短編 | ナノ
シーツオバケと狼男

「ねぇ、ジャブラ。ハロウィンの仮装の準備できた?」

いつもの如く、ノックもなしにジャブラの部屋へずかずかと入ってくるのはアイリスだ。
最早、部屋と呼ぶには違和感のある茂った草木に水やりをしていたジャブラはアイリスの言葉に固まる。
ハロウィン………すっかり忘れていた。
準備どころか何の仮装をするかも決まっていない。

「お前は?」

仕方ないので、探りを入れるために質問を質問で返す。
アイリスはにっと自信満々に口の端を吊り上げると、手にしていた白い布をもそもそと被りだした。

「あたしはこれよっ!」

目の前に立つのは、頭から足元までを覆う大きな白い布を被って仁王立ちしているアイリス。
目の部分にだけ穴の開いたシーツ。それだけだ。
それ以外の装飾はまったくない、シーツを被っただけの女。
今時、子供の仮装だってもっとオシャレだ。

「クオリティ低すぎだ狼牙っ!それで自信満々なお前が怖ェっ!?」

「はぁ!?これ作るのにどんだけのシーツを犠牲にしたと思ってんのよ!その数なんと18枚!」

「どうやったら、その衣装でそんなに失敗出来んだよ!?」

「いや、それがね。目の穴を開けるのが、なかなか難しくって〜」

「………それは最早、不器用ってレベルじゃ済まされねェぞ」

並んだ穴を二つ開けるだけのことに、どうすれば失敗が出来るのか教えてほしい。
ちらりと横目でアイリスを見て、深い溜息をつく。
いい加減に痛々しい仮装を止めてもらえないだろうかと思っていると、シーツから覗く吊り目がきょろりとこちらを向いた。

「で、ジャブラは何の仮装をするのよ?」

「あ゛?」

しまった。
アイリスの仮装を見ながら考えるはずが、あまりの突っ込みどころの多さに他のことに思考を移している暇がなかった。
吸血鬼、ミイラ、ゾンビ………。
ハロウィンの定番の仮装は思い付くが、どうもしっくりとくるものがない。
ぐるぐると頭を巡らせるジャブラは、ともかく思い付いたものを口にした。

「あれだっ、そのっ………狼男!」

苦し紛れに出てきたのは、思わず自分もバカじゃねェかと思うような言葉だった。
予想通り、アイリスの瞳が険しくなる。(顔も険しいのかもしれないが、あいにくな目しか見えない)

「はぁっ!?あんた、まさか人獣化するだけのつもり!?人には散々言っといて………。少しはひねりなさいよ、野良犬!!」

「あァ!?テメェの仮装よりはマシだろうが!!」

「なんですってぇっ!?人の汗と涙の結晶を…………嵐脚!!」

「うをっ!?いきなり、何しやがるっ!?」

「野良犬ふぜいが!!ばらばらに切り刻んでくれるわっ!!」

何故か悪役台詞を叫びながら攻撃を仕掛けてくるアイリス。
シーツを被ったままの姿で繰り出される嵐脚を鉄塊で受け止めながら、ジャブラはアイリスを眺める。
足元までを覆っているシーツは、アイリスが嵐脚を放つ度に切り刻まれていく。
すでに長さはミニスカートほどになっている。

次の衣装は、自分も手伝ってもう少しマトモなものを作ってやろう。

そう心に決めて、ジャブラは深い溜息を吐き出した。

→スパンダム

11/10/13

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