Agapanthus




「柚葵!」
「?」
ミーティングが終わり、ホワイトボードを倉庫に返した直後呼び止められた
「どうしたんですか?孝支先輩」
「あ、いや…その」
「?」
視線を泳がす孝支先輩
最近様子がおかしい気がするのは気のせいじゃないと思うんだけど……うん、やっぱりおかしい…きっと疲れてるんだろう
「…今日、孝支先輩は活躍されたので送ってもらうのは無しで大丈夫ですからね!明日に備えてください!」
「え!いや!それはそれで困んべ!」
「駄目です!明日も勝つためにはちゃんとご飯食べてお風呂入って早めに寝る!それが選手の勤めです!」
「それはそうなんだけど…」
「そうなんです。だからちゃんとー」
「柚葵不足なんだけど」
「かえって…………は?」
「少しでも長くいたいなって思って送ってるんだけど……下心ありありな感じでごめんな?」
「いや、え、は」
「でもそうだよなぁ……柚葵絶対試合ある時とかはあんまり送らせてくれないもんな…俺達のことを考えてくれてるのすごく分かるんだけど」
「は、はい」
「ちょっと寂しくて」
なんだ、なんなんだ
私の目の前にいるこの人は本当に孝支先輩なのだろうか
「こうして会話できるだけでも嬉しいけどな!」
いっそのこと早く楽にさせてください
このもどかしい感じ早くどうにかして…!

そして結局孝支先輩に負けた私は家に送り届けられるのであった

そんなことがあっても大事な朝を迎える
春高宮城県代表決定戦 2日目
1日目に生き残った強豪校が一同に仙台市体育館に集まるわけで
「柚葵〜」
「来んの早いな」
当然のごとく幼馴染み達もいる
烏野の皆は準備に
私は横断幕を設置に来たわけだけど、目敏い徹くん達に見つかってしまった
「徹くんに岩ちゃん…なんでここにいるの」
「柚葵が見えたから」
「及川が脱走したから追いかけてきた」
「…岩ちゃん、お疲れ様」
「ああ」
「え!?なに!!ここまで来ても俺そんな扱い!?」
「大事な試合前にごめんね」
「別になれてるし、柚葵とも会えたからな」
そういって岩ちゃんは私の頭をぽんぽんっと叩いてきた
「い、岩ちゃんだけ狡い!」
「今日お互い勝ったらリベンジ戦できるから頼むよ」
「おいおい、それはこっちの台詞だ。負けんじゃねえぞ。まあ、勝ってきてもまた勝ってやる」
「ねえ!?二人とも無視なの!?ねえ!!及川さん泣いちゃうよ!?徹くん泣いちゃうよ!?」
「じゃあ、岩ちゃんそこの人よろしくね」
「おう、任せろ。頑張れよ」
「本当に無視は流石に泣く!!」
わーわー喚いてる徹くんを置いて下に集まってる皆の元へ行くと
「なんか、すごかったな…」
「及川さんもいつも通りっすね」
「……目立ってました?」
「…少し」
「…すみません」
徹くんのせいだ
「フレェーフレェーたァーけェーるゥー」
『フレッフレッたける!フレッフレッ和久南オオーーッ』
そんな中響いてきた応援に目を向けると、そこには和久南の中島さんの家族が応援に来ていた
「…昨日より増えてる?弟…?」
そんな応援を見て目を輝かす翔ちゃんに
「なんでチョット羨ましそうなの」
すかさずツッキーが突っ込んだ
ツッキーって何だかんだでよく周りが見えてるよな…と思うのは私だけだろうか
「ホレホレ集中〜!!」
「?烏養君どうかしました?」
「…気合い入れるぜ先生…」
「え?」
「…単なる俺の感覚の話だけど……この和久南てチーム多分、烏野と相性悪いから」
「…私もそう思います」
「!」
音駒に、勝ててない烏野はこの対戦相手、相当…分が悪い
「「お願いします」」
とはいっても負けるとは言わないし、絶対勝つとも言わない
保証された勝利なんてどこにもないのだから
「龍〜〜〜!龍ちゃーん!」
そんな時に聞こえた声にはっとする
「ゲェッ」
「!姐さん!!!」
「さえ姉!!」
「おっ!夕に柚葵〜!!!応援に来たぞ〜!!」
こっちにも強力な家族応援がきた!

