短編 | ナノ
吸血鬼と魔女

「ぎゃあああんっ!!」

「おい!逃げんな、コラ!!菓子を持ってけ、菓子を!!」

大泣きしながら逃げ出す子供。
なんとか呼び止めようとするが、全速力の子供はあっという間に見えなくなった。

壁に背をつけたままズルズルとその場に座り込み、パウリーは深い溜息をついた。

これで何人目だろうか。
パウリーの顔を見てはお菓子も貰わずに泣きながら逃げていく子供を見送るのは。
逃げなかった子供もいるが、怯えきってお菓子を受け取っていたし………。
いくらハロウィンとはいえ、ここまで怯えられるのは納得がいかない。
船大工としてお菓子を渡す係りに任命されて馬鹿馬鹿しい仮装までしたのに、何故こんな目にあわなければいけないのだろうか。

苛立ちが募り、葉巻を取り出そうとポケットに手を突っ込んだところで

「どうしたの、つまんなさそうな顔して」

声が聞こえてきた。
ポケットから手を入れたまま、また子供が来たのかと顔を上げる。
ヤンキー座りをしているパウリーを、一人の少女が膝を曲げて覗き込んでいた。

腿も露わなミニスカートに、足下までを覆う大きなマント。
ツインテールに縛った金色の髪の上には、小さなとんがり帽子の髪留めが乗っている。

「ハレ……っ!?」

腿を露出した魔女の少女に動揺したパウリーは、思わずいつもの台詞を叫びそうになる。
しかし、見つめる瞳がよく見慣れたものであることに気付き、慌てて声を飲み込んだ。

「おまっ、ノエルか!?」

「そうだよ。よく分かったな、パウリー」

魔女の仮装をしたノエルは得意気に笑うと、くるりとその場で回った。
ふわりと翻るスカートから勢いよく視線を外し、変わり果てた彼女の髪の毛を見つめる。
肩までしかない青髪が、どうして金色のツインテールになってしまったのだろうか。
いや、そもそもノエルはスカートが嫌いなはずなのに、どうしてこんな恰好をしているのだろうか。

「どうかな、カリファのプロデュース。カツラってすごいよ。みんなあたしのこと誰だか分からないみたいでさ。まあ、普段はこんな恰好しないから余計にだろうけど」

照れくさそうに頭をかくノエルは、確かに道ですれ違っただけなら彼女だと気付かなかっただろう。
よく見ると、目の周りを黒く縁取りした化粧もしているようだ。
それだけで別人のように大人っぽく見える。

「で、ヴァンパイアのお兄さん。なーんでこんなに寂れてるんだよ?」

閑古鳥が鳴きそうなほどに誰もいない周囲を見渡して、きょとんと眼を瞬くノエル。

それはこっちが聞きたい。
いくら仮装をしているとはいえ、あんなに恐がらなくてもいいと思う。

けれど、そんなことを言うのも情けないので、誤魔化すように葉巻を銜えた。
そんなパウリーを見つめて、ノエルは呆れたように溜息をつく。
パウリーの眉間をにトンと人差し指を当てると、

「眉間にシワ〜」

ぐりぐりと眉間を押してきた。
何をするのかとその手を払うと、ノエルは腰に手を当て呆れたようにパウリーを見下ろした。

「パウリーさ、ハロウィンのことバカバカしいとか思ってるだろ。『なんで俺がこんな格好しなきゃいけないんだよ』って。だから、そんな風につまんない顔してるんだよ」

本心を言い当てられ、パウリーは言葉に詰まる。
ノエルの言う通りだ。
いい年をした大人の男が、どうしてこんな格好をしなければいけないのか。
仮装など子供たちに任せ、菓子だけを渡せばいいと思う。
アイスバーグの提案に従ってこんな滑稽な格好をしているが、内心ではハロウィンを楽しむ気になどなれなかった。

「あたしだって、この格好には抵抗あるよ。カリファには悪いけど、あたしにはこういう女の子らしい格好って似合わないし………」

スカートの裾を引っ張り、苦笑いを浮かべるノエル。
彼女の言うような心配はどこにもないほどに似合っているが、自分を着飾ることが苦手なノエルにはそう感じるのだろう。
『そんなことはねェ』とパウリーがフォローを入れようとするが、それよりも前にノエルは笑った。

「でも、今日はお祭りだからさ。楽しまなきゃ絶対に損する。だから、パウリーも楽しもう!」

にっこりと幸せそうな笑顔を向けるノエルに、反論などできるわけがない。
まあ、今日ぐらいはこんな滑稽な格好も良しとしよう。
『お祭り』なのだから。


「でも、ガキが来ねェのは俺のせいじゃねぇぞ」

「あのさ、自分じゃわからないかもしれないけど………パウリーの不機嫌な顔ってすげー怖いから。あと、露出の高い仮装の女の人を避けて、こんな人通りの少ない路地裏にいるから余計に恐いんだよ」

(………なんで、ばれたんだ?)

→ルッチ

11/10/30

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