Agapanthus




「…んでここに………」
彼の目を見開いてるところなんて貴重なんじゃないだろうか
「久しぶりだねークロ」
「ああ……ってちげえ!なんでここにいんだ!?」
「だって、私の学校だもん」
「!」
そんなに驚かれてもなぁ……言ってなかったっけなー
「仙台とか聞いてねーよ!」
「ありゃ?」
「…ねえ、柚葵」
「あっ!研磨久しぶりー!!」
突如来た天使にわしゃわしゃと髪を撫でる
なんで同級生なのに可愛いんだろうか
でも、久々に見た彼が金髪だったからびっくりしたけど
「…みんな固まってるけど」
「へ?」
見渡してみれば、主に烏野メンバーが固まっていた
あ、ヤバい
徹くんの時と同じにおいがする
「柚葵、これはどういうことかな?」
「あ、えっと……」
大地さん、何回もいいますがその顔怖い
その声恐いです

「幼馴染みというか…少し違うか……友達?」
「そこは幼馴染みでいいだろ」
「いや、そんなに頻繁に遊んでたわけでもないし」
「……」
「昔、祖母の家に行くのに迷子になった時、助けてくれたのがクロなんです。祖母の家からも近かったので、祖母の家に行ったときは遊んでたんですよ」
クロとはバレーで
研磨とはゲームで
「感動の再会の所わりーが、時間ねーからさっさっとすんぞー」
「ぐへっ」
いきなり烏養くんに首元を捕まれ猫みたいにされた
音駒だけに……………うん
烏養くんひどい
「柚葵」
「?」
そんな私にクロは呼びかけてきた
「試合終わったら時間あるか?」
「………烏養くん」
「…しゃーねーな」
「あるって!」
「!んじゃ、その時に話すわ」
「わかった!」
そして私は烏養くんに烏野へと戻されたのだった
首痛い……
「ーー正直言って俺たちは、顔合わせたばっかの面子でデコボコでちぐはぐでしかも今日がこの面子での初試合」
大地さんの言葉による意気込み
新しいユニフォームに袖を通した1年生
「そんで相手は未知のチーム。どんな戦いになるかわからない。壁にぶち当たるかもしれない。でも、壁にぶち当たった時はそれを超えるチャンスだ。行くぞ!」
『ぅオス!!!』
「烏養くんよりいいこと言ってる大地さん」
「うっせ、わかってらー」

「音駒高校対烏野高校練習試合始めます!!」
『しアス!!』
『しアース!!』
いよいよ始まった試合
開始前にはみんなからの質問責めに苦労したけど、試合が始まると集中してるようで一安心
サーブは研磨からで、なんなく受け止めた旭さん
「!スマンちょい短い!」
「旭さん1ヶ月もサボるからっ」
「スミマセン!」
こちらでもコントが繰り広げられてる
そんなボールを飛雄はカバーしに行き、翔ちゃんは走り出した
………これは来るな
『!!?』
変人トス&スパイクが炸裂し、音駒側だけでなく、ゴミ捨て場の決戦をするということで、観客に来ていた人達も驚かせたみたいだ
それがわかって烏養くんも武ちゃんも悪い顔してるわ
「すげえっ速えっ何!?」
「あんなトコから速攻…!?」
「なんだあありゃあ!?」
その後も翔ちゃんの囮を使って得点を稼いだ
けど、研磨の視線が痛い
人と関わるのがあまり得意でない研磨は、洞察力に優れているからきっと、この変人トス&スパイクの攻略方法を見つけてくる
それと、音駒側のレシーブがみんなうまい
リベロほどではないにしても、みんなレシーブが研磨の頭上に返ってくる=ボールは繋がる
バレーボールは繋いだら、繋いでさえいれば奇跡は起こる
どんなにすごいスパイクだって床に落なきゃ意味が無い
ということは
うちに勝てるかどうかは危ういということ
それプラス、きっと研磨はうちの攻撃の軸が変人トス&スパイクだと気づいてる
となると、翔ちゃんを止めに来るはず
一難ありそうだなぁ

