短編 | ナノ
優しい世界:ジャブラ

おおかみさんは嘘吐きだ。


「ばーか、ばーか!ジャブラのばーか!!」

子供みたいにそう叫んで、おおかみさんの部屋から飛び出してきたのはきつねさんだ。
またおおかみさんと喧嘩したらしい。
目を瞬いてきつねさんを見ていると、きつねさんはいったん飛び出していった足を止めてUターンした。
そして、部屋の中に向かって叫ぶ。

「ギャサリンに『また』振られたって、フクロウにばらしてやるからねー!!」

「なんで知ってる!?つーか、フクロウにだけは絶対に言うんじゃねェ!!」

「うるさい、ばーか!!」

そう吐き捨てて、きつねさんは今度こそ走り去って行った。
きつねさんを追おうと部屋から出てきたおおかみさんは、わたしの姿を見て驚いたように目を丸くする。
そして、慌ててきつねさんの姿を追おうとしたけど、もうきつねさんの姿はどこにもなかった。
はあ、と深い溜息をついてからおおかみさんはわたしを振り返った。

「一人か?」

「うん」

「珍しいな。カクやブルーノは?カリファはどうした?」

「きりんさんは部屋に閉じこもって報告書を書いてる。うしさんは長官さんに呼ばれたよ。ひつじさんはラズベリーパイを作ってるよ。おおかみさんも一緒に食べる?」

「カリファの作るラズベリーパイか。そりゃ美味そうだな」

ニッと笑って、おおかみさんはわたしの頭をくしゃくしゃ撫でた。
わたしはいつもきりんさんやうしさんやひつじさんと一緒にいるから、あんまりおおかみさんと逢うことはない。
でも、逢うとおおかみさんはいつも優しい。
きつねさんが前に『ああ見えて子供好きなのよ』って言ってた。
わたし、そんなに子供じゃないと思うけどなぁ。

「頭痛は治まったか?」

眉を寄せて尋ねるおおかみさんに、こくりと頷いた。
前は頻繁に起きていて、ひどい時だと気絶したりしたけど、今はあんまり頭が痛くなることはなくなった。

「そうか」

おおかみさんはホッとしたように、また頭をくしゃくしゃと撫でた。
わたしは頭を撫でられたままおおかみさんを見上げた。

「きつねさん、怒ってたよ」

今度はわたしの質問だ。
おおかみさんは『うっ』と小さく呻いて、そのまま黙り込んでしまった。
多分、きつねさんから喧嘩を売ったんだろうけど、きつねさんは拗ねていたから仕方ない。

「おおかみさんが別の人に告白するから悲しいんだよ」

きつねさんはおおかみさんが大好きだ。
暴言ばっか言うからすごく分かり難いけど、いつもおおかみさんを目で追っている。
目が合うと何故か喧嘩になっちゃうんだけど。

「きつねさんが可哀想だよ」

おおかみさんもきつねさんが好きなのに。
見てれば分かるよ。
好きじゃなきゃきつねさんの破天荒に毎回付き合っていられないよ。
きつねさんと仲良しのきりんさんだって、付き合いきれないってたまに頭を抱えてるから。
でも、おおかみさんは毎回ちゃんと最後まできつねさんの相手をしている。
口では文句を言いながらも、とても楽しそうに。
それなのに、きつねさんの気持ちを確かめるために、いくら振られるって分かっているからとは言え他の人に告白するなんて、ちょっとひどい。

「そんなことしてると、何処かの誰かに獲物を攫われちゃうよ」

例えば、きつねさんのことが大好きな長官さんとか。
ヘタレだめだめ長官さんだけど、やるときはやる人だよ。
姑息な手段とか悪知恵なら誰にも負けないんだから。

「獲物が攫われたら、取り戻しゃいいだ狼牙」

肉食獣らしいお答だ。
だけどね、獲物ならそれでいいかもしれないけど、女の子はそれじゃダメなんだよ。

「獲物が心変わりしてたら、どうするの?」

わたしの質問におおかみさんは目を丸くする。
言ってるわたしも、きつねさんがおおかみさん以外を好きになるなんて想像がつかないけど。
おおかみさんは少し考えるように目を閉じてから、ニッと口の端を吊り上げた。

「逃がしゃしねェよ」

悪人と称するに相応しい笑みを浮かべる瞳には、ぎらぎらした肉食獣の光。
どうやら本当に質が悪いのはきつねさんよりも………。



嘘吐きな狼




「おおかみさんは嘘が上手なんだね」

誰にも分からないように本音を隠すおおかみさんは、わたしの言葉に優しく笑って頭を撫でた。

→カリファ

12/01/30

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