短編 | ナノ
優しい世界:ルッチ

ねこさんは不機嫌だ。


「ねこさんはわたしのこと嫌いなのかなぁ?」

ソファーに座ってひつじさんの作ってくれたお菓子を食べながら、わたしは頭の上にとまっているハトさんに小さな声で聞いてみた。
ハトさんはわたしの頭から、わたしの膝の上にとまった。
それから、大きく羽を広げて胸を反らして『くるっぽー』って鳴く。
でも、何が言いたいのかはさっぱり分からない。
『そうだ!』ともとれるし、『違う!』ともとれる。
わたしは首を傾げながら、曖昧に頷いておいた。

ねこさんは、わたしを視界に入れてくれない。
わたしに話しかけるどころか、見ようともしない。
まるで、わたしがその場にいないみたいにするから、わたしも話し掛けられない。

でも、わたしの周りに誰もいない時、ねこさんはわたしを見てる。
じっ………と、とげとげした視線がわたしをぐさぐさ刺す。
わたしが振り返ると、目を逸らされちゃうんだけど。
だから、よく分からない。
ねこさんがわたしのことを好きなのか嫌いなのか。

「わっ」

いきなり部屋のドアがノックもなしに開くから、びっくりしたわたしは摘まんでいたクッキーを取り落とす。
振り返ると、機嫌が悪いのを隠そうともしないねこさんがドアの前に立っていた。

「ハットリ」

ねこさんが不機嫌な声でハトさんを呼ぶ。
ハトさんはわたしの膝の上でびくってした。
ねこさんとハトさんは仲良し。
だけど、わたしとハトさんが仲良しなのをねこさんは嫌がる。

「あのっ、わたしがハトさんを連れてきたの」

ハトさんが怒られると可哀想だから、慌てて言い訳をした。
ねこさんは………やっぱりこちらを見ることもなくわたしを無視した。
ねこさんがもう一度ハトさんの名前を呼ぶと、ハトさんはしぶしぶとわたしの膝から飛んでねこさんの肩にとまる。
わたしには視線を移そうともしないで部屋から出ていこうとするねこさん。
ソファーから立ちあがったわたしは、その背中を逃がすまいとねこさんのスーツを捕まえた。
それでも振り返らず足を止めようともしないねこさんに、わたしはずっと聞きたかったことを聞いた。

「わたしのこと嫌い?」

はっきりしないのは嫌だから、ねこさんに聞いてみた。
ねこさんの足が止まる。
今なら話を聞いてもらえると思って、わたしは言葉を続けた。


「わたしはねこさんが好きだよ」


そう言った瞬間だった。
わたしはねこさんに胸倉を掴まれて、壁に叩きつけられていた。
背中の痛みに顔を歪めながら顔を上げると、ねこさんがわたしを見てた。
真っすぐと。
怒りと殺気を込めた目で。


「『お前』がその言葉を口にするな」


低い声でそう言って、わたしの胸倉からねこさんの手が離れる。
ハトさんが心配そうに鳴いたけど、ねこさんは構うことなくわたしに背を向けて部屋を出て行ってしまった。
一人部屋に残されたわたしは、背中を壁につけたままずるずるとその場に座り込む。



不機嫌な猫




「それじゃあ………『誰』ならその言葉を口にしていいの?」

わたしの疑問は、ねこさんに届くことはなかった。

→カク

12/01/30

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -