後日談と言う名の
惚気話


1

 今、サイヤの歴史に新たな事象が書き加えられようとしている。
 惑星ベジータも既に無い、今。
 純血のサイヤ人も宇宙でたった二人になってしまった、今。
 地球という星で平和を謳歌しながらも本能的に日々修行に明け暮れている、今。
 そしてその最後の二人が心身共に結ばれた、今。

「どういう事だ・・・」

 そう呟いて一人わなわなと震えているのは由緒正しきサイヤの王子、ベジータ。
 カプセルコーポにある宇宙船内の重力室にて。つい先ほど二日振りのトレーニングを開始した矢先の事だった。
 ちなみに何故二日振りだったかというと、一昨日とうとうベジータは悟空との初夜(笑うとこ)を迎えたからである。誰もが判を押すであろう程に天然戦闘バカである孫悟空が、なんと唐突に己の恋心に気付いてしまい、散々周りを振り回した挙句に激しい猛アタック(笑うとこ)の末、ようやく二人は結ばれたのだ。遅咲きの春(笑うとこ)とでも言うのだろうか。周りの協力(主にクリリン)もあり、ベジータと悟空は心も身体も一つに(笑うとこ)なったのだった。(はい、これまでのあらすじでした。詳しくは連載の方を参照)
 もひとつちなみに、何故そのせいで二日もトレーニングが出来なかったかと言うと、言葉通り「腰砕け」にされちゃったからである。「駄目ぇ!そんなにしたら壊れるぅぅ!」的な展開だったからである。「いやぁぁん!もうらめぇぇ!ベジもうイッちゃうぅぅ!」みたいな・・・・・・うん、ちょっと言い過ぎた。悪ふざけた。だが後悔はしていない!(黙れ)
 まぁつまり、初めて男と(しかも宇宙最強の男と)抱かれる側でセックスをしたため、完全に腰がイカれていたのだ。あの驚異的な回復力を誇るサイヤ人が、なんと一日半も動けなかったのである。どんだけだ、お前ら。(詳しくは連載の方を参照。大事な事だから二度言ったんであり、決して宣伝ではない)
 不本意ながらも腰の回復を待ち、ようやくまともに動けるようになったベジータは、二日分の遅れを取り戻そうと意気揚々と重力室に入ったわけで。

「何故だ・・・何故いきなり・・・」

 そして回復度合いを測ろうととりあえず超化を試みたところ、予想を超えるほどに・・・

「何故こんなに戦闘力が上がっているんだっっ!」

 ということである。
 確かに毎日の訓練を欠かさないベジータの戦闘力は日毎にアップしてはいるのだが、これほど短期間での跳躍的な伸びは今までに見られなかった。特別な訓練をしたわけでも、強大な敵を目の前にしたわけでも、我を失うほどの怒りに飲み込まれたわけでもない。あえて言うならば二日前の行為ぐらいで・・・

「ま、まさか・・・」

 いやいや、ないない。
 落ち着けベジータ。
 エッチすりゃ戦闘力アップって、漫画かっ。いや、漫画か。

「そんなはず・・・だ、だが他に思い当たる事も・・・」

 考え込むうちにフシュゥと超化も溶けてしまい、冷や汗を(広い)額に浮かべてしまう。
 強くなったのだから本来なら飛び上がって喜びたい程の事実なのだが、そんな性質がサイヤにあったなど初耳であり、何より悟空との性行為でこうなっている事がまた許しがたいわけで、更に言うならこの事が悟空本人に知られようものなら色んな意味で喜々として自分を襲・・・もとい抱こうとしまくるのではないかという、恐怖。

「冗談じゃないぞ・・・あんな事を日々されていたら俺様の身が・・・」

 珍しく弱気な発言なのは、動けなかった一日半が大分堪えたからであるようだ。それはもう、妻にはからかわれ、心配する息子にはどれだけ問われても理由が言えず、かつこの状況に追い込んだ当の本人は動けないベジータを見て何故かまた興奮する始末。いや存分に優しくもされてしまったのだが、それもまた思い出すと破壊的に転がり回ってしまうほど恥ずかしいので記憶に蓋をしてしまいたいシャイプリンスベジータ。まぁそれはまた別のお話として。

「いやそうと決まったわけじゃない!大体アレで戦闘力が上がると言うなら俺はブルマとだって・・・サイヤ人同士だからか?いや待て。それならば我々の性質として昔から利用されていたはず。そんな話は聞いたこと・・・男同士だからか?いやいや待て待て。そうだとしてもやはり今まで誰も知らなかったなどあるわけが・・・俺とカカロットだからか?いやいやいや待て待て待て。何だそれ。運命的な?ロマンチック街道まっしぐら的な?出会うべくして出会った的な?そんな事があるはず・・・あぁぁ何故か恥ずかしい!」

