後日談と言う名の
惚気話


2

「ベジータ・・・」

 ブワリと唐突に目の前で膨れ上がった気に、ベジータは慌てて顔を上げた。

「貴様っ、何を!」
「オラ、我慢できねぇかも」
「待っ・・・ん?そういえば貴様」
「へ?」

 ベジータが目の前の危機よりも不意に湧いた疑問を選択した瞬間、その間の抜けた空気に思わず悟空の気も一瞬下がる。

「貴様はどうなんだ」
「何が」
「パワーアップしたのか」
「あ、そか」
「もしも、万が一、有り得ないとは思うが!お、俺様と貴様の、その、アレが、原因で戦闘力が上がったと言うのなら、貴様にも同じ事が起きているはずだろう」
「うーん、分かんねぇな。ちょっとフルパワー出してみっか」
「馬鹿が!こんなところで最高値の気を放ったらまた重力室を壊すに決まってるだろう!」
「ヤベ。またブルマに怒られちまう」
「上に行け、上に」
「上?デンデんとこか?」
「あそこでも同じだ。神殿を破壊したいのか」

 存外に冷静な分析をするベジータ。
 インテリなとこもあるんだぞアピールか。(誰に!)

「雲の上程まで行けばそこまで影響も出んだろう」
「あー、そうか。おめぇ頭良いな」
「当たり前だ。俺様を誰だと思っている」
「オラのベジータ」
「ちがっ、はぁ!?な、何言っちゃってるんだ貴様はぁ!!」
「ちげぇのか?」
「お、俺様が貴様のもんだと!?馬鹿も休み休み言え!俺様が貴様のもんなのではなく貴様が俺様のものなんだ!!」
「おぅ、んじゃそれでいっか」
「うあぁぁぁ!何言っちゃってんだ俺ぇぇ!」

 二度目だが落ち着けベジータ。

「とりあえずオラちょっと試してくるわ」
「俺様のもんとか言ったよ俺ぇぇ!馬鹿も休み休み言わせてくれぇぇ!」

 一人可哀想な感じで悶えているベジータを置いて、悟空は鼻歌交じりに瞬間移動。酷い。これは酷い。いやもう酷い同士で逆にお似合い。何もうバカップル。
 さて無駄な時間は飛ばして、一旦外に出た悟空は、今度は一気に空へと飛び上がる。本気を出せば地球一周さえ数分の彼ならば、雲の上へと飛びぬけるのは数秒。ボフン、ボフン、と霧のような雲を抜けていき、神の神殿よりも高い位置。宇宙が近い薄暗い空へと出れば、呼吸ギリギリの酸素量の高さでようやく移動を止めた。

「うし、こんなもんかな」

 それから一度深呼吸をし、精神を落ち着ける。
 目を閉じ、風さえもない静寂の中で神経を研ぎ澄ますと、今度はゆっくりと目を開け、そして唐突に、全てを解き放つ。

「はぁっ!」

 ドゥ、と空気が膨れ上がる音が低く響いたかと思えば、足元遠い辺り一面の雲が立ち消え、大気が震えた。地上には、何かが崩れるほどの影響は無いものの、小さな地震と突風、それと突然の天候変化は見られた事だろう。
 更に気を使える者ならば、あまりの放出に驚きは禁じえないはずで。けれどその優しい気が悟空のモノだと分かれば大概の者が、やれやれまたか、と肩を竦める。他に危険を匂わせる他者の気もなければ、悟空自身の気の放出も一瞬であったため、力試しでもしているのだろう程度の騒ぎで済んだようだ。
 後でこっそりとピッコロに叱られるのはまた別の話として、とりあえず自分の気の最大限を確認した悟空は、今度は一瞬で重力室のベジータの元へと戻った。
 ベジータはと言えば、どうやら先ほどの悟空の気の放出で我に返ったらしく、戻ってきた彼にも驚かず、不機嫌そうないつもの顔でそっぽを向いている。

「ベジータ、試してきたぞ」
「言わずとも分かるわ」
「オラ、別に変わってねぇみてぇだぞ」
「のようだな」

 そう、悟空の気には何ら変化が無かったのだ。
 ベジータと同じく日々の修行で強化されてはいたのだが、彼のように飛躍的な上がり方では決して無い。
 ちなみに悟空の最大パワーにやはり追いついていない自分に気付いたベジータは若干のショックは否めない。けれどさすがに長い付き合いである、ならば特訓あるのみ、と妙な達観をしている王子。大人になったなぁ。
 決して悟空に勝つ事を諦めたわけではない。だが今の力で勝てないのなら自分が更に強くなって追い抜けば良いのだ、とその屈強な精神でただ思う。この男を殺すのは自分だと、それだけは揺るがない。まるで愛よりも強い、執着。

