Agapanthus




ー…"その瞬間"が有るか、無いかだ

ー…将来がどうだとか次の試合で勝てるかどうかとか一先ずどうでもいい
ー…目の前の奴ブッ潰すことと、自分の力が120%発揮された時の快感が全て
ー…もしも、その瞬間が来たなら…


それがお前がバレーにハマる瞬間だ


「ハイ、質問答えたからブロック跳んでね」
「ハイハイ急いで」
「ということは人数的に私はお役御免だね」
「え"!まだサーブ喰らってない!!」
「そうですよ」
「え、柚葵さん代わってくださいよ」
「いや、ツッキーはここで強くなってね!私は孝支先輩達のところにいくから」
「まだ時間大丈夫だろ?それにそっち行くことねぇじゃねえか」
「クロ」
「?」
「昨日のこと……覚えてるよね?」
「!」
「任せとけ……今が丁度そのときだよ」
「…分かった」
「よろしくね。今日は孝支先輩達に行くって言ってたし、明日はいるから」
「おお…そしたら、また明日頼むわ」
了解と頷きながら、孝支先輩達のいる体育館に向かった

「木兎さんって時々、求めてる言葉が分かってるように話すんですよね…翔ちゃんも同じような時があるんですけど、やっぱりバレー馬鹿となるとバレーに関して感性が研ぎ澄まされてるんですかね…」
「来て早々にどうした?」
丁度扉の横にいた大地さんに木兎さんの凄さを伝えると、不思議そうに問いかけられた
頭の中でさっきの木兎さんの言葉がぐるぐる回ってる
バレーに必死な人物達は何故求めることが分かってしまうんだろうかといつも思ってしまう
きっとツッキーもあの言葉を聞いて何かしらを思ったんだろうな
「実はツッキーが来ましてね」
「!月島が…?」
気になってる感じの大地さんに事の経緯を説明
「へぇ〜月島がそんな事をな…」
「なんだかツッキーも殻を破ってくれそうな気がしてきました…」
「柚葵も、か」
「?」
「いや、俺もそこまで心配はしてなかったんだけど………"才能の限界"なんてわかんないだろ?それを感じることがあっても上を目指さずにはいられない。理屈も理由も分からないけどさ。月島は3対3の時にムキになったろ?なんとなく変人二人に感化されて上を見てたんじゃないかなってな」
「大地さん……」
「俺たちのことを考えてくれてありがとな柚葵…」
「…いえ」
強くなるんだ
まだまだこの人達と
「柚葵!今のどうだった!」
「今までより誰が打つか分からなかったです!」
孝支先輩と一緒にバレーするんだ

そしてその願いは届くかもしれない
翌日の烏野VS梟谷が丁度見えた時
「レフトだ!4番!4番!」
木兎さんの前に立ちはだかるブロックの正体はツッキー
そのただならぬオーラに
「フェイントォオ!!!」
「木兎さん、今逃げましたね?」
「!逃げたんじゃねえ!避けたんだ!!上手に!避けたの!!!」
「油断…」
「ハイハイスミマセンでしたァー!」
綺麗にブロックをフェイントで交わした木兎さん
「いやー!これはまた!厄介な雛鳥が殻を破り始めたかな?」
「ふふ…猫又監督が楽しそうでよかったです」
「一体何がそうさせたのか……」
「うちもちゃんと皆プライドがありますから」
ちゃんとヒビが入ってきた
この傾向は非常に良い
「ほほほ、そうかい、そうかい」
「あ、そろそろ試合始まりますね…ドリンク用意してきます」
それにしても暑い
日差しが皮膚をジリジリと焼いてくる
体育館は相当熱がこもってる…けれど待ったなしで試合は行われる
そうなってくるとマネージャーも大変なわけで……
「お水のストック作るの忘れてる……」
冷蔵庫で冷やしておいた水がなくなっていることに今気がついた
ボトルに氷を入れるわけにもいかない……内蔵がビックリしてお腹壊してしまいかねない…
次は烏野との試合なのに…!
とりあえず生温い水からほんのり冷たい水になる様に氷を調節しながら急いで作る
「センタァァァ」
「日向ラスト頼んだ!」
まあ、急いで作っても間に合わないものは間に合わないものよね
試合は結構進んでしまっていて、今は音駒の優勢らしい
「田中ナイスカバー!」
「スマン!ネットに近い…!」
リエーフくんと翔ちゃんの押し合いになるネット際
ただ、こういう時は
「くっそォオ…!!」
翔ちゃんは圧倒的に不利だ
烏野にボールは落ちてしまう
それにしても、翔ちゃんが押し合いに負けてあんなに苛立っているのは初めてみる
それに今日のコンビネーションも
「オイ!!今、手ェ抜いたな!!?」
最悪らしい
「……………?…手を…抜く?…俺が?…もう一回言ってみろよ…」
「コラ」
「オイ!?」
「スミマセンTOお願いします」
「今の落ちてくるトスじゃなかった!!」
なるほど……?飛雄は何とか翔ちゃんに打たせようとした?翔ちゃんの調子に合わせた?
「無意識って怖いですね」
「?」
飛雄のアレも私の癖もきっと一緒だ
「止めんな影山!!!」