そしていつも通り、翔ちゃんがブロックのいないところへ駆け出し、飛雄がそこめがけ高速トス、それを翔ちゃんはフルスイング
変人トス&スパイクが繰り出されたけど、今度は微かに音駒MBの7番子にボールに触られた
今は止められなくって悔しがってるけど、きっとうちの変人コンビの背中を捕まえに来る
それに
「…孝支先輩、あのフォーメーションってわざとなんですよね?」
「デディケート…ブロッカーを片方に片寄らせる戦法の一つの配置だべ」
「ってことは、エースをマークすると考えるのが一般的……」
だけど、これは翔ちゃんを誘導してる?
翔ちゃんの変人トス&スパイクはブロックのいないところへ飛ぶ
となると、固まってない方に行くってこと
その固まってブロックのない方に、あの変人トス&スパイクについてこれるようになりつつある7番をその端っこに配置する
「…………完全に研磨に読まれてる」
「え?」
「このフォーメーション……変人トス&スパイクを止めに来てます」
『!?』
「……あぁ、その通りだ」
烏養くん以外の人は驚いているけど、変人トス&スパイクがどうやって攻撃するのか思い出して欲しい
「そうか!日向はブロックのいないところへ飛ぶ!!」
「流石孝支先輩!」
けど、この予測が当たってるのかはまだわからないから、断言できないけど…
そうこうしているうちに、変人トス&スパイクは7番の子に徐々に追いつかれてきたところで、研磨のツーアタックが炸裂した
「おお…!今のは"ツーアタック"ってやつですね!?てっきりトスを上げるものだと思ったのに!」
「……………」
研磨の洞察力に烏養くんも研磨がどういうセッターか分かってきた頃かな
まあ、私もそこまでバレーの知識はないけど、なんとなく分かる
分析とかデータとかそういう類は得意だ

「フェイント来る!前っ」
「ふごっ」
「ナイス田中!!」
「スマン、ノヤっさんカバー頼む!」
「任せろ!!」
フェイントで崩された烏野は、ボールがセッターに行かず、リベロの夕に渡る
ここで、誰が出るのか…
「ライト!!」
「エッ影山がトス呼んだ!?」
「そっか!飛雄もいる!」
「?」
「影山!!ライト!!」
忘れてしまわれたら困る
飛雄だって"天才"なんだ
ズドッと音がして、飛雄はブロックの穴になっていたストレートへとボールを打ち込み、綺麗に決まった
「ナイス飛雄!」
『!!!』
皆はハイスペックな飛雄をみて何とも言えない顔になってたけど、私にとっては徹くんもしてたから普通に思う
これが、身近でバレー馬鹿がいるかどうかの違いか
「オイ、今のが"ストレート"だからな!サイドライン沿いまっすぐ!ちゃんとコースの"打ち分け"できるようになれよ!」
「うぐぬ〜〜」
「影山のハイスペックマジ腹立つわ〜〜」
「全くです」
「孝支先輩まで………」
「だって羨ましいじゃん?」
「……孝支先輩にも羨ましいところはたくさんありますよ!」
「!」
孝支先輩も孝支先輩でいいところはあるんだから、本当自信持って欲しい

尚も試合は進み
「レフトだよ」
「!」
研磨がフェイントをかけ、ツッキーをまんまと引っ掛けた
流石、フェイントのかけ方がうまい
飛雄もあれができたらいろいろと便利だろうけど、不器用だからなぁ
「……目立たない………ですね…」
「?あン?」
「うちの影山君は素人が見てても"なんか凄い"感じがビシビシ伝わってくる…けど音駒のセッター君は、何か凄いことやってるのかもしれないけど、見てても、よくわからない……」
「それは音駒のあの安定したレシーブのせいだ。多彩な攻撃を仕掛けるために何より重要なのは、セッターの頭上にキレイに返ってくるあのレシーブだからな」
「あのレシーブがあって研磨の本領を発揮させてるんですよ」
「そうだな、逆にうちはちょっとくらいレシーブ乱れても、あの影山が力ずくでカバーしちまうけど…セッターである影山が、圧倒的才能でデコボコのチームを繋ぐのが烏野なら……」
「セッターである研磨を、全員のレシーブ力で支えるのが音駒…ってことですね」
そんな時、ちょうどクロのスパイクが決まった
相変わらず安定してるなぁ、と思いながら音駒側のスコアをめくる
そんな時、翔ちゃんのスパイクが触られるようになった
「飛雄、翔ちゃんにトス上げること少なくなりましたね」
「…多分影山はあの7番がいる時はなるべく、日向にボールを上げないと思う」
「それは、」
「恐れてる」
「……ですよね」
孝支先輩も同じことを考えていたらしい
きっと飛雄に言ったら全力で違います!って言われるんだろうけど、無意識のうちに翔ちゃんがブロックにかかってしまうことを恐れてるんだ
翔ちゃんの速攻はうちの唯一の最強の武器
それが崩れると全部が崩れると飛雄は思ったのだろう
烏野はそんなにヤワなチームじゃないってことまだ分かってないな、飛雄ちゃん
「ナイスレシーブ!」
そして、音駒のマッチポイント
夕のレシーブで絶好の変人トス&スパイクができる体制だ
飛雄はサーブの前、翔ちゃんに何か言われたらしいから迷わず翔ちゃんにあげた
けど、
「!?」
「!!」
そこには既に7番の手の壁があった
ピピーッ
第一セット
虚しくも音駒が取った
「やっと捕まえた!!!」
さあ、課題ができた
飛雄と翔ちゃんはどう乗り越える?