 落ち着けベジータ。運命論には恐らく二人を知っている誰しもが渋々ながら頷くだろうが、それはさておきお前の脳内は落ち着いておけ。
 兎にも角にも悶えたり固まったりしながらダラダラと嫌な汗を掻いていたベジータの目の前に、お約束とでも言わんばかりに現れたのは、そう、もちろん我らがヒーロー!孫悟空その人!ジャジャーン!ヒューヒュー!・・・うん、ちょっとやり過ぎた。悪ふざけた。だが後悔はs(黙れ)

「おっすベジータ」

 毎度の如く太陽のような笑顔を浮かべて片手を真っ直ぐに挙げる男。
 思い切り肩をビクつかせたベジータは、だが、この信じがたい現象には気付かせまいと出来るだけいつも通りに振舞う。

「か、カカロット、今日は、い、良い天気だな!最高のピクニック日和だ!はは!」

 ・・・失敗。てへ。
 いやプリンス、てへ、どころじゃない。
 ピクニック日和とか。言わない。プリンス言わない。ピクニック言わない。
 思わずナレーションまで片言になる始末。

「どしたんだ?なんか気持ち悪ぃぞ」
「ぐっ・・・!」

 気持ち悪いと言われた事もショックだが、何より「はは!」とか言った自分に大変にショックを受けるベジータ。そりゃそうだ。

「おめぇ完全に回復したみてぇだな。オラ安心したぞ」
「黙れ!貴様なぞに心配される覚えは無い!」

 調子が戻ってきたぞ王子。

「でもよぉ、やっぱオラのせいみてぇなもんだし」
「はっ!俺様が貴様如きのせいでどうにかなるとでも思っているのか」

 悟空らしくない台詞キタと思ったら、王子の返しも如何なものか。悟空のせいで何度地に倒れたお前。とは言わないであげて頂きたい・・・あ、なんでだろう、涙が・・・。
 ナレーションの涙はさておき、なんとか調子を取り戻したベジータは、上手く己の戦闘力に関して隠し通せそうだと胸の内でホッと安堵の息を漏らす。

「つぅかさっきのすげぇ気、おめぇだろベジータ」

 惨敗。
 台無し。
 無駄な小芝居。
 などと言う単語がベジータの脳内を駆け巡り、気付けば床に両手を付いて崩れ落ちていたベジータ。

「べ、ベジータ?どした。やっぱまだ腰痛ぇんか?」
「もう、どうでもいい」
「へ?」
「やはり神など俺は信じない」
「デンデは良い奴だぞ?」
「・・・」

 最早、無言。
 どうして俺はこいつとあんな事までする関係になれたんだ、と自問自答してしまうベジータ。気分は太宰治クラスの自己否定レベルまで来ている。

「いやオラおでれぇたぞ。完全回復どころか気が上がってるんだもんな」
「そ、そのようだな」
「すぐにおめぇの気だって分かったけどよ、あんまりでけぇからまさか他の奴かと思って焦ったもんなぁ」
「焦る?貴様が?」
「ん?あぁ、そりゃぁ最初はオラが知らねぇ強ぇ奴かと思ってワクワクしたけどよ、でもブルマんちの方向だったからさ」
「何が言いたい」

 まさか他の強者だったならば自分が襲われて怪我をする事を懸念したとでも言うのだろうか。もしそうならばぶっ殺してやる、とベジータは米神に血管を浮かばせる。
 隠してきた気持ちを曝け出し、身体を繋げる関係になった今も、二人が戦士である事に変わりはない。強さを求める者同士でありたい。その上で、悟空が要らぬ情けを殊更に自分に抱くようならば、それはベジータの望んでいた関係では決して無いのだ。

「いや、おめぇが先に倒しちまうんじゃねぇかと思ってよ」
「・・・は?」
「だって強ぇ奴だったら真っ先におめぇ戦おうとするだろ?」

 悟空にだけは誰しもが言われたくない台詞であろう。

「オラだって強ぇ奴と戦いてぇよ」

 ニカッと笑うカニ頭は、何の裏表もないただの戦闘バカであった事を今更ながら思い出すベジータ。一瞬だけ呆けた顔をした後に、口の端を引き上げてクッと小さく喉で笑った。

「当たり前だ。貴様なぞ来る前に俺がぶっ殺す」
「ずりぃぞベジータ。もし強ぇ奴来たら、ちゃんとジャンケンで戦う順番決めようぜ」
「うるさい。早いもん勝ちだ」
「えぇ〜」

