彼女との始まり
俺が彼女を見かけるようになったのは、いつもの日常の中で起きた些細な出来事だった気がする。


「っかぁー! 今日も負けたー!」

「ははっ! 俺に勝とうなんて百年早いっつの」


ダークの名前でショコルーテの城下に足を運び、いつもの場所で仲間と賭け事をして遊んでいた時だ。

今日も俺の全勝で、負けた奴が勝った奴に何かを奢るという罰ゲームをやっている真っ只中。

見慣れた城下でどの店が何を取り扱っているかなんて、大体把握している俺は彼が何をセレクトしてくるのか内心ワクワクさせている。


「それじゃ、ダークも知らないとっておきのモンを取り扱ってる店に案内するぜ!」


ニカッと笑う男は、「あそこの店だ!」と指差しながら俺に話をする。

指された先にある店をよくよく見てみることにしよう。……まあ、何処にもある出店だな。取り扱っている物はアイスが多いようで看板には棒アイスの絵が大きく描かれていた。その店の前には、見慣れない服を着てる奴らが立っている。


「なかなか面白いモノを扱っているな」

「うん、見ていて飽きない」


背の高い奴は男で、俺より頭一つ分小さい奴が女であることは声を聞いてすぐ理解できた。

黒いロングコートに、顔を隠すようにフードを深くかぶっているこの二人……怪しいことこの上ない。

こういう時は関わらない方が身の為だ……そう思い、俺は特に気にかけることなく視線を店長へと向けた。


「よっ! 大将! ダークが居るってことは、お前また負けたのか!!」

「う、ウルセェ!!」


店長と友人が楽しく会話をする横で、俺は視線を黒コートの奴らへと向ける。

デザインが同じところを見ると、何処かの組織に属しているんだろうな……こんな奴らが出入りしてるなんて初耳だ。城に戻ったら調べさせるか……


「?」


そんなことを思っていると、背の低い奴が首をかしげながら俺へと顔を向けてきた。


「なに?」

「え、いや……買うモン迷ってるように見えてさ」

「うん、迷ってる。いっぱい、置いているから」


透き通った綺麗な女の声だ……大人しく、誰よりも優しい奴じゃないか、なんて思ってしまった。


「――ほらよ! ダークにこいつをプレゼントだ!」

「!」


友人がズイッと俺の視界に入るように何かを差し出してくる。

ひんやりとした何かを感じるということは、アイスの類なのだろう。そう思って奴の持っているものをよく見ると、案の定青い棒アイスだった。


「なんだこれ?」

「いいからいいから、食べてみなって!」


面白そうに笑う奴の意図が分からないまま、俺は受取ったアイスを口に含む。

そして、口に広がる味に驚いてむせてしまった。


「!!? な、なんだこれ!?」

「ハッハッハッハ!! 凄いだろ? アイスがしょっぱいなんて、誰も想像しないよなー!」


甘い物に食べ慣れてしまっているせいか、塩を強く含んだ食べ物に慣れていない。だから驚いてむせてしまったが、口に広がったのはしょっぱい味だけじゃなかった。


「な、なんだ……? 急に、甘くなったぞ」

「おっ! 流石ダーク、良く気付いたな!」


今度は店長が嬉しそうに話に入ってくる。


「甘くてしょっぱいアイスだ、ショコルーテはチョコの国なだけあって甘いものには五月蠅いだろ? だから、新しい刺激になればって思ってな!」


成程な、これは違った切り口の商品になるに違いない。

最初は驚いたものの、少しばかり癖になる味なこともあってシャクシャクとアイスにかじりつく。その様子を横で見ていた黒コートの奴は、顔を俺から店長へと向けた。


「私もあれ、欲しい」

「いいぜっ! まだ試作段階だからお代は取らないよ!」


気前の良い言葉を投げる店長に頭を下げると、棒アイスを受け取った二人はかろうじて見える口元にアイスを持っていった。

シャクシャクと頬張る小さい奴に比べ、背の高い奴は一口二口かじると動きを止めた。


「……甘くてしょっぱいとは、アクセルたちがよく食べている物と似ているな。そうだったな、名前」

「うん。シーソルトアイス、マールーシャも食べたい?」

「いや、俺はこれだけで十分だ。任務帰りの寄道には最適な場所だ……時々来よう」

「あ、このことはサイクスに……」

「内緒にしておいてやる。ただ任務をやって城に帰るだけでは面白味がないからな……」


短い会話だったけど、大体二人のことが見えてきた。

こいつらは、おそらく何処かの組織に属している奴らなのだろう。トップにいる奴からの指示を受けてショコルーテに着たってとこか……

現時点では被害報告は聞いてないし、こいつらは悪いことをしている奴らだと判断するには材料が足りない。

ま、暫く様子を見るか……


「よし、そろそろ帰るか。お前は……」

「トワイライトラウン、夕陽見て、帰る」

「そうか」


そんな会話をする二人は、アイスを食べながらこの場から姿を消していった。

なんとも不思議な奴らだったこともあり、店長の方は奴らが見えなくなるまでずっと視線を追っているようだ。


「シーソルトアイス、かぁ。コレの名前、それにしてみるか!」

「えっ! パクリかよ! 面白くないなー!!」

「そう言うなら、何か良い名前とか思いついたのかよ!!」

「おいおい……」


こんなところで言い争いはごめんだ……俺は受取ったアイスが溶けないよう気にしながら、二人を宥めるのだった。

 
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