「サッコォーイ!!」
相手のサーブから始まった試合
「ナイサー!」
「大地!」
「オーライ!」
大地さんがレシーブしたボールは綺麗に飛雄へ返る
そして一発目は挨拶代わりに変人速攻
「オオッシャアアアア!!!」
「日向ナイスキー!!」
最初の一点目はきちんと決まり、こちらに点が入った
のだけど…
「おーし次すぐ切るぞー!」
「ハイッ」
「ウェーイ!」
驚いてる様子が一切無い
対策は万全ってところかな
「相性が悪い…というか」
「!」
「ウチが苦手なタイプ…という事ですかね?」
流石武ちゃんよく見てる
「…ああ。今までの傾向からして烏野は何か突出した武器でガンガン攻めて来る相手より、どっしり自分らのペースを護りつつこちらの隙を伺って適切に対処してくる相手を苦手としている」
「音駒と…青城が正にそうですよね」
「ああ、ドンピシャだ」
「成る程…」
「それに、一発目で変人速攻に驚かないチームは初めてですよね」
「確かに」
潔子さんも、うんと頷いてる
「日向お前、強豪校に警戒されてんじゃないか〜」
「!」
「柚葵みたいに、きっとお前の研究とかしてるんだぞ」
大地さんがここぞとばかりに翔ちゃんに言葉を投げ掛けてる
私の名前が出たことには目をつぶろう
そしてまんまと
「いやー俺達霞むなァー」
「だがおれは昨日のおれを超えるのである」
「ヘーイ日向だけ見てっとついばむぞコラァ〜」
単細胞のやる気のツボを押さえた
流石主将
「影山ナイッサー」
豪速球が和久南の中島くんを襲う
結構いいコース
「!」
「ナイスレシーブ!」
だけど、相手のレシーバーが凄かった
綺麗にあげられると多彩な場所から攻撃を仕掛けてくるモーションに
2番くんが後ろから回り込んできた
振り回されたブロックは龍の一枚のみで…ストレートを抜かれてしまった
「時間差決められちゃいましたね…」
「あれが和久南の武器であるコンビネーション…!」
「……………」
「平均して身長はあまり高くなくても、常に県の上位に居る実力ということですね…!」
「武ちゃん、それだけではないんですよ」
「?」
「スパイカーにいちいち反応すんな!球を追えよ!」
「わ、わかってるよ頭では!」
「でも身体が動くかは別…わかるぜ…」
「……及川さん、さっきのはどういう意味ですか…?」
流石の武ちゃんも今回の和久南戦で何かを感じているのかいつもより聞いてくる
まさに今、変人速攻が拾われて相手の攻撃のタイミング
「猛ラスト頼んだ!」
「オオッ」
「ー和久南の武器はコンビネーションだけじゃない」
「私が言いたいことはきっと今から中島さんがします」
「?」
「止めるぞ!せーのっ」
「ブロック3枚!!!」
ほとんど抜くところがない3枚ブロックに対し中島さんは1番腕の力がないであろう人物、翔ちゃんに向かって打ち込み
「ブロックアウト…!」
球をコート外へと弾き飛ばした
「中島さんはこのブロックアウトができるテクニックが何よりも厄介なんです」
「空中戦のテクニック…コンビネーションと同じく厄介という事ですか…」
「そうです」
「中島猛。今の県内ではもしかしたらプレースタイルが1番似てるのかもな…」
「え?」
「かつての"小さな巨人"に」
「だからこそ厄介かもしれない」
"小さな巨人"に憧れて今はその"小さな巨人"と同じユニホーム、同じ番号を背負っている日向翔陽にとってこのことが吉とでるか凶とでるか分からない
「ブロック2枚!!」
試合が進んでいくにつれて確信してる
中島さんのブロックアウトを何とかしないと烏野はリードさせてもらえない
「あの中島君は日向君のようにとてもよく"見えている"という事なんでしょうか…?」