「おっかしぃなぁ。なんでだ?」
「俺が知るか」
「おめぇばっかずりぃ」
「ズルいも何も俺だってよく分からんのだから仕方があるまい」
「セックスが原因じゃねぇのかなぁ」
「ふん、だから違うと言ったろうが」
「でもよぉ、それ以外にねぇじゃねぇか」

 ツンとしながらもベジータも実は驚いている。
 あの行為が原因だとベジータも信じて疑っていなかったからだ。否定はしたかったが。

「俺様の常日頃の特訓が、貴様に勝ったという事だな」
「そうなんかなぁ」
「事実、俺だけ戦闘力が著しく上がっているだろうが」
「うーん、子作りでオラとおめぇの違いって言ったら・・・」
「っ・・・!ち、違うぞ!」
「オラまだ何も言ってねぇぞ」
「突っ込まれたから強くなったとかじゃないからな!間違っても俺様に貴様を抱けとか言うなよ!」
「へ?」

 しまった。
 後の祭りである。

「あー、そっかぁ!そういうことかぁ!」
「ちょ、待っ、お、落ち着けカカロット」
「んじゃぁおめぇがオラに種付けすりゃぁオラも強くなんのか!」
「た、種付け!?」

 そっかそっか、と明るい顔で小躍りでもしそうな顔をしていた悟空は、だが、ハタッと我に返り、それからシュンとカニ頭を垂れて珍しくも哀しそうな表情を浮かべた。

「ど、どうしたカカロット」
「いや、今な、オラ想像してみたんだけどよ」
「するなぁ!」
「なんか、違ぇ」
「は?」
「おら考えた事も無かったんだけどよ、オラがおめぇに種付け出来るってことは、おめぇもオラに出来るって事なんだな」

 あまりに今更である。
 その上でベジータは苦痛に耐えたわけで。それに今頃気付いた悟空はデリカシー皆無と言っていいだろう。だが、何故か互いにあの役割が自然であったのは否めない。ベジータは、確かにこの男に「抱いて」欲しかったのだ。そこに思い至ってベジータは、咄嗟に湧いた怒りと同じだけの羞恥に動揺する。

「でもオラ、嫌だってわけじゃねぇんだけど、でも、おめぇには、種付けしてぇ」
「なっ・・・!」
「なんつーか、ムラムラすると、おめぇん中にオラの入れて滅茶苦茶にしてぇって思っちまう」
「おまっ・・・!」
「オラの白いやつ全部おめぇん中に出した瞬間、なんか、すげぇ嬉しいんだ。気持ち良いし、おめぇの気持ち良さそうな顔もたまんねぇけど」
「ちょっ・・・!」
「それより、なんつぅか、おめぇん中にオラが全部染み込むっつぅか、ベジータの全部がオラのもんだって思えちまって」
「待っ・・・!」
「それが、すんげぇ嬉しい」
「っっっ・・・!」
「ベジータ?」

 プシュゥ、と煙が上がるほど真っ赤になったベジータが口をアグアグ言わせてるものだから、悟空は思わず首を傾げてしまう。そりゃ言葉も失うってものだ。
 悟空なりに無い頭を総動員して自分の思った事を説明したわけだが、それがどれだけ恥ずかし・・・もとい、嬉し・・・もとい、大告白であるかを、言った本人が一番分かっていないのである。言われたベジータ本人がこの様子では、万が一ここに第三者が居ようものなら恥ずかし死にしていたかもしれない。

「難しいな、コイっての」

 なんとも悟空らしからぬ台詞。
 けれど、妻や子供にはもちろん、他のどんな者にでも溢れんばかりの愛情を抱くこの男に、その難しいコイとやらをさせたベジータは、もっとらしからぬ言葉を吐いてしまう。

「強くなろうがならなかろうが関係ないわ!貴様だから抱かれたいと思うんだろうが!」

 思わずキョトンと目を瞬いた悟空。
 ハッと我に返るベジータ。
 互いに一瞬固まってしまい、視線も逸らせない。だが次の瞬間に悟空は、声を立てて笑った。軽やかに、真っ直ぐに、とても嬉しそうに。

「オラも、おめぇだから抱きてぇ」

 何これ甘ぁい。
 どうやら、抱く、抱かれる、の違いと使い方は覚えたらしい悟空の、満面の笑み。今日もまた、近過ぎる太陽にやられたベジータは、諦めと眩暈を覚えて溜息を一つ零すのだった。

