に、彼女は目を丸くさせながら俺へと顔を向けてくる。


「この言葉は、子供しか使ってはいけないと聞いてはいなかったからな。さて、我が妻よ……菓子を貰おうか」

「い、今ですか? 用意なんてしてませんよ……!」

「あるではないか、俺にとって……極上の菓子がな」


ニヤリと笑みを浮かべながら、つつつ、と指を彼女の首元を滑っていき……バスローブ越しからふくよかな胸の頂へと滑らせていく。

俺が言わんとしていることが分かったからだろう、頬を染める彼女は俺の手へと自身の手を添える。


「わ、私をあげるから……その代わり、私に貴方を、ください」

「ああ、嫌というほどくれてやる」


トリック・オア・トリート――

そう囁き合いながら、場所をベッドへと移すと久方ぶりに感じる互いの熱を求めていくのだった……
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