跡部の彼女を探し出せ!@


お金持ちの人達が通っている事で有名な中学校・氷帝学園。そこに通っている生徒達のほとんどは、セレブやある財閥の息子や娘と言った……ある意味ボンボンが集まっていたりもする。

そんな学園では、最近になってある噂を元に生徒達が大々的な調査を始めているのだ。

中心になっているのは、跡部景吾ファンクラブ一同。その手助けをするように他のファンクラブの子や興味本位で関わっている男子達が便乗して捜査をしている。

何故そんなことをやっているのか? 原因は、丁度一昨日の放課後に遡る……




***




『跡部先輩、好きです! 付き合って下さい!!』


いつもと変わらない日常の中で起きる、見慣れた光景。それは、人気のない場所に好意を寄せている相手を呼び出して告白をする……というよくある行為である。

その様子を、ファンクラブのメンバーはひっそりと影から様子を見守っていた。

さて、告白を受けている相手は誰なのか分かった人は多いだろう。この氷帝学園に通っている生徒達全員が知っていると言っても過言ではない人物・跡部景吾である。

容姿端麗、文武平等、才色兼備と言った難しい四字熟語が並んでもおかしくない人物に、とある女子生徒が顔を真っ赤にして告白をしているのだ。


『悪いな……』


そう小さく口を開いたのは、跡部だ。

影から見守っている跡部ファンクラブのメンバーは、ホッと胸をなでおろす。何故ファンクラブが影から見守っているのかと言うと、彼と付き合うかもしれないであろう女子が出てくるのかどうかを監視しているのだ。

もし出てきたら、どう言う子なのかを見極めようという魂胆である。認める者は少ないだろうが、跡部が認めた人物だからと言い聞かせる気でいる、とファンクラブの会長は心の中でそう呟く。

今日の告白も、いつも聞き慣れた断りの返事だろうと思っていた矢先の事だ。


『俺、心に決めた奴がいるんだ。ソイツ以外眼中にないから、だから……ゴメンな』


今まで見た事無いような、穏やかで優しい眼差しを向ける彼の口から出てきた言葉に、告白をした女子は勿論、物陰に潜むファンクラブのメンバーは目を丸くさせて驚いていた。


『そう、ですか……一体どんな子ですの?』

『さあな。気になるなら探してみろよ』


見つかるはずがないがな。

そう言い残して、その場から去って行く跡部の後姿を……彼女はただただ見つめるしかできなかったのは言うまでもないだろう。



***



その日から二日が経ち、噂と言うものは本当に瞬く間に広がって行くもので、この氷帝学園に通う生徒達の約七割が"跡部が好きになった女の子"を探す為に動き出したのである。


「全く……本当にご苦労様って感じだよね」

「え? なにが?」


ここは3-Dの教室。ポツリと呟く共の声に首を傾げながら、彼女・苗字名前は首を傾げた。彼女の前の席に座っている友人はと言うと、名前を見てはハァと溜め息をつく。


「まあアンタのことだから、跡部様なんて興味ないよねー」

「? そもそも、跡部様って……誰?」


単行本のページをめくる名前の言葉に、友人は目を点にさせて何度も瞬きをする。驚きすぎてどう反応すればいいのか困っているようだ。


「ねえ名前、それガチで言ってる……?」

「だからさ、跡部様って誰?」


本当に分かっていないのか、パタンと本を閉じた名前は眉間に皺を寄せて首を何度も傾げている。頭上に大量の疑問符が浮かんでいる所を見ると、彼女は本当に知らないようだ。

そんな名前の反応に、友人だけでなくクラスメイト皆も驚きの眼差しで目線を彼女へと向けた。


「あの跡部様よ? この氷帝の生徒会長で、テニス部の部長もやっていて、跡部財閥の御曹司の!」

「あ、生徒会長さんのことか。どっかで聞いたことがある名前だなーって思ってたんだよね。顔までは憶えてないけど」


手をポンッと叩いて満足そうに頷く名前に、未だに唖然としながら見つめているクラスメイト達。何故彼女たちがそんな反応をするのかが分からない名前は、もう一度首を傾げてから読みかけの単行本を開く。

あの跡部様を知らない……だと?

