Agapanthus




とうとうこの時がやってきた

音駒VS烏野

今までの私なら片方しか見えていなかったと思う
敵として向き合った瞬間に分かることもあるのだと、徹くんや岩ちゃんと戦ったときに思った
そして今、ネットを挟んで向こう側に本来は味方である黒いズボンが敵として向かってきている
対して本来は敵である今は味方な赤いズボン
我ながら違和感が早めに消えたことに驚いてはいるけど、敵対視することで見えてくることもあることを実感している
分かる
このままだと烏野は春高には行けない
「大地さんナイスレシーブ!」
「……」
上がったボールはほとんど予測しない場所へともう既に"そこ"に居る翔ちゃんの元へと
だけど
「点には届かない」
そのボールが音駒のコートに落ちることもなく
ドッと烏野のコートへと落ちた
リエーフくんのブロックにより
「うおっしゃああああ!!!」
「やりおったー!!」
こんなに早く変人速攻が止められると思ってなかったであろう
烏養くんの表情が物語っている気がする
春高にもいけないし、徹くん達にも勝てない
そう、この変人速攻…一見速くて無敵に思えるかもしれないけど、翔ちゃんが目を瞑っているため"見えてない"
空中で見えないことは致命傷に繋がる
けど、そこを速さでカバーしているのが飛雄
だけど、空中戦は飛雄の領域じゃない
二人ともの進化が必要になる上に
「他の皆もそれにしがみついてる訳にもいかない」
「ほっほっほ」
「あっすみません…また余所見を」
「いいこといいこと。それに選手が気づいたとき…烏野はもっといいチームになるんだろうな」
「!はい」
そう、これは"選手"が気づいていかないといけない

「それにしても烏野の10番は驚くほど落ち込まないものだな」
「ふふ、それが翔ちゃんの持ち味でもありますから」
へこたれない雛鳥が何処まで飛び立てれるか
リエーフという壁に阻まれカウンターまで喰らわされここからどうでる?
私が現段階で知ってる烏養くんなら多分"護り"に出てくる
きっとレフトにボールを集めてくる

でも
本当にそれで良いの?

護りに入って勝てた試合が今まであった?
進化がなければ、攻めがなければ勝てない試合ばっかりだったはずだ
「オーライ!」
「ナイスカバー!」
「ラスト頼む!」
そして烏野コートに上がるボールは絶妙な距離へと、バレーでもなんの競技でも迷う"間"に
「!スマンちょい短い!」
「旭!」
「ラスト!」
「旭さん!」
これは普通ならエースである旭さんのボールになるのは明白
「レフト!レフト!」
「3番!」
「オオッ」
なのに
雛鳥が
囮が
貪欲にボールへと飛び付いていた
「アッ?」
そして勢いよく旭さんにぶつけた身体は烏野コートへと鈍い音を立てて落ちていった
「うわああぁ!?だだだちょちょちょ」
「すっすみませんん!!!つい球だけ見てて…!すみせん!大丈夫ですか!?」
「俺は無傷だよ」
「日向は大丈夫なのか!?」
「おれは何ともないです!」
着地は痛そうな音を立ててたのに…本当に大丈夫かな?
ああ…行けないってもどかしい
「ちゃんと周り見ろボゲェー!!何の為の声掛けだタコォオ!!!!!」
「ボゲェ!日向ボゲェ!!」
「ハイ…」
叱られるのは当然の事、怪我したらそれこそ最悪だ
「危険の中にも兆しが見えた…?」
さっきの翔ちゃん……きっと旭さんのトスを奪おうとしてた…
これが吉とでるか凶と出るか分からないけど
「おれ、目え瞑んのやめる」
進化を追い求める欲の形が現れた
………のはいいものの
「ナイッサー!」
確実に烏野の空気が悪くなったのを感じる
…孝支先輩も何処となしか今日は沈んで見えるし気になる
翔ちゃんの言葉で飛雄がよく思ってないのが分かる
確かに急なこともあり、対応しきれてないが故の空気の悪さかもしれないけど
きっと意識しすぎて緊張が走ってるのではないだろうか
さっきの貪欲までに飢えた成長を求める雛鳥に対して
やっぱり団体競技というのは奥が深すぎる
私の場合は上手くいかなかったけど
「皆には上手くいってほしい」
ピピーッ!
25対18
音駒の勝利で笛が鳴った
この試合……烏野にとってどう転ぶか
「選手らに意識の変化があるようだな??」
「!」
「猫又監督……」
「フォッフォ〜さて、わしらも行くかね」
「あ、はい」
猫又監督に続いて音駒の元へと歩み始めると
「皆さんはここに居るチームの中で1番弱いですね??」
「!?」
武ちゃんの容赦ない言葉が背中に刺さった
思わず振り返った私の目にうつったのは、にこにこと笑みを絶やさない武ちゃんの姿
「どのチームも公式戦であたったなら、とても厄介な相手…彼らをただ"敵"と見るのか、それとも技を吸収するべき"師"と見るのか」
そう、そこに気づくか否かが勝敗を分ける
この言い回しは流石武ちゃん…
「君達が弱いということは伸びしろがあるということ……こんな楽しみな事、無いでしょう」
『!』
「今なんか、先生みたいで頼もしかったぜ!ありがとな!」
「あっ…僕、一応教師……ですけども」
烏養くん忘れてたの………
それにしても"師"とはなかなか良い言葉を例えたなぁ武ちゃん
ここには今の烏野に必要な師が揃ってる

