あの日を境に、俺は彼女の姿を探すようになった。
あの声をもう一度聴きたくて、どんな顔の奴が声を発しているのか知りたくて……リカとして城下の視察をする時やダークとして遊びに来ている時も、暇あらば探している始末。
たった数分、話をしただけだって言うのに……おかしな話だ。そんな日々を過ごしている時だ……あのアイス屋の前で、ずっと探していたコートを着た奴が立っていた。
「わぁ、本当に置いてあるのね」
「ね? 吃驚した? シオン」
「うん、ビックリした」
今度は女と一緒に着ているようだ、あの時と違うところがあるとすれば……フードを被っていないところか。
「ねね、時間が合ったらアクセルとロクサスとシーファも誘おうよ!」
「うん。そう言うと思った」
ふふ、と微笑む茶髪の女があの時"名前"と呼ばれていた奴で間違いなさそうだ。
隣に立つ黒髪短髪の女は、目を輝かせながらメニューを眺めている様子。
「あ……」
「!」
ふと視線を動かしたせいか、名前って奴が俺を見つけて声を漏らした。
「よ、よう」
「こんにちは」
ニコリと微笑む彼女の笑顔に、小さな蟠りを感じる。嬉しそうに笑っているって言うのに、変だな……
「名前、知り合いなの?」
「そう、知り合い。この前マールーシャと来た時に、会ったの」
首を傾げる女(確かシオンって呼ばれてた奴)は、俺を観察するように視線を向けてきた。
「今日も、アイス、食べるの?」
「いや、たまたまお前の姿が見えて……追いかけてきたっていうか……」
どう説明すればいいのだろう? 毎日、お前のことを探していたなんて……恥ずかしくて言えるわけがない!!
「そっか、残念」
「は? 何が残念なんだよ……」
「もう一度会いたいって、思ってたの。私だけだった……?」
「!!」
眉を下げて視線を地面へと向けているところを見ると、本気で残念がっているのだとすぐ理解できた。
それと同時に、急に嬉しくもなったんだ。会いたがっていたのは、俺だけじゃなかったんだ。
「いや、俺も……一緒だ」
「一緒?」
「おう」
そう答えると、彼女は「良かった」と言いながら頬を染めている。
なんだよ……スッゲー可愛いじゃん。想像以上に綺麗な笑みを浮かべてくることもあり、酷く好感が持てているのも事実だ。
「最近仕事、忙しくて……来れなかった」
「そっか、今は帰りか?」
「うん。シオンが入ってくれたから、比較的楽になったよ」
ね? と名前が首をかしげると、シオンって奴はコクリと頷いた。
「名前の足を引っ張らないよう、頑張るよ!」
「頼りにしてる」
嬉しそうに話す二人が微笑ましな、と思っていると、名前は顔を俺へと向けながら首を傾げる。
「あのね、ここには時々、遊びに来ると思うの。ダメ?」
「いんや、別に平気じゃねーか? この国に危害を与えなけりゃ、問題ないだろ」
「一応、ここも調査対象。迷惑にならないように、するから」
調査? 一体何の調査だというのだろうか? 特にこれと言って異変など起きてないし、比較的平和だからな……問題ないはずだが……
「ここの土地は俺が詳しいからな、分からないこととかあったら気軽に聞いてくれ」
「うん。そうする……あ」
すると、何かを思い出したのか名前は改めて全身を使って俺へ向くと片手をスッと差し出した。
「私、名前。貴方の名前、教えて?」
「あ」
俺も、名前と同じように何かを思い出したかのように声を漏らした。
クソッ、俺としたことが……名乗ってないなんてな……
名前はどっちを使うべきか……まあ、会う頻度を考えるとリカよりもダークが一番良いだろうな。
「――俺はダークって言うんだ。この辺りのバーでよく遊んでいるから、姿が見えたら声をかけてくれ」
「うん、分かった。宜しく、ね?」
「おう!」
差し出された手を握り、俺も名乗る。そして「私はシオンって言います!」と黒髪の少女も名乗り、俺たちは知り合いとなった。
黒いコートの奴らが往来するようになったのも最近だし、こいつらならもう少し親しくなれば教えてくれるだろう。
人懐っこい笑みを浮かべる二人だが、やっぱりさっきから感じる違和感は抜けてくれることはなくて……困惑しながら、俺は名前へと視線を向けていた。
――今思えば、俺と彼女の壮大な関わりはここから始まったのかもしれない。
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