恐らく、このクラスにいるメンバー全員がそう思ったに違いないだろう。

まるで時が止まったかのように固まるクラスメイト達は、HRでやってきた担任が来るまで動く事が出来なかったとか……



***



昨日から本当に慌ただしい……と、跡部は思ったに違いない。

一昨日の放課後、部活へと行く前に呼び出しをされて告白を断った所までは良い。だが、余計なことを喋ってしまった……と後々になって後悔したのだ。


「まさか、本気で探してるとはな……」

「みーんな、跡部の好いとる子が気になるだけや」


疲れたように溜め息をついていると、ケタケタと笑う忍足が面白可笑しく話し出す。

彼も含め、この学園にあるテニス部に所属してるメンバーは知っている。跡部が、どういう子に想いを寄せているのか。そして、その意中の子が相当な曲者だという事も。


「ここまで大騒ぎになってるんや、そろそろ自分の気持ちに終止符打ってきたらどや?」

「テメェ、簡単に言うがな……俺はそんなに簡単に気持ちを口にしたくねぇんだよ」

「こだわりかいな……全く、じれったいなぁ〜」


気持ちを口にするという事は、今までの関係が大きく変わっていってしまうという事だ。今の関係がとても心地良いものだと思っているからこそ、言えずにいるのだろう。

なんでも自分のモノにして、望みを叶えてきたこの俺様跡部様が、一番に手に入れたいものが……手に入らない。その事実に、テニス部メンツ以外に誰も気付いた人はいないだろう。


「――だが、そろそろ終止符を打つ良い機会かもしれねーな」

「お? ってことは……?」

「今日、話してみるぜ。彼女に、俺の気持ちをぶつけてみる……」

「そっかそっか! 応援してるで!!」

「ハッ、お前の応援なんていらねーよ」

「あ、言うたなー!」


コレは一種の賭けだ。今までの関係が良かったからこそ、踏み出せずにいた境界線を……自ら壊そうとするのは、とても酷なこと。

果たして、吉と出るか凶と出るか……それは、今日の放課後になってみないと分からない――

この日の跡部の表情は、とても清々しいものだった。



***



「また明日なー」

「おう! また明日ー!」


時は流れ、現在放課後である。荷物をまとめ、鞄を片手に立ち上がると友人に声をかけられる。


「あれ、アンタ今日用事とかあったっけ?」

「ううん。今日も音楽室に行くの、榊先生から許可貰ってるから」

「確か、エレクトーンだっけ? わざわざ音楽室で弾かなくても、自宅でやればいいじゃん」

「一人でゆっくりと弾きたいの。家だと、聞き耳立ててくる人が多いからさ」


エヘヘと頭をかくと、名前は手を振って教室を出て行った。彼女が何故音楽室で、わざわざピアノではなくエレクトーンを選んで弾いているのか……

最初は趣味だった、と名前は思う。好きな時に、好きなように弾きたい。という気持ちを持ったのが、全ての始まりだった。

当初は慣れるのに大変だったが、回数を重ねるごとに弾く事が楽しくなり、今は歌を口ずさんで弾いてしまうくらいにまで上達したのだ。

自宅にもエレクトーンはあるが、彼女の話した通り聞き耳を立てている家族や近所の人達の気配を感じてしまい、伸び伸びと弾けなくなってしまったのだ。


「まさか校内にエレクトーンあるなんてビックリだよ、榊先生に感謝しなきゃ……!」


廊下を早歩きしながら、名前は呟く。音楽室には様々な楽器が置かれているのは知っているが、まさかエレクトーンまで置かれているとは思わなかったのだろう。

趣味として弾かせてくれないか、と相談をした結果……「水曜日ならいつでも弾きに来ても構わないぞ」と許可を貰えたのだ。


「……あれ?」


目的地である音楽室に到着して、ガラッとドアを開いたら先客がいた。彼は、名前がいつもエレクトーンを弾きに来た時にだけやってくるたった一人の観客だ。

 



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