「…うーん、中島がどのくらい見えてるのかはわかんねえけど、日向みたいに細かい場所を狙うっつーより、工夫してんのは"角度"じゃねえかな」
「?」
「スパイクを打ち込む角度を変えてるんだと思う。ブロックの手に当てて大きく弾かせるための角度」
「よく相手を見てますよね……でも」
負けじと翔ちゃんが点を取り返した
まだまだウチの小さな雛鳥は心配しなくても良さそう
「日向ナイスキー!」
「あーくっそ!」
「もーちょいで拾えたぜ!読めてる読めてる!次、完璧に取れるぞヨユーヨユー!」
「うっ…うぐぬ〜!!」
「アレは半分挑発だ。乗るな乗るな」
「えっ」
「えっ」
まあ、翔ちゃんが挑発に乗ってしまうのは仕方ないとしてもだ
「龍の挑発に乗りやすい性格はどうにかしなきゃだわ…」
「大変そうだね…」
「潔子さん…!」
「ファイト」
多分1番大変なのは力になるんだろうなぁ
にしても…
「なんだか主将対決みたいですよね」
「確かに…互いの主将がどうチームをまとめるか…な感じだね」
「そうです。それにしても……飛雄は"小さな巨人"対決にこだわりすぎですね」
「…ほんとだ……東峰と田中の打数が少ない」
「戦略か、無意識か」
きっと後者だろうけど
「"次世代小さな巨人"達による空中戦勃発中ですが」
「?」
「ウチの王道エースもお忘れなくね」
「!ーーウス」
「なんで外側から見てないのに分かっちゃうんだろ……大地さん凄すぎないですか」
「……ああ、今それを実感してるところだ」
翔ちゃんにコミットブロックをつけるということはこっちの思う壺であることを実感させる
その為には烏野の現エースの役目であり…
成し遂げることが最重要で
「チックショ…!」
「旭さん!ナイスキー!」
「「オエーイ!!」」
成し遂げてくれるのが旭さんである
拳をぶつけ合った大地さんと旭さんだけど、凄い音がしていたからかめちゃくちゃ痛そう…
あ、やっぱり痛がってる
「影山ナイストス!」
「あっウス!」
「ウン…皆おちついて対処してますね…!」
この一点でリードできた烏野はそのままのリードを守ったまま…
「月島ナイスブロック!」
「よし!ここがチャンスだ!勢いに乗るぞ!!」
「「ッシャアアア!!!」」
ではなく、ツッキーのブロックで2点差まで離すことができた
だけど流石主将対決
「オレにガンガンよこせーっ」
「ハイハイ」
普通なら不穏な空気になるはずなのに、なにやら選手のモチベーションを上げる言葉を言ったらしい
全く空気に乱されてない
「粘りの和久南!こっからが真骨頂だぜェー!!」
『ウェーイ』
「向こうの主将もなかなかの"土台"っぷりですね…!」
17-19
そしてここからしんどいラリーが続く
打っては取られ打たれ取り、そんなラリーがまだ、続く
「旭!」
旭さんのボールも繋げられる
「切らすな切らすな!!ここ絶対獲るぞ!!」
『オオッ』
「猛頼むっ」
「オオッ」
「ブロック3枚!!」
流石空中戦のテクニックが県内一
ブロックアウトを取りに行った打ち方にブロックは負け、そのまま弾き飛ばされる
「フンッ」
「大地さん!!ナイス!」
「上がってる!」
「ラスト!」
だけど、そう易々と取らせないのも烏野
龍と大地さんがボールを追いか
「危ない!!」
「柚葵!?」
ああ、どうする、どうしよう

大地さんが…!
誰よりも頼もしく
誰よりも大きな背中が
「大地!!」
「大地さん!」
本来あるべき位置ではない場所に落ちてしまった
龍と相当な勢いでぶつかった大地さんが床に倒れた

「ーうっ」
「大地さん!」
「澤村!」
いけない…!大地さん意識あるけど直ぐに起き上がろうとしてる!
