パロディでGO!1



お題『猫耳』―2


 シャツを首元まで引き上げた南郷は、顔を真っ赤にして、視線を逸らしたまま呟く。

「は、半脱ぎ、です」
「・・・パフパフってどうやるの」
「えっ、あ、えと、ここに、顔を」
「どこ」
「あ、その、お、俺の、胸に」
「胸?」
「っ・・・お、俺のおっぱいに、顔を、埋めてください」

 策士アカギ、鼻血が出る5秒前。

「仕方ないな。アンタがそう言うなら」
「えぇ!」

 注文したのはお前だろ!とは言えない南郷。
 アカギは南郷の背に腕を回して抱き付き、まるで赤ん坊のように、その胸に顔を寄せた。女性のものとは明らかに違う、胸筋。決して柔らかいものではない。だが程好い弾力で押し返されそうになるのを、フニリとまた頬で押し返す感触がたまらない。
 胸の谷間に鼻先を合わせて、存分に顔を押し付けた。左右の胸筋が左右の頬をグニグニと押し遣る。見えはしないが今、アカギの口元は恐ろしいほどに緩みきっている事だろう。
 無言でひたすらに顔をグイグイと押し付けているアカギを見下ろし、南郷は手を伸ばす。

「そ、それでは、失礼致します」
「え?」

 言うや否や、南郷は両手を自分の胸の横側、脇の下辺りに置いて、アカギの顔を挟むように押し始めたのだ。胸の筋肉と贅肉の塊が、殊更にアカギの頬を押してくる。
 これが、所謂、パフパフか!

「い、いかが、ですか」

 まるで自分で胸を揉みしだいているような状況に、南郷は若干息が荒くなり始める。アカギが顔を少しだけ左右に振れば、柔らかい白髪が乳首を撫でた。まるで筆の先で悪戯されているような感覚。南郷はたまらずギュッと目を閉じる。

「くっ・・っ・・」
「ダメだよ南郷さん」
「え」

 再び目を開ければ、胸元からアカギが己を見上げている。
 羞恥に南郷の目元はますます赤くなってしまった。

「感じたときはニャーって言ってくれないと」
「は?」
「猫なんだろ?」
「うっ・・・」
「ほら」

 殊更に恥ずかしい要求をされて言葉を呑むも、何故か逆らえない。
 アカギは再び顔を左右に振った。南郷も最早意地か、両手を休めずムニムニとアカギの顔を挟んでやる。

「っ・・・ふっ・・・」
「違うでしょ」
「ん・・っ・・に、にゃぁ・・」
「っっっ!!!」

 あまりの破壊力にアカギの方が吹っ飛んだ。
 華麗に空を舞う細い身体。が、床に落ちればすぐさま南郷の元へザザザッと詰め寄り再度のパフパフ姿勢へ。まるで野生の獣がここに居る。
 あまりの事に南郷は反応できないまま、気付けば元の体勢になっていたため、今のは幻かと思ってしまう始末。
 そしてアカギ、引かず。パフパフ。
 パフパフ。
 パフパフパフパフパフパフ・・・

「あ、あの、アカギ様」
「様?」
「あ、アカギ」
「何」
「まだ、やるんですか?」
「あぁそうか。次に進まないとね」
「はい?」

 南郷の背に回っていたアカギの手が、ぬるりと動き出した。
 慌てる南郷をモノともせず、今度はアカギ自ら南郷の胸に掌を押し当て、ムニリと一揉み。

「あっ・・」
「違う」
「に、にゃぁ・・・」
「そう」

 揉み応えのある胸筋を繰り返しムニムニしていれば、南郷は腰をモジつかせ始めた。
 そしてアカギの指が、南郷の乳首にとうとう触れる。

「に、にゃぁぁ」
「いいね」
「にゃ、ぁ・・あ、あの、それは、あの」
「何」
「べ、別料金、に」
「追加で」
「ま、待ってください、マネージャーに」
「は?」

 わたわたと南郷が抵抗の色を示せば、ようやくアカギも顔を上げる。
 そこへタイミングよく現れたのはマネージャー仰木。薄暗い中でもしっかりと全テーブルの状況を把握している彼にとって、揉め事が起こる前にそれに対処するのも仕事の内だ。