["レシーブ"で守り固め攻める]音駒高校
["サーブ"こそが究極の攻め]生川高校
["コンビネーション"の匠]森然高校
["全国"を戦う大エース擁する]梟谷高校

こんなに恵まれてる環境……利用しないでどうする??
勿論貪欲な彼らはきっと私と同じ考えにたどり着くはずだ
プレイヤーならば
「あ、いたいた柚葵!」
「?」
休憩時間…久々にマネージャーで集まって話に花を咲かせていたところに烏養くんが突撃してきた
「え、なに、どうしたんですか」
一応他のマネージャーの前だし違和感があるけど敬語でしゃべると、一瞬顔を歪ませた烏養くんは場所を移動したいと言い出し、人があまりいない場所へと連れ出された
また、またもや楽園から切り離されるのね…私……
「柚葵、お前は"見える"か?」
「は?」
見えるって何がだ
ここはそういうところなの…?
「あー!!なんつうか…こう……プレーしてるときに相手の事がはっきり見えてるかっていいたくてな」
「…ああ、そういう意味ね…てっきり幽霊系の話かと思ったわ」
「悪ぃ…主語がなかったな」
「まあいいんだけどね。そうだな… プレー中に相手を見るのは……テニスだと強打が来てない限り可能だけど?まあ、稀に強打が来たとしても相手の位置がくっきりと見えるときもあるわね」
ふんわりとしたロブを打たれたとしたら大抵反対側にくるからそこまで走り、尚且つ次にどこに打つか時間が緩いボールの為可能
逆に強打が来るとそれに反応することに精一杯のときがあるため、強打を強打で返すのが精一杯の時と、何故だか前衛のポジションがよく見えて前衛の横へと撃ち抜くときもある
「そう!それだ!それをバレーで"見た"ときはあるか!?」
「バレーで………?多分ジャンプサーブのときは見えてるんだと思うけど…じゃないと人がいないとこに打てないはずだから」
「!」
「あとは…昔も昨日もあったけど、スパイクで時々ブロックの隙間からレシーブする人物がくっきり見えるときもあるけど……え、なに?それって結構普通じゃないの?」
当たり前のように言われたものに感じたけど、烏養くんの様子からしたら大きな事だったらしい
ガッと両肩を捕まれたと思うと
「あの、あのコンビは!"小さな巨人"をも越える空中戦の覇者になるかもしれない!」
「え?どういうこと?」
「柚葵が見えるそれは稀のことなんだ。見えるやつからしたら時々見えるから当たり前かと思ってるかも知れねえがな、普通はあんま見えない」
「!」
「それを、日向が"見える"と言い出した」
「翔ちゃんも、見える?相手が、手が?」
「ああ」
「それ…大きな武器じゃ…!?翔ちゃんが空中戦見て戦えたならって、今日の音駒戦見てて私も考えてた…」
私も何度も"見て"助けられた事がある
何より自分の打ちたい場所に打てたなら
「勿体無い事をしてた……!力が非力ならテクニックでなんとかするしかないのに……私たちが変人速攻の珍しさ欲しさのままに可能性を潰していたなんて…」
「…変人速攻は今のままでも十分すげえと思う……だが、あの変人速攻に"それ"が加わったら?」
「色んなところで通じる攻撃なんじゃないかって思う。それと、翔ちゃんが変人速攻に頼らなくても点を稼げるようになる」
「俺もそう思う…試す価値しかないわけだ」
「ああ、なるほどね……だから翔ちゃんが途中から試合出てきてなかったんだ。理由はそこにちゃんとあったんだね」
おかしいなとは思った
皆に緊張が走ってるだけで選手交代させるだなんて
なるほどね…外から"見る"のも大切だから
「烏養くんに賛成しかないよ…私は今音駒だから頑張ってね」
「他人事みてーにいうなよ?仙台帰ったら覚えとけ」
「…はーい」
あと、もう少しでこの合宿は終わる
それまでに収穫するものは刈り取っておかないと

