愛すべき妻を迎え、こんな俺にも子供を授かることが出来た。子供がいるだけで城内はとても賑やかになり、今まで感じたことのない暖かさに包まれてから月日が流れる。
第一子・アスクが誕生してから数年後に、なんと彼女は双子を腹に宿して俺を驚かしたのだ。出産の際も、アスクの時以上の時間がかかり傍で見守ることしかできなかったのが非常に悔やまれる。
元気な産声を上げながら、男女の子供が俺たちの前に姿を現してくれた時……また新しい家族を迎えられて酷く嬉しく思ったものだ。
控えめな産声を上げた男児にはレオン、自己主張が強く暴れまわる女児にはサラという名前を、我が妻たっての願いによって付けられることとなった。
双子の育児というものは、アスクの時以上に分からないことが多く……乳母の手を借りながら、俺や姫は仕事をしながらも懸命に子育てに励んでいく。
子供の成長はめまぐるしく、ふと気付けば双子はすくすくと成長していった。ようやく両手で数えられるくらいの年頃までに大きくなったのだ。アスクはというと、政務や交渉といった俺が主にこなしている仕事を手伝うようになるくらい成長を遂げていたことに驚いた。
もう少し大きくなったら、一人で政務に励ませるのも良いかもしれんな。
そんなことを思いながら、日々の生活に流れる幸福に包まれていたある日のことだ……
「父上、王都からお手紙が届いています」
「ほう?」
家族団らんの時間を満喫している休日のこと、眉間に皺を寄せるアスクが俺へと手紙を渡してきたのだ。差出人は王都に住む父と兄からで、内容など中身を見るまでもなく大方見当がついてしまう。
「アスク、この手紙には何が書かれていると思う?」
「そうですね……差出人が祖父と伯父のものであるから、俺らの住んでいるこの土地の税金値上げの件が一番濃厚かと思います。つい先日、王都の方で暴動が起きたばかりですから」
「成程な」
俺の手伝いをするようになったからか、フレアルージュ内の情報は勿論のこと周辺各地の国で起きている情報までも集めてはまとめている姿を目にしたことがある。国内・国外問わず、自分の役に立つ情報を一つでも多く収集しているのだろう。実に賢い男に育ってくれたものだ。
そう思いながら、封を開けて中に入っている手紙を広げて文字を読んでいく。その内容に、俺は眉間に皺を寄せたのだ。
「父上……?」
「アスク、母と双子も呼んできてくれ。これは彼女たちにも耳にした方が良いものだ」
「は、はい……!」
事は急を要することだと理解してくれたようで、アスクは離れた場所で双子の相手をする彼女の元へと駆け足で向かった。
そして大まかな話を聞き、心配そうな表情を浮かべながら双子と一緒に俺の元へと近づいてくる。
「アポロ、お手紙が来たということだけど……」
「ああ。父と兄から、王都に来いという内容のものだ」
「王都へ?」
首をかしげる彼女へと手紙を差し出しながら、アスクに分かりやすいように説明をする。
「我が父・フレアルージュ王が高齢なのは知っているな?」
「はい、先月の会合の際にお会いした時は年齢特有のボケが出てきていました。政務にも支障が出てきていると推測しますが……」
「その父が、近いうちに王の席から外れることとなったのだ」
つまり、隠居生活に移ろうとしているということだ。それを行う上で準備を家臣たちが行っているのだろうな。その手伝いに兄も加わっているようで、その流れで兄が王の席へと座ろうとしていることは目に見えていた。
だが、それを快く思わない存在が出てきたのだ。このフレアルージュに住んでいる、多くの民たちである。彼らが、不平不満や蜂起を起こしておりそれらの対応にも兄が手を打っているらしい。一時しのぎにしかならない鎮圧が、こうも頻繁に続くとなると周辺各国から争いの火種が飛んできてもおかしくない。そう思った父が、第二王子である俺に声をかけたと……そういうことだ。この状況を切り抜ける突破口を聞くのが目的だろうな。
「――王都へ、いつ行きますか?」
心配そうに声をかける妻に、俺は「すぐにでも出立するか」と応えた。長く待たせたところで、奴らが五月蠅く難癖をつけてくるのが目に見えているからな……
「でしたら、私たちも一緒に行っても良いでしょうか?」
「いや、話を聞いてすぐに戻るだけだ。それほど時間はかからないと思う」
「こういう機会でもない限り、王都へは滅多に足を踏み入れられないのが現状です。レオンとサラにも、王都の空気を感じさせたいと思っていたのですが……あ、ご迷惑でなければ、ですけどね」
そういう言い方をされて、拒む言葉を口にする俺でないことを彼女は知っている。
ハァと大きな溜息をついてから、そっと彼女の頬に触れた。
「俺の傍から離れるな……それだけを守ってくれれば、俺からは何も言わん」
「はい、分かりました」
ふわりと微笑みながら、彼女は瞳を閉ざして俺の腕に甘えるようにすり寄ってくる。大切で、愛しくてたまらない……この女を好きだという気持ちが、結婚もして子供を授かったというのに膨張し続けていくのが不思議で仕方がない。
言葉を交わさず、ただただ触れ合っている俺たちを、アスクは腕を頭の上で組みながら嬉しそうに見守っていて、双子は不思議そうに眺めていた。
♪
家族揃って王都へと行くこととなった。その話を聞いた家臣の方々は、驚かれながらも「お気をつけてください」と優しい言葉をかけてくれたのだ。
この土地を治めている王子が出掛けるとなり、兵士たちが忙しなく動いては「護りは我々にお任せください!」と声をかけてくださる方も少なくない。頼もしくて、頼り甲斐ある部下たちに見守られていく中、私たちは王都へ馬車で向かうこととなった。
レオンとサラにとって、馬車に乗るのは今回が初めてだということもあり忙しなくはしゃいでいるのが微笑ましい。
「みんなでおでかけー!」
「おでかけだー!」
「二人とも、遊びに行くわけじゃないんだぞ。大人しくしてろよ」
「「はーい!」」
「ホントに分かってるのか?」
満面の笑みを浮かべながら、手を上げて元気よく返事する双子にアスクは肩の力を抜きながら大きな溜息をもらす。やっと両手で数えられるくらいの年齢になったのだ、周囲の様子を知らないのは勿論のこと、今から向かおうとしている理由だって分かっていないはずだ。
「私が二人の面倒を見ているから、アスクは父と一緒に話し合いに参加してね」
「え? ですが、ここは俺でなくて母上が同席した方が宜しいのでは……?」
「いいえ、いずれはアポロの……貴方の父の跡を継いで領土を治める主となるアスクに参加してほしい。これも立派な社会勉強ですよ」
それに、こういう行事は若い時に経験しておけば後に活きていくから。若い時に沢山経験しておいたほうが良い、というのは前の世界でもよく耳にしていた言葉だったりもする。
「……王都の客間は広かったはずだ、離れた場所でならば子供を相手にしながら俺たちの話に耳を傾けることもできるだろう。陰ながら母も参加していれば問題あるまい」
「そう、ですけど……」
「なら問題ないだろう、そう不安がることもない」
そう話してくれるアポロの横では、未だに不安そうな表情が崩れないアスクが窓の外で流れていく景色を見つめている。何故そんな表情を作っているのか、理由が分からないまま私たちは王都へと向かって行った。
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