「アカギ様、ウチの大事な猫に無体はおやめ下さい」
「サービスの内でしょ」
「南郷さん、追加はどこまで入ってる」
「あ、はい。あの、半脱ぎと、あと、スペシャルと」
「ほぉ、スペシャルまで。ありがとうございます」
「・・・」
「それと、今、直おさわり、を」
「楽しんで頂けているようで何よりです」
「それじゃぁ、邪魔しないでもらえる」
「いえサービスの内と言いましても、猫達はウチの大事な商売道具。嫌がるようでしたらお代金は差し引かせて頂きますので、申し訳ありませんがチェンジを・・・」
「あっちのテーブルは良いの?」
「はい?」

 夜目の効くアカギにはどうやら他のテーブルの様子が見えるようで、彼が指差した先を仰木が振り返る。それは5番テーブルで、ドッタンバッタンと暴れている様子が見て取れた。

「あぁ、あれはあの猫のスペシャルサービスなので」
「へぇ」
「それではすぐに他の猫をお呼び致しま・・・」
「いらない」
「はい?」
「南郷さんじゃなきゃ、別にいらない」
「・・・アカギ」

 この短時間でどこまで虜にしてしまったのか。
 仰木は、新人ながら南郷の可能性に驚きを禁じえない。

「南郷さんは、どうなの」
「え」
「嫌なの、俺の相手」
「・・・あ、その」
「嫌なら、帰るよ」
「そ、そんな・・・い、嫌じゃない、です」
「だそうだよ」

 無表情のままに仰木を振り返るアカギの背中には、どやどや、の文字が浮かんでいる。
 仰木はニッコリと笑顔を浮かべ、軽く一礼をした。

「失礼致しました。どうぞ心行くまでお楽しみ下さい」

 それだけ言うと仰木は一歩下がり、再度頭を下げてからテーブルを離れていった。あの客は要注意だな、と彼の中のブラックリストに名が一つ追加された。無理を言う、暴れる、の類ではないが、あれは人でなしの目をしている。ここで遊ぶような男ではない。若干の恐れを抱きながら、仰木は各テーブルの監視に戻った。
 そして視線を件の5番テーブルに向ける。いつもの事なので大丈夫だとは思うが、あっちはあっちで要注意な客なのだ。気に入りの猫に入れ込んで頂けるのは有り難いが、度が過ぎると困りものである。
 そう、安岡ニャンコと、その常連、平山である。

 時間を少し戻そう。
 嬉々として鼻息荒くソファーの上でルンルンしている平山の元へ、酒を載せた盆を手に安岡ニャンコがやってきた。

「指名ありがとよ、平山」
「安岡さーん!」

 いきなり飛び上がってダイブをかまそうとした平山の顔に、昼間鍛えられている安岡の拳がめり込む。これもいつもの事。

「酒零しちまうだろうが」
「す、すいま、せん」

 ズルズルと落ちていく平山は完全に無視して、テーブルに盆を置く安岡。注文の品は日本酒だったようで、ガラス製の徳利とお猪口が乗っていた。

「まぁ飲め。ほらよ」

 鼻から血を流しつつソファーに座り直した平山にお猪口を渡し、何故か偉そうに酒を注ぐ安岡ニャンコ。乾杯をしてから互いにグッとお猪口を空けた。

「良い飲みっぷりです安岡さん」
「おぅよ。もう一杯もらうぜ」

 既に手酌を開始する、有り得ない従業員。
 そんな安岡を、ホォ、と甘い溜息を零しながら見詰める平山。若干、病的でさえある。安岡が動くたびに揺れる茶色い猫耳に見蕩れている。

「似合います、ホントに似合います」
「あ?」
「毛が逆立ってるとことか、ホント、野良猫っぽくて」
「あぁ?」
「あぁ、飼いたい!いや飼われたい!」
「ほんと気持ち悪ぃなお前」
「くっ!罵倒がたまらん!」
「変態、へたれ、凡夫」
「あぁアカギ以外に言われた!でも良い!」
「うるせぇなぁ、ったく。んで、今日はどのメニューにすんだ。また全部か」

 変態平山は常連の上にサービスメニューのほとんどを網羅した、この店の覇者である。良かったな平山、お前が覇者だぞ!