「烏野大丈夫かぁ〜?」
「んー…今は駄目かもね〜」
「柚葵、楽しそうだね…」
「っえ、研磨には分かっちゃうの…?」
「いつもの楽しそうな感じが出てる」
「エ"ッうそ」
「へぇ〜流石セッター…よく見てるな」
「夜久さんも俺の事よく見てるじゃないですか!」
「意味深な感じでいうんじゃねーよ!リエーフがレシーブが下手くそだからだろ…!今日もレシーブ特訓するぞ!」
「ひっ!勘弁してくださいよ〜」
TOだというのにこんなにのんびりでいいのか音駒よ……

ーー……

「そ、そろそろ休憩させてください」
「えー!もうちょっとだけ!な?」
「いや、柚葵も疲れてるんです。休んでもらいましょう」
「京治くん…!」
君は本当に仏様みたいだね!?
無事に今日も自主練でサーブ地獄
ツッキーも参加してるけど引いてしまってるぞ
「ごめんけど、2対2してもらっててもいいですか?」
「おう、と言いたいところだが」
「?」
「今日は仲間連れか?」
「?はい?」
クロも木兎さんも扉の方を見てニヤついてる
そこを辿るとひょこっと顔を覗かせてる翔ちゃんがいた
か、かわいい〜!!!
「?"相棒"はどうしたのさ」
「影山はまた一人で練習!研磨にトス上げて貰おうとしたら5本で逃げられた!」
「研磨が5本も自主練に付き合っただけでも凄えぞ」
「確かに」
自主練になるときにはもういないもんね
それにしても飛雄が一人で練習って何か問題が起きた訳じゃないよね…?大丈夫だよね?
仁花ちゃんも来てないし……うん、大丈夫だろう
「だからおれも」
「俺も」
「「入れて下さいっ!!」」
「!?リエーフ!!」
「あ、日向」
綺麗にハモったとおもったら、リエーフくんも体育館の扉から勢いよく入ってきた
それにしても
「お前、夜久のとこでレシーブやってたんじゃないの」
そう、今日のレシーブがお気に召さなかった夜久さんがリエーフくんを「鍛え直す」「俺しんじゃいます!!」と引きずりながら連れていったのをクロと見送ったはずだ
「俺、今日は優秀だったんで早めに見逃して貰いました!」
「ほんとか?脱走して来たんじゃねーだろな」
「!!まさか!そんな!」
あ、これは脱出してきたな……?
後からバレるのに隠したがるのは戻されたくないからだろうけど
「まぁ、いいや。じゃあ…柚葵も休憩することだし、人数丁度いいから3対3やろうぜ」
「え」
「「うおーっ試合だーっ」」
「あ、じゃあ私得点しとくね」
「おー頼むわ」
「でもチームどうするの?セッターは京治くんだけだし」
「俺は黒尾と別がいい!そんでもってあかーしと一緒!」
「…まあ、俺達はそうなりますよね」
「ばらしても面白そうですけど、木兎さんのモチベーション下がるの怖いですもんね…」
「めんどくせえしな」
「なんだとぉ!」
「それに、月島は俺と組ませようと思ってるから、チビちゃんとリエーフがどっちにいくかだが………」


「…あの…コレ……すげえバランス悪くないスか…」
京治くんが言うのも無理はない
クロ・ツッキー・リエーフくんのネコチーム
翔ちゃん・京治くん・木兎さんのフクロウチーム
平均身長 ネコチーム約190cmVSフクロウチーム約177cm
けど、案外身長以外はバランスがいい気もしなくはないけど…
「いーじゃねーか!昼間やれない事やろーぜ!」
「………」
京治くんは問題児を抱えた教師のようになんとも言えない顔をしてる……
大丈夫、多分バレーでは凄い二人を相手にしてると思うよ
アイコンタクトで訴えてきた京治くんに、そうアイコンタクトを返すしかなかった