「も、もういい!」
「なんだよ、また帰れとか言うんか?」
「言わん。特訓だ。組み手するぞ」
「・・・おぅ!」

 組み手の後は、さて、飯か、眠るか、子作りか。
 それは二人だけの秘密のお話…

「って、ちょっと待てぇぇぇ!」

 うわ、ナレーションもビックリ。

「何を良い感じで終わらせようとしやがってるんだ!」

 いやだって完全にそういう空気だから。

「まだあるだろ!疑問残ってるだろ!俺様がパワーアップした理由がまだ判明してないだろ!」
「だからオラのち○ちん突っ込んだからだろ?」
「伏字やめぃ!」
「え、違ぇのか?」
「いやそれっぽいけど何か納得いかん!ほんとにそれでいいのか理由!やっぱおかしいだろどう考えても!」

 と、のたまうベジータ。
 さ・す・が。
 鋭い!鋭いねぇ。よ、インテリサイヤン!王子!プリンス!

「何故か馬鹿にされている気がする」
「でもそれが原因ってなら、オラと子作りするたんびにおめぇ強くなるんだな」
「素直に喜べない!」

 鋭いベジータが察した通り、原因はその行為であってもちょっと違うわけで。さてここから二人のシンキングタイムが始まる。
 まずはサイヤ人の特徴からよく考えてみると良い、という天の声が二人に届いたかどうかはさておき、ベジータは素直に究明に入る。

「よし、いいかカカロット、俺達サイヤ人の特徴と言えば」
「尻尾か?」
「あぁ、大猿になる」
「でもオラたちもう尻尾ねぇしな」
「そうだな。他には、戦闘本能が強いところか」
「ただ強ぇ奴と戦いてぇだけだろ。ワクワクすっからな!」
「もういい黙れ貴様」
「なんだよー」
「そうか、俺達の戦闘力が上がる時と言えば・・・」
「あ、怒り?」
「その通りだ。怒りは俺達の理性を無くし、戦闘能力を上げる」
「そ、そんなにオラに怒ってたんか、ベジータ」
「・・・そういうわけでは無い。違うな。それに怒りは本来持っているはずの力を瞬間的に出すものであって、ベースの戦闘力自体は変わらんはずだ」

 ホッと胸を撫で下ろす悟空。
 デリカシーは無いものの、嫌われる恐怖という甲斐性はあるようだ。

「他には・・・」

 腕を組んで眉を寄せていたベジータが、ハッと何かに気付いて目を見開く。それから愕然としたように膝を床に付いた。

「どうした?」
「わ、分かった・・・分かったぞ」
「おぉ!さすがベジータ!」
「俺達サイヤの最大の特徴」
「おぅ」
「死に掛けたときに大幅に戦闘力が上がる!」
「・・・へ?」
「酷い怪我であればあるほど、死に近付けば近付くほど、それを乗り越え回復したときの戦闘力の上がり方は比例して凄まじい」
「えっと、つまり」

 さすがの悟空も理解に及んだか、頬を引き攣らせながらじりじりと後ずさる。

「俺は・・・貴様のちん○に殺されかけたという事だぁぁぁ!!!」
「ちょっとたんまベジータぁぁぁぁ!」

 ファイナルフラッシュはらめぇぇぇ!
 とか突っ込む暇もなく弾けた気弾が重力室は破壊したのは言うまでも無い。修理し終えてから再度の大破まで最短記録だったとか、なんとか。さすがのブルマも最早怒る気力が失せて泣いちゃったとか、なんとか。それには思わず悟空だけでなくベジータまで平謝りしたとか、なんとか。つまりベジータのちっちゃなお尻が悟空の凶器紛いなアレのサイズに慣れちゃう程ヤりまくればセックスの度に戦闘力アップも無いとか、なんとか。相手がサイヤ(というか悟空)である限りエッチ慣れするほど初期は頑張って回数稼がないと死にかけるんだね、とか、なんとか。

「なんとかなんとかうるさいわー!」
「ベジータ落ち着けってー!」
「死ねカカロットー!」
「しょうがねぇなもー!」

 超サイヤ4の赤毛2匹が広いカプセルコーポの敷地をボロボロにしていくのを見ながら、穏やかに微笑むブルマの母と、むしろ面白そうに結果を予想するブルマの父が、遠くに見えたとか、なんとか。

「仲良しさんねぇ、ベジータちゃんと悟空ちゃん」
「ほっほっ、こりゃぁまたあちこち直さにゃいかんのぉ」

 ブルマのブチ切れまで、あと数秒、とか、なんとか・・・
 全て世は事も無し。


END


やっぱりギャグだったね、とか、なんとか。アホ過ぎるね、とか、なんとか。でも楽しかったんだぁぁ!とか、なんとか・・・

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