「迷うけれど、まずはスペシャルでお願いします」
「しょっぱなから飛ばすなぁ」
「はい!」
「んじゃ、跪け、ほら」
「はいい!」

 平山は嬉しそうに、ソファーでふんぞり返る安岡の前に膝を付いた。
 すると安岡は、おら、と言いながらその肩を蹴り、尻餅をつかせる。

「脚開けよ、あ?」
「あ、あぁ、はい」

 安岡の革靴が、尻餅を付いた平山の太股をスリスリと撫でる。平山は期待に満ち溢れた顔でゆっくりと震える脚を開いていった。今度は内腿を、革靴が撫で上がっていく。

「靴、脱がせな」
「は、はい」

 平山が震える手で、安岡の靴と靴下を脱がせていくと、唐突に平山の股間をその足でグッと踏んだ。

「あぁ!」
「ほら、ほらほら」

 これは、まさかの・・・そう安岡ニャンコのスペシャルメニュー!足○キである!

「来たばっかでいきなりこれとは、お前も相当の変態だな、あ?平山よぉ」
「ご、ごめんなさい」
「何謝ってんだよ。あぁ、もう要らないからってことか?じゃぁやめるか」
「やめないでぇぇ!」

 すがる平山。蹴り倒す安岡。
 押し倒す平山。張り倒し返す安岡。
 ドッタンバッタン。

「あぁそこはらめぇぇ!」
「よがってんじゃねぇよ雌猫がぁぁ!」

 猫はお前だ安岡。落ち着け。いやこの場合落ち着くべきは平山か。
 遠くからそれを見ていた仰木は、よし大丈夫、と爽やかな笑みで頷いた。
 さすが伝説と謳われる店である。念の為、彼と共に店を訪れた石川の居る8番テーブルにも視線を向けた。そこには静かに酒を酌み交わす男が二人。
 まるでどこかの静かなジャズバーのような、いやむしろ古い民家の縁側のような。酒というより茶のような。

「市川先生、お体の調子はどうですか」
「あぁ、悪くはねぇさ」
「それは良かった」
「お前も物好きだな、石川よ」
「そうですかね」
「こんなジジイのとこに通って、楽しいのかい」
「えぇ」
「そうかい・・・」

 市川が頭を揺らすたびに、垂れた白い猫耳がフワフワと蠢く。

「あぁ・・・」
「ん?」
「い、いえ」

 触り倒したぁぁぁい!などと心の中に吹き荒れる嵐は、大人の理性で押さえ込む石川。それを知ってか知らずか、市川はニッと人の悪そうな笑みを浮かべながら、ワザとらしく頭を揺らし、長い髪を手でかきあげる。
 仰木、うんここも安心!とやはり爽やかな笑顔。
 なんだろう、この店。
 おっと2番テーブルでは大変な事になっているようで、押し倒された南郷が最早全裸に近い格好にされているではないか。
 仰木は一瞬うろたえるも、どうやら無理矢理という様子ではないので、とりあえずは見守る事にした。

「ちょ、待っ・・アカギ」
「何」
「ゆ、指入れは、追加料金です」
「いいよ。その先もあるから、追加しといて」
「え」
「指じゃないもんを・・・」
「待っ、えぇ!」
「何」
「お、俺、今日、初日で、いきなり、そんなっ」
「猫はニャーしか言えないはずだけど」
「っ・・・」
「ほら」
「にゃ、にゃぁ・・ぁ、くっ・・・にゃ、ぁぁ・・・」
「そう、良い子だね」
「にゃぁぁぁ!」

 今日もニャンパラは大繁盛。
 また新しい常連が増えたと思ったのは束の間、瞬く間に売れっ子になった南郷ニャンコを、その新しい常連が連れ去ってしまうのは、もうすぐ先のこと・・・。

 今宵もオッサンが猫になる。
 猫耳という戦闘服と共に行く。
 さぁ貴方もどうぞ、ニャンニャンオッサンパラダイスへ!

