優しい世界:カク
きりんさんは寂しがり屋だ。
「おいで」
そう言ってソファーの上で手招きをするきりんさん。
わたしは小走りできりんさんの元へ向かって、きりんさんの膝の上にお尻を降ろした。
きりんさんは背後からぎゅうっとわたしを抱き締める。
あったかい体温が背中にぴったりくっついて、わたしはとっても幸せな気持ちになる。
「きりんさんはおひさまみたいだね」
手足の先がいつも冷たいわたしと違って、きりんさんはいつもぽかぽかしてる。
おひさまみたいな温かさだ。
わたしの言葉を聞いたきりんさんの腕が、少しだけ震えた。
「きりんさん?」
不思議になってきりんさんの顔を見ようとするけど、背後から抱っこされたままじゃきりんさんの顔は見えない。
きりんさんの顎がわたしの頭の上に乗せられる。
「大丈夫じゃよ。ほんの少し懐かしかっただけじゃ」
懐かしい?
なにが懐かしいのか分からないけど、わたしは聞き返さなかった。
きりんさんがそう言うなら、きっと懐かしいんだろうと思ったから。
「………のう」
「なあに?」
「………わしの名前、呼んでくれるか」
「きりんさん」
言われた通りにすぐに名前を呼んであげると、きりんさんの腕からがくりと力が抜ける。
何か間違えちゃったのかな?
「やっぱり、おぬしにとって………わしはきりんさんか」
溜息混じりの声に、わたしはようやくきりんさんの言いたかったことを………きりんさんが呼ばれたかった名前を理解した。
「カク」
だから、きりんさんの本当の名前を呼んであげる。
きりんさんが呼んでほしいって言ったのに、何故かきりんさんはわたしを抱きしめたまま固まってしまった。
そんなきりんさんを不思議に思いながら、わたしは望み通りにきりんさんの名前をいっぱい呼んであげる。
「カクの手はいつもあったかいね。カクの手でほっぺを撫でられるのが好きだよ。カ………」
まだ言いたかったことがあったのに、きりんさんの手のひらがわたしの口を塞いだ。
きりんさんの名前はきりんさんの手のひらに吸いこまれてしまった。
「やっぱり、『きりんさん』でいい………」
呟いたきりんさんの声は泣いてしまいそうなほどに震えていた。
寂しがり屋の麒麟
「大好きだよ、『きりんさん』」
だから、わたしはわたしを抱き締めるきりんさんの腕にぎゅうっとしがみついた。
→ブルーノ12/01/30