「ありがとうございました!」
『したー!!!』
「またね、柚葵……次は1週間あるからまたよろしく」
「京治くん、私そんなに体力持たないからね」
「化け物みたいに体力はあるだろ」
「クロ?何か言ったかね?」
「体力お化け」
「よし、今度来たとき覚えてろ」
また、また来れる
ここに来るまではまだまだ歯車も何もかもハマらない烏野だけど
「ひどいことばっか言ってると次はマネージャーやんないから」
「すみません柚葵様」
次の合宿で全て上手く当てはまると良いな
まあ、私は私で課題があるわけだけど……
そう、烏野のメンバーに帰りにくいのである
潔子さんや谷地さんはマネージャーの集まりで良いにしろ、他のメンバーはあの別れ方をしたからなぁ…
戻るのが怖い……特に大地さんが何て言うか
「んじゃ、うちのマネージャー返してもらうからな」
「だ、大地さん!」
「ありがとうございました…次回も頂きますのでそれまで預かっていてくださいね」
「さあ?何の事やら?」
ま、まただ………恒例の笑顔握手で語り合う男の話だ…
やっぱり大地さん、許してなかったな!?
「柚葵」
「ひゃい!」
あ、まずい…声裏返った
「(ひゃい?)俺達はお前が要らないとかそんなの思ってないからな」
「!」
「というわけで、スガに存分に怒られろよ」
「え」
なんで孝支先輩が出てくるんですか
「仙台までの道のり、隣スガだからな」
「きっ!!?聞いてないですよ!!」
「言ってないからな…ずっと音駒に居たから俺達からの仕返しだと思ったらいいぞ」
うん、大地さんのその爽やかな笑顔が今では怖いです
そうだ、疲れたし寝ればいいのでは?
来るときは寝てたし大丈夫でしょ
寝顔見られるのは恥ずかしいけどそんなこと言ってられない
怒られる前提なのは誰だって嫌だもの…!
「あれ!柚葵〜!」
「さ、さえ姉!?」
「いないなぁって思ってたけどどこに居たわけ!?全然会えなくて寂しかった!」
そういうとさえ姉は素晴らしいお胸を武器に攻撃してきた…窒息しそうになる前に離してもらわなければ……
あれ?まださえ姉がいるということはこれはチャンスなのでは?
さえ姉の車に乗せて帰ってもらえれば完璧じゃない!?
「私もさえ姉と話足りないよ!」
「まじかっ!そしたらこっちに乗りなよ!」
さえ姉ナイス!その言葉を私は待ってた!!
「出来ればそうしたいな!私はさえ姉と「ダ〜メ!」
そこから私の視点は一度、さえ姉の豊胸から真っ青になった
ん?お空が見える…?というか
首 元 が い た い ぞ ?
「柚葵は俺と一緒!」
「んえ」
こ、ここここ孝支先輩が私の襟を引っ張っているだと!?
「孝支先輩!?」
「孝支先輩…?あっ!なるほどね〜了解了解!ここは大人の私が身を引くわ!じゃあな!柚葵!また話聞かせてくれ〜!」
「え?!え!?さえ姉!!」
よく分からないけど一瞬にして顔をニヤつかせたさえ姉は、車のキーを振り回しながら去っていった
……解せぬ
「さ、柚葵も行くべ〜」
「えっえっえ!?」
孝支先輩、そこで手を繋いでくるのは反則だと思います!!
まあ、駄々をこねる妹を引っ張る兄みたいな感じだからムードも何もないんだけどね!!