その後試合は順調に進み、ツッキーが翔ちゃんをドシャットで止め、ネコチームが優勢のまま食堂に駆け込んだ
試合に夢中になりすぎて雪絵さんが食堂閉まること教えてくれてなかったら、ご飯抜きになるとこだった…あぶなかった
「お疲れ様、柚葵」
マネージャーみんなでお風呂に行き、そのまま女子会トークに華を咲かせようとしたマネージャー軍団を置いてお風呂を出たら
「こ、孝支先輩…?」
孝支先輩が壁に寄りかかってこちらを見ていて、待ち合わせをしてる?と錯覚を起こしそう
「ちょっと、時間ある…?」
「へ?」
いや、待たれてた。


「はい」
「あ、ありがとうございます?」
出される左手を戸惑いながら右手で重ねる
孝支先輩はどこにつれていく気なのかは分からないけど、ペナルティで使っていた裏山へとやって来た
この間転びそうになってたところで、恥ずかしいのであまり来たくなかった場所
その場所で今度は孝支先輩に引っ張ってもらいながら上がっていく
繋いだ右手の汗が孝支先輩に伝わってないか心配する
「いつもと違って、宮城よりなんかいいなって思ってな〜」
「なにがですか?」
「景色」
孝支先輩の横顔を追っていたから気がつかなかった
「きれい……」
いつの間にか上りきっていた坂
目に飛び込んできたのは高い建物や家の明かりと夜空の無数の星達
「森然高校は少し街中から外れてるだろ?それに上の方に高校があるからどっちも一緒に見える」
「すごい……こんなに景色いいの知らなかったです」
「教室から見るとしても街灯とかあってあんま見えないもんな〜」
「孝支先輩がここの場所知ってるなんて驚きました」
「まあ、ペナルティが多かったし……何気なくここら辺見渡したら街灯無いし、夜になったら綺麗だろうなって思って柚葵に見せたいなって思った」
そこで気がついた、左手も孝支先輩の手の感触がある
「え」
「柚葵は気づいてないかもしれないし……もしかしたら気づいてるかもしれないけど」
そう言って私の両手をぎゅっと、バレーボールでは攻撃を操る手が包み込んでくる

「俺は、柚葵の特別になりたいと思ってる」

「こ、うし…せん、ぱい…?」
そのまま建物の光と星空の下ふんわりと笑った孝支先輩
「今、そのまま伝えたい気持ちもあるけど、やっぱり春高出場するためにバレーを頑張ろうと思う。俺はそんなに器用な方じゃないから、ケリはつけておかないと言えない……でもこのままは嫌だから」
孝支先輩、それは言ってるようなもので
「鈍い、わたしにもわかりそうなんですが…」
「うん、そうしてる」
「そっ!?」
そんな、お預け状態ありですか…?
「だからさ、春高予選が終わったら柚葵伝えたいことがある。まあ、柚葵が俺の事どう思ってるか分かんないけど、これだけはずっと伝えたえときたかったから」
「…今、じゃダメなんですか…?」
「うん。俺のわがままでごめん。俺はレギュラーでもなければ正セッターじゃない。けど、試合に出ることを諦めたつもりもない。勝つために必要な事をしてるのは変わらない。少しでもいいところを、また俺のバレーを柚葵に見せたいと思った。新しいことにも取り組もうと思う…年下達に負けたままも嫌だから……だから」



「待ってて」



「今より強くなって烏野に来てよかったって堂々と胸晴れる時……柚葵に伝えたいから」
「………はい」
目ははっきりと好意を伝えてきてる
孝支先輩は、意外と鈍くてやっぱり狡い人
「それまでに柚葵を惚れさせてやるからなぁ〜」
覚悟しろよ〜って言ってくる孝支先輩に私はすぐにでも伝えたくなった

とっくの前から惚れてますよって

前は伝える勇気がなかった
関係性が壊れるくらいなら言わない方がいい
そのまま大人になって孝支先輩が結婚したときに私は前に進めばいい
なんてことも考えた
でも、それだときっと昔みたいに後悔してしんどくなるんだ
それなら後悔する前に言った方がいい
そうは思っててもなかなか言えなかった言葉
孝支先輩から少し亀裂をいれてくれたこの関係
崩れたときにめいいっぱい伝えよう

ずっとすきでした…今も大好きなんですって


「そしたら戻るべ」
「……孝支先輩、この手は」
「ん?ドキドキする?」
ドキドキの前に

しにそうです






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