Side 姫
鏡紅の国・フレアルージュ、蒼の月――

アポロがフレアルージュ王となってから、国の体制が劇的な変化を遂げていた。前王であるアポロの父親と兄による悪政は、まだ完全に取り払われ切れてはいないけれど、それでも民たちは彼の力になろうと奮起し、王族と民による二人三脚は道半ばだ。

最初に着手した重税は、日を追う毎に額を減らしていきながら民たちが安定した暮らしができるように計らったことが大きな功績となり、他国との商談もスムーズに進みながらフレアルージュの名が知れ渡るようになっている。

そして、今日はアポロと第一王子であるアスクが城門前で馬の手綱を手にして立っていた。


「では、行ってこよう」

「すぐに戻ります」

「道中気を付けてね」


公務の予定の中に、定期的に街や民家を訪問し、民の声を直接聞いたり農民たちの収入源である穀物の収穫量の調査をすることがリストにある。今日はその定期観察をしに、アポロとアスクが手分けして各地に向かう手はずになっていた。


「「いってらっしゃーい!」」


双子のレオンとサラが、元気よく声を揃えながら手を振って父と兄を見送る。

馬の跨る二人が、のんびりとした足取りで城門をくぐっていくのを見送っていると……後ろからメイドの方が声をかけてくれた。


「奥様、お二方は行かれましたか?」

「はい。戻ってくるのは夕方頃になるかと……」

「それでは……早速始めましょう!」


キラーンと目元を輝かせるメイドに、双子も揃って目元を輝かせる。


「「パーティーの準備だー!」」

「それでは、各自抜かりのないようにお願いします」

「はい!」


そう――今日はアポロとアスクの誕生日だ。

メイドや料理長と相談を何回か行い、二人が公務に出かけた瞬間を狙って準備をしようという計画が練られていた。大広間に民や同盟国から頂いた祝いの品を並べ、部屋を大々的に飾り付けを行い、豪華な料理を並べて二人を驚かす……というのが、今日の流れだ。


「父上と兄上を驚かすんだ!」

「驚かすんだー!」

「はいはい、そうするためにも私たちがすることは?」


ウキウキさせながらはしゃいでいる双子に、人差し指を立てながら私が問いかけると……満面の笑顔を私に向けてくれた。


「「ケーキを作るのー!!」」

「ふふ、そうだね。じゃあ、張り切って作りましょう」

「「はぁーい!!」」


もう十分に大きくなったとはいえ、まだまだやんちゃなお年頃の双子だ。今後は内政や公務のこと、兄のアスクの後を追いかけるようにフレアルージュを支えていくことになっているとはいえ、まだ国を背負っていくことの責任というものに対する自覚が低いのが現状だ。

すくすくと育っていく双子を見ながら「国を背負わせるには、もう少し先でも構わんだろう」と穏やかな表情を作りながら
話してくれたアポロの言葉を思い出す。

やんちゃな振る舞いが出来るのは今のうちだから、そんな貴重な時間は自分が思うように日々を過ごしていってほしいことも、アポロは話してくれていた。


「今年は僕が飾りつけするんだからな!」

「いいよ! 私はスポンジ作るからねー!」


双子にとって、父と兄の生誕を祝うこの日は特別なものになっていた。国のことを想い、民からの信頼を勝ち取る背中をずっと見てきた彼らにとって、二人の存在は憧れであり誇りある家族だからだ。

そんな二人の、偶然にも重なった誕生日を祝えるというのはテンションが上がる要因にもなっていて……尚更お祝いする気持ちに熱を感じずにはいられないのだ。

去年はクッキー、一昨年は手作りのハンカチ……二人を驚かすことをしたい、という一心で行動をする二人の行動力はすさまじいもので、時にはメイドに料理長までもを巻き込んで作り出した『プレゼント』に、彼らは驚きながらも受け取ってくれる。

その瞬間が、たまらなく嬉しいのかもしれない。贈る側も、受け取る側も……


「それじゃ、一緒に厨房に行きましょう。怪我しないように、気を付けるのよ?」

「「はぁーい!」」


城中に響く双子の明るい声に、仕事に励むメイドや執事たちは優しくて暖かな眼差しを向けてくれる。

以前のような殺伐としたものではない、誰もが持って当たり前の優しい空間が溢れていく中……私は駆け出す双子の後を追いかけるべく速足で厨房へと向かうのだった。
 
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