「大地さん!直ぐには起き上がらないでください…!頭打って脳震盪の可能性もあるので!皆もなるべく大地さんを動かさないで!」
一応コート外から大声で指示をする
私にはこの神聖なコートへ入る権利はない
未熟なトレーナーでは入っていけないと、選手だった自分が訴えかけてる
過去にけじめをつけれた自分は今、このコートに足を踏み入れてはならない
こちらまできてもらわないと…
いや、なんで私が!って全部しようとしてるんだ
誰よりも頼りになる大人がここには沢山いる
「武田先生、大地さんの確認してもらってもいいですか?私より先生が適任かと」
「そうですね…!」
「ありがとうございます」
ゆっくりと起き上がった大地さん
見たところ顔の側面の損傷が激しい
私が出来ることは沢山ある
「潔子さん、ティッシュ貰っていいですか」
「うん」
きっと口の中が切れてるはず
それと
「ーう〜〜っ!いてぇ〜」
「どこ打った!?」
「か…顔?」
「澤村君、今居る場所は?」
「?仙台市体育館です」
「今の対戦相手は?」
「わ…和久南です、俺は大丈夫です!」
確かに受け答えはちゃんとしてるけど
「でも頭を打った様なのでとりあえず医務室へ…お願いします烏養くん、及川さん」
「おし!」
「分かりました」
「…!」
大地さんにとっても辛い宣告だとは思うけど、烏野にとっても辛い決断
でも、命の関わりがあるのであれば……そちらを最優先にすることは間違ってない
「大丈夫である事を確認してきなさい。それが試合へ戻る最短の道です」
その言葉にふらつきながらもこちらに来た大地さんは、ちゃんとしっかりしてる
「大地さん、口切ってますよね?ティッシュ使ってください」
「…?」
止まった大地さんの口からでてきたのは…
「「歯ッ!?ひいッ!」」
歯が取れてる……相当な衝撃がはいったということ
歯の神経がやられてなければいいけど
「潔子さん、後お願いします」
「うん」
ティッシュを潔子さんに渡して私は
「力」
「……!」
なによりも重荷を背負わせることになろう力へ
「柚葵、俺には大地さんの代わりは務まらない…菅原さんの方が…」
「誰も代わりなんて思ってない」
「でも、」
「力は力。それ以上でもそれ以下でもない。力は大地さんにはなれないし、大地さんも力になれない。これは力自身の試練」
「………」
「力なら…"縁下なら大丈夫だ!"って言葉を求めても周りは言ってくれないよ。自分自身で"俺は俺。大丈夫"って思わないと」
「柚葵…」
「今言うのは酷な事かもしれないけど、大地さんの後を継げるのは力しかいないと私は思ってるよ。一成と久志…後は任せた」
「「おう」」
それだけ伝えて大地さんの元へ
甘い言葉を言っては一度逃げた力に失礼になる
またあなたは逃げていいよ、と
あなたが逃げるの分かってるから、という意味になってしまう
あのままじゃきっと力は何時までたっても大地さんの背中に隠れたままだ
期待されることが嫌だった私に言えるのは、線引きの意識を取り除く言葉を掛けること
「大地さん、行きましょう」
「ああ…すまん旭、すぐ戻って来る…それまで頼む」
そこで思わず息を飲んだ
「頼むぞ…!」
「ー当然だ、任せろ」
あれだけ、飛べない烏落ちた強豪と言われた中でも見せなかった表情を
頼もしい主将の絶望的な表情を、初めて見た

「烏養くん、私が先に医務室行ってくるから武ちゃんに引き継ぎしてて下さい」
「おう、直ぐ行く」
ゆっくりと大地さんと肩を並べて歩く
さっきの飛雄の時みたいに鼻血とか突き指程度なら私達だけで対応はできるけど、接触や頭を打ってる可能性がある場合は監督かコーチがついていないといけない
大人がいないと、こういう場合はいけないから
「…すまん」
「!」
「柚葵も俺達の必要な戦力なのに俺がこうなったばかりに」
珍しい…
「…ネガティブな大地さんって新鮮ですね」
「……ネガティブ」
「だってそうでしょ?流石にポジティブでもおかしいですけど、だれも大地さんが悪いわけではないです。きっと神様が試練を与えたんですよ」
「神様が試練…?」
「はい。神様は何事も乗り越えれる者にしか試練を与えません。ということはこの怪我はきっと神様が大地さんに試練を与えてるってことです。きっとここを乗り越えればいいことがあるんです。それには医務室でちゃんと見て貰って次の試合で活躍してもらわなくっちゃ」
「……………」
「大地さん?」
「…ふっ…柚葵がポジティブでどうすんだよ」
「私までネガティブだとお葬式になりそうだったんで」
「そうだけど…!…にしても柚葵らしい励まし方だな…スガが夢中になるのも分かんべ」
「いっ今、その話題は駄目ですよ」
「うぃっす……った」
「ほら、そうやって喋ると痛いでしょ…もう喋らなくてもいいですよ」
相当痛いのだろう…大地さんは頷くだけだった
歯がとれたって言うことは今は歯の神経が剥き出しってことだよね…?
