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カチャリ、と後頭部につきつけられた何か。まぁ何か、なんて分かってはいるんだけど、出来ることなら私が想像している物と違う物であって欲しい。

『人違いじゃないですか?』
「お前の顔を間違えるはずが無い」
『わーあすごい殺し文句、イケメンだったら惚れそう』
「残念ながらお前が俺の顔を見るのは不可能だ、何故なら」

お前はその前に死ぬんだからな。なんて、よくあるドラマや漫画のワンシーンのような台詞に思わず顔がにやける。今日がどんなに最悪な日で、私に運が無かったとしても私がここで死ぬ事はない、という自信だけはある。これに関しては言い切れる。

『ブラックアウト』

男が引き金を引くのと同時に発動したスタンド。パァンッと響く銃声と共に目の前の女が視界からいなくなり、動揺し出す男。

「な、なんだ、何処へ消えた?!」
『それにしてもよくあそこまで気配消せたね、全く気付かなかった』
「?!」
『あんたの敗因は3つ、私をすぐに殺さなかった事、私が女だからって舐めてかかってた事、私がスタンド使いだと知らなかった事、そして自分がスタンド使いではなかった事。あれ、私今4つ言わなかった?』

まぁいいか。
いきなり消えた女が気付いたら自分の真後ろにいた事に驚き混乱する男。

「ぐぁっ」
『誰の差し金だ、言え』

背後から思いっきり背中を蹴り飛ばすと男は面白い程に吹っ飛んだ。地面にうずくまる男の髪を鷲掴み顔を上げさせる。残念、イケメンじゃあ無かった。

「くっ、くそ」
『ねぇ』

持っていた銃を発砲しようとした男の腕を制止させる。私が掴んだ部分からどんどん広がっていく真っ黒い染みに、まだ男は気付いていない。

「なん、なんだお前は...一体」
『それ私の台詞だろーがよ』
「ぐぁっあっあぁぁ...ヒィッ」

自分の腕の感覚が無い事にやっと気づき腕を見た男の顔が一気に青ざめる。そりゃあそうか、だってもう自分の腕は原型を留めていないんだから。

『次はどこがいいかな』
「きっ貴様、何をした?!」
『だからさぁそこがアンタの敗因だって、何で女の私がボスの側近で拷問担当なんかやってるんだと思う?こんな一見か弱くて美しいレディがだよ』

今の台詞をアバッキオやナランチャあたりに聞かれたら多分物凄い勢いで否定されるだろう。あいつらは私をか弱い女だなんて微塵も思っちゃいない。

「どう、せ、身体で、媚びを売ってる、んじゃ...な」
『だよね、普通はそう考えるよな、あ、でもそれと拷問は比例しなくない?』
「......」
『まぁさ、それは正解のようで正解じゃーないのさ』
「正、解...?」
『正解はね、』

私が強いからだよ、
男の顎をぐいっと持ち上げ耳元で囁いた。それと同時に男の身体全身を駆け巡る黒、黒、黒。

「なっあっあがっあ」
『まぁ拷問はただの趣味なんだけどね』

付け足すように言った言葉は多分もう男の耳には聞こえちゃいないだろう。身体を痙攣させながら呻いていた男の動きがピタリ、と止まった。

『さてどうしよう...』

殺してはいないけど、動く事が不可能なこの男をどうやってアジトまで連れて行くか。仕方ないのでアバッキオに電話...いやブチャラティの方がいいかな。

『まぁどっちでもいーや、携帯携帯...』

ここですっかり忘れていた重大な事実に気が付いた。そうだ、そうだった、今日の私は最悪にツイてない日だった。殺されはしなかったものの、背後から命を狙われるなんてそうそうない事じゃない?まぁ仕事柄、ありえないわけでは無いけど。
今日は朝から生理になるしお腹痛いしブチャラティはいないし取っておいたプリンをナランチャに食われるし気分転換にケーキでも食べに行こうと思ったら愛車を何故かアバッキオに取られたせいでわざわざ歩いて行きつけのケーキ屋まできたのに目当てのフルーツタルトが品切れだと言われるし帰宅途中に殺されかけるし...そして一番最悪なことに、どうやら携帯を忘れたらしい。なんなんだよ本当もう、最悪だ。
これ本当に誰かの陰謀じゃないの?新手のスタンドとかじゃなくて?本当に?

『くっそおおぉ』

帰ったらジョルノに慰めてもらおう...と心にきめて全身真っ黒になった男の腕を持ち上げた。
そしてこんな日はもう二度と外になんか出ないと心の底から思った。


20120206

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