何を言われるのか、何を問いただされるのか分からないまま座席に座った私だけど、そんな心配もなかったように
「すー……」
何故か肩に孝支先輩の頭が乗っている
これはあれか??新手の罰??
まさかの騒ぐ車内の中、無言で車だけが仙台に進んでいたが車内が落ち着いた(寝付いた)時、まさかの孝支先輩も寝てしまったのである……
なんだこれ、なんだこれ
「みんな寝ちゃったみたいだね」
「…ですね」
「柚葵も疲れたでしょ?寝てても良いんだよ?」
唯一生徒の中で起きており、通路を隔てて隣に座っていた潔子さんにそう言われるけど……
「こ、これはこれでおいしいといいますか…」
「……なんで本人の前では言えないんだろうね」
同感です
「ハイ!皆さんお疲れさまでした!」
『した!』
「で、明日はお伝えしてた通り、体育館に点検作業が入るので部活はお休みです。まあ、IH予選以降休み無しでしたので、ゆっくり休んでください」
無事に着いたけど、私の心臓はそれどころではない
それは孝支先輩が起きたときに遡る

「んあ」
んあ???え??なにそれ、やばすぎます孝支先輩
「……柚葵?」
「は!はい!」
掠れた声のトーンに心臓の音が自分でも分かるくらいに鳴りやまない
知ってる、前に、嫌というほど知ってる
寝起きの孝支先輩ほど……危険なものはない
前回も体験してるのに…
「まだ、俺だけだめ?」
「っ!」
なにが、なんて言えない
この問いが何か…鈍い私でも分かる
孝支先輩は私に乗せてた頭をそのまま上げると思いきや、絶妙な位置に頭を止めた
「いつになったら呼んでくれるの」
「こ、」
「俺だけ、まだ、お預けなの」
この間と違う距離
少しでも横を向くとこちらを見てきてる孝支先輩との距離はほぼゼロに近くなる
こんなの、どうしろっていうの
「悔しいんだ…俺、限界だから……覚悟しといて」
「へっ」
か、覚悟とは!?
「…肩、貸してくれてありがとな」
「あ、いえ?」
孝支先輩、まだ、まだ近いんですが!?
と、思ったら更に孝支先輩は顔を寄せてきた
「っひ」
「明日、デートするべ」
「え?」
耳元で囁かれたふたりだけの秘密
その言葉を理解するには脳が追い付かなくて
じわじわと熱くなる頭や顔が思考を停止させてるとしか思えない
ただただ離れていく孝支先輩の顔を凝視するしかなかった

そう、きっと私の妄想が繰り広げていたに違いない
解散した後、特に引き留められることも無かったことだし…うん、きっと違う
違う……事もないかもしれない
バチっと合った視線、その目が柔らかくなったことに
気づいた


(私は)(俺は)
(あなたの事が)





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