END




〜撮影後の楽屋にて〜

▼皆様お疲れっしたー。
南・安「待てぇぇぇぇ!」
▼はい?
南「何その、何を怒ってるのか全く分かりませんけど?みたいな顔」
安「つぅかなんで俺まで猫耳になってんだよ!南郷さんだけじゃねぇのかよ!」
▼なんか、流れ?
安「てめぇブタ箱ぶちこむぞ!」
▼そんな暴言吐くと平山が興奮しますよ。
安「うるせぇ!ウチの平山はあんなキャラじゃねぇ!」
▼ほらもう後ろでハァハァ言ってる。
安「うおっ!平山ぁ帰ってこぉぉい!」
平「あぁ、ウチの平山とか、ギザ萌え」
安「ダメだぁ!既に致死量の血液抜かれてるぅぅ!」
▼はいはい、落ち着いて。せっかく掘り起こしてきたんだから。
安「何やってんだ管理人!」
市「まだ良いだろう、アンタは。ワシなんぞ本当に意味が分からん。なんだ、需要があるのか」
▼もちろんです。自分の希望です。
市「お前だけだろぅが!」
▼先生、血圧が。
市「もういい、ワシは帰る」
▼石川さん、控え室にお連れして。
石「あ、はぁ」
南「何ナチュラルに石川さん使ってるんだ!」
―市川・石川、退席―
▼あれ?アカギさん?なんか喋りませんね?
ア「へなへなしそうだ!」
▼まさかの自らへなへな!
ア「けっこう良かったんじゃない?」
南「アカギ、落ち着け。それ本意か」
ア「まぁね」
▼あ、お二人の控え室もありますよ。
南「は?」
ア「じゃぁ行こうか南郷さん」
南「控え室って二人ずつ!?何その無駄な配慮!」
▼ごゆっくり〜。
―アカギ・南郷、退席―
安「ちょっと待て、まさか俺らのも」
▼ありますよ。
安「何その、当たり前でしょ何言ってんのこの人、みたいな顔!」
▼ほら平山さん、休ませないと再びのお陀仏ですよ。
安「再び言うな」
平「安岡さん、へへ、猫ちゃん・・へへ、へへへ」
安「平山ぁぁ!くそぉ!」
―安岡・平山、退席―
▼というわけで、オマケは各控え室の隠しカメラでお楽しみください(笑顔)



オマケ


〜市川・石川、控え室〜

「何だったんだろうな、石川よ」
「なんでしょうね。夢みたいなものだと思えば」
「そうか。まぁ猫耳付けさせられた以外は、大したこたぁなかったか」
「えぇ、私も変な台詞言わせられた以外は大して」
「お前と二人で茶ぁだの酒だの飲むなんて、いつも通りだしな」
「そうですね」
「たまにぁ場所変えてってのも、悪くは無かったさ」
「それは良かった」
「いつもウチの縁側じゃぁ、芸もねぇしな」
「いえ、私はそれでも一向に構いませんよ」
「そうかい」
「はい。市川先生にお供出来るんでしたら、場所など、どちらでも」
「・・・そうかい」
「はい」
「また、来るかい」
「はい、伺います」
「そうかい・・・」

・・・ほのぼのEND・・・


〜安岡・平山、控え室〜

「疲れた・・・俺ぁ疲れたよ平山」
「凄かったです!安岡さん!」
「うおっ、生き返った」
「死にたくなーい!」
「分かった、分かったから落ち着け」
「はぁ、はぁ、な、何やってたんだ俺」
「ちょっと正気に戻ったみたいだな。つぅか、なんだよ、これ。なんで俺が拍手お礼出てんの?」
「それは仕方ないですよ。猫耳って言ったら確率から考えても安岡さんしか」
「落ち着け平山。俺が悪かった。俺の育て方が悪かったのは謝る。だから冷静になれ」
「お、俺、安岡さんなら、その、いいですよ」
「は?何がだ」
「あ、足、足コ・・・」
「もっかい死んでこーい!」
「死にたくなーい!」

・・・バッドEND・・・


〜アカギ・南郷、控え室〜

「いやおかしいだろ」
「何、南郷さん」
「いや、え、これ、え?大丈夫なの?なんか大丈夫なの?」
「何が」
「猫耳!というより設定自体!何ニャンパラって!」
「ニャンニャンオッサンパラダ・・・」
「正式名称を聞いたわけではございません!」
「落ち着いて。語尾がおかしい」
「萌えれるのか!?これ萌えれるのか!?」
「余裕」
「えぇ!」
「というかあんだけニャーニャー喘いだ後でよくそんだけ騒げるね」
「う、うるさい」
「猫耳、似合ってたよ」
「っ・・・」
「可愛かったね、南郷ニャンコ」
「かわっ・・」
「ウチでもやろうか。今度は二人きりで」
「や、やらないからな!」
「はいはい」
「やらないからな!」
「はいはい」
「アカギィ〜!」

・・・スイートHAPPYEND・・・


▼というわけで、パロディシリーズ第一弾『猫耳』でございましたー。


ホントにEND


酷い、これは酷い・・・
引っ張った挙句にお前。つか猫耳あんま意味なくない!?
おっぱい需要じゃねコレ!?
つかパロディって何?おいしいの?
あ、えと、は、拍手ありがとうございました!

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