 最後にブゥと戦ったときもそうだった。
 純粋に戦いというものを精神の糧としている人種、サイヤ人とはそういうもので、そしてその最後の生き残った二人なのだ。
 関係が変わってしまいそうで気後れしていたのは己の方だと、ベジータは珍しく自分を卑下し、そして腹の底から可笑しくなった。あまりに変わらない、半身とさえ言える自分のライバルに。

「それで?俺だと分かってガッカリしたか。それとも俺と今すぐ戦うか」
「おぅ、組み手すっか」
「フンッ!よかろう」
「なぁ、さっきのがフルパワーか?」
「どうだろうな」
「あ、つかおめぇなんでこんないきなりパワーアップしたんだ?」

 ギクリ。

「オラに内緒ですげぇ修行したんか?でも昨日まで寝てたしなぁ」
「誰のせいだ!」
「やっぱオラのせいだって思ってんじゃねぇか」
「くっ!」

 珍しく頭を使った言い回しをしやがって!などと思っているのはベジータだけで、つまりはどっちも若干頭が弱いのではないか、と思っているのはナレーションだけで。

「んで?何かしたんか?」
「・・・」
「精神と時の部屋なら使ったときにオラ気付くしなぁ」
「何っ?そうなのか?」
「だってあそこ入ると完全に気が消えるからよ。オラおめぇの気が消えたらすぐ分かるし」
「・・・」

 何故か微妙な顔をして顔を赤くするベジータ。何これ甘い。

「つぅことは寝込む前に何か・・・あ」

 ギクギクリ。

「あー!」
「お、おい、カカロット」
「そうか!すげぇ!」
「お、落ち着け、まさかそんな事」

 嫌な汗がベジータの背中をドッと流れる。

「セックスかぁ!!」

 はいバレたー!

「ち、違うに決まってるだろ!」
「えー、だって他にねぇだろー」
「き、貴様の知らんうちに特訓をしたんだ!」
「おめぇほぼ毎日オラと組み手してたじゃねぇか。そんなんしてたらさすがにオラだって気付くぞ」
「気付かれんようにしてたんだ!」
「オラがベジータの事で気付かねぇ事なんかそうそうねぇと思うんだけどなぁ」
「き、貴様はさっきからなんか恥ずかしい物言いがチラ見えしてるのをやめろ!」
「え?」

 付き合いたてのカップルに見られがちな、自覚無いラブラブ期に突入している事にお互い気付いていないようである。

「ん?待てよ?でもオラ、チチと子作りした後に気が上がったりしなかったぞ?」
「ッ・・・」

 ベジータは、自分も妻がある身でありながらも、やはりハッキリと聞いてしまえば胸が一瞬だけ痛むのを禁じえない。そんな事を思う自分さえも腹が立ち、殊更に苛立ちが増した。

「ベジータとだから、か?」
「だから、違うと、言ってるだろ」
「他にねぇだろ。オラとおめぇが子作りすっと強くなんのか。なんかすげぇな」

 ニッと笑う悟空に、ベジータは敏感に嫌な気配を感じて身構える。

「てことはだ、ベジータ」
「な、なんだ」
「オラと修行して、それから毎日セックスすりゃぁ・・・」
「言うと思ったわ!このクソッタレ!誰が毎日するか!俺様を殺す気か!」
「えぇー」
「大体だな!アレは戦闘力を上げる為にする行為ではなく互いに好ッ・・・な、何でもない」
「なんだよ、途中で止めんなよベジータ」
「う、うるさい!」

 今、自分は何を言おうとしていたのか。
 愛だの何だのを、それこそ嫌悪していた昔の自分も捨て切れないベジータは、更にプライドも邪魔して、セックスという行為の意味を説こうとしていたらしい己に羞恥すら感じてしまう。
 真っ赤になって俯いてしまったベジータは、両手の拳を握り締めて、怒りやら恥ずかしさやらでもうとにかく混乱している。力み過ぎて震えてさえいるベジータを見ていた悟空は、不謹慎にもゴクリと小さく喉を鳴らしてしまった。

「ベジータ、なんか、オラ・・・」
「黙れ。もう帰れ。貴様なぞ知らん」

 泣いてはいないのに声までも小さく震えていて、悟空は殊更に自分の中の何かが煽られている事に気付く。それが嗜虐心というものだとは、まさか本人は気付かない。サイヤ人の持つ戦闘本能は、戦いへの純粋な欲求であると同時に、強い者を平伏させる事への欲望でもある。だがそれは本能の一部であり、もちろん戦闘だけを求める部分の方が本来である。
 だが切り離せないのは、戦い勝つ事への欲求と、相手を負かす事への欲望。つまりは嗜虐心。悟空の中にも少なからずそれはあるのだ。


ギャグに走ったかと思いきや!あれ?あれあれぇ?

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