痛みが収まればいいんだけど
「お!追い付いた…澤村大丈夫か?歩けてるか?」
「烏養くん、意外と過保護!大丈夫。頭とか足とかは問題ないと思うよ」
そのまま医務室にたどり着き、大地さんの身体の打撲など調べるために私と烏養くんは一旦医務室からでた
「…澤村になんか言ったのか?」
「へ?」
「なぁんかさっきと表情ががらりとかわってっからよ」
「ああ……うん。"神様は乗り越える試練しか与えない"って伝えた」
「本当にどうしたんだか……お前があの頃1番嫌ってた言葉じゃねえか」
「今は1番好きかも」
「ほんっとに何があったんだよ!?」
「……試練を乗り越えた…?」
「またはぐらかす…!」
「いや、ちゃんと言ったじゃん。みんなが過保護過ぎたんだって」
「…それが訳わかんねえから訊いてんのによ」
「大丈夫、そのうち分かるよ……それより烏養くん、検査が終わったらコートに戻ってね」
「最初っからそのつもりだ」
「え?」
「お前がいれば大丈夫だろ?」
「……ふふ、お任せあれ」
「はい、終わりましたよ」
「「!」」
「幸い脳震盪は起こしてないみたいですね…ただ、口内の出血と痛みが酷いようですので、このまま安静にしてもらいます。それに、まだ脳震盪の可能性が捨てきれたわけではないので、暫くは安静にしてもらわないといけないですが」
「分かりました」
「じゃあ、私が残りますので」
「分かりました。隣のベッドに横になってもらってます」
「ありがとうございます」
「じゃあ、頼むぞ」
「はい」
烏養くんはそのまま走ってコートへ向かっていった
「あれ?君はたしか昨日も来てたよね?」
「あ、はい。一応マネージャーとトレーナーさせてもらってるので」
「なるほど…昨日もだけどちゃんと対応の仕方はあってるから自信をもっていいよ」
「あ、ありがとうございます…!」
嬉しい…けど、怪我がないのが1番なのは変わらない
こういう医務室のカーテンって意外と厚いよなぁと思いながら開くと
「……寝れませんよね」
「ああ…」
「少し安静にしたら戻れますから」
脇にあった丸椅子に腰を掛ける
もごもご口を動かしてるけど痛そうだなぁ
痛み止めが少し効いているみたいだけど
「俺の代わりは……やっぱり縁下が入ったよな?」
「はい」
「こんな形で試合に出させるべきじゃないのにな…」
「…なんにせよ、これも力の試練ですよ」
「柚葵って、本当に高2?」
「そっくりそのまま大地さんに送り返しますよ」
「俺はちゃんと高3だべや」
「私もちゃんと高2ですよ!」
「お二人ともちゃんと年齢通りですよ!」
「や、谷地さん」
「仁花ちゃん」
「澤村さん、大丈夫ですか?」
「ああ」
「よかったです。私は試合状況についてお知らせしに来ました。それぐらいなら私にもできるかなって」
「仁花ちゃん…!」
それはすごく助かる事だ
なによりも気になる情報だから
「とりあえず、第一セットは烏野が取りました」
「よかった…」
そこから聞いた話はなんともギリギリな戦いを強いられる烏野の状況
山口くんがピンチサーバーとして起用されるも、己を裏切ってしまったこと
それを誰よりも理解し、烏養くんの怒りを沈めた力
それだけ言い残して仁花ちゃんはまた応援席へと戻っていった
「縁下が……」
「多分…誰よりもその気持ちを理解したからなんだと思います」
「?」
「…大地さんも安静にしなきゃいけないですし、少し、語っても?」
「おう」
「ちょっと過去の話で…内容的には将来の話にはなるんですけど……3年生の皆さんが春高の為に帰ってきてくれた時のことです」





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