飛雄がいたから翔ちゃんは自分より高くて昔は敵わなかった相手に勝てるようになった
唯一の無敵の攻撃だと思われたものが、たった一人のMBに止められた
きっと普通なら挫けてしまう
精神的に追い詰められるこの状況下でどうふたりは乗り切る?
「おい!いちいち凹んでらんねーぞ!次の一本取り返す!」
「絶対止められないスパイクなんかないんだ、まようなよ」
見かねた烏養くんはタイムアウトをとった
飛雄も烏養くんもそれなりにアドバイスしている
「次は決めたれ日向!」
「………はい!」
龍にそう言われた翔ちゃんの表情には弱気なところは見えなかった
けど、また7番に翔ちゃんは止められてしまった
もうあの7番は翔ちゃんの動きに慣れてしまったんだ
みんなの表情に焦りが見え始めてきた
飛雄なんて歯を食いしばってる
「……たった一人のブロッカーに止められた…日向……大丈夫か…」
きっと普通ならもうやめてしまいたいと、もう打ちたくないと思うだろうけど…
「翔ちゃんならきっと大丈夫ですよ、孝支先輩 」
「?」
「あの子は……人とは違う何かがありますから」
そう、私にはないそれが
「……柚葵?」
彼にはあるから
その後も翔ちゃんは7番からマークされ、ブロックをされる
それを拾うレシーブ陣
なんとかなんとか翔ちゃんの成長のために皆が個々に繋げようとしている
「……………」
「なんで日向を交替させないのかっていいてえのか?」
「!」
烏養くんを見ていたツッキーにそう言った烏養くん
ツッキーの肩が揺れたから図星だろう
「……別に…」
「これが公式戦なら替えてるかもな…でも今なら解決策を探すチャンス…」
今後ぶち当たる壁なら、練習試合で攻略するのがいい解決方法なのだ
うかも分かってるから黙って見届けてるのだと思う
「でも、日向が戦意を喪失してしまう様なら、一回下げた方が良いかもな」
もう何本目になるかノートを見ないとわからないくらいに、翔ちゃんはブロックされてる
今も、ブロックのいない所へ替したのだけど、そこには7番の子が付いてきていて、片手で抑えられた
「!くそっ」
「ダメか…」
翔ちゃんならきっと
きっと……
「!?」
その時、翔ちゃんは笑った
この状況下で笑顔をみせたのだ
その笑顔に覇気が込められてる気がして、身体が動かなくなった
あの時感じたようなもの…
感じ取ってるのは私だけじゃないようだ

「日向…」
「普段からは感じないプレッシャーですよね、久々で身体が痺れてしまいました」
翔ちゃんにいつも通りいつものようにトスをあげた飛雄
そう"い つ も 通 り"
「!!」
「えっ」
「あっオアッ」
ではなかった!
翔ちゃんは盛大に空振りしたし転けたけど!

「今!日向、トスを、見た…! 」
「見ましたね!!」
そう、ブロックを躱そうと無意識に目を開いた翔ちゃん
変人トス&スパイクは目をつぶってフルスイングだけど、いまは目を開けてトスを見た!
「っ…たっ……た、た、たタイムッ!!!」
興奮した烏養くんは焦ったようにタイムアウトをとった
「影山!日向にいつもより柔めのトス出してやれ。いつものダイレクトデリバリーじゃなくー」
「インダイレクトデリバリー…」
「??イン?」
「いつもの"ズバッ!"っていう真っ直ぐな軌道のとすじゃなく、少しだけフワッとしたトスだ。イキナリ変えろって言われても難しいかもしんねえけど…」
「………やります」
飛雄は言い切った
ということは、翔ちゃんにつきあうということだ
得点が奪われて負けてしまうとしても

自分の打つタイミングがわからない翔ちゃんは、また空回りしていた
そして、またタイムをとる烏養くん
とりあえずドリンクドリンク……
帰ってくると、翔ちゃんは皆に囲まれながらなにか言葉を言われていた
それを言われて迷いや戸惑いな目ではなくなった
そして、まちにまったその瞬間
「あーっアウトかーっ」
普通のスピードの速攻になって初めてのブロック越え
アウトだったけど、課題はクリアできそうだ
変人速攻トス&スパイク
から
普通速攻トス&スパイクに……
飛雄と翔ちゃんは新たな武器を
新たな道を見つけ始めた
けど、再び上がったトスは翔ちゃんの手に当たらず、翔ちゃんを通り過ぎた
誰しもが失敗し、駄目だと思った
「!?」
「あっ!?」
だけど、ボールが落ちると思った先には、頼れる大地さんがいた
「大地さん!!」
「うおお!?ナイス尻拭い大地さんっ」
「キャプテンッ」
大地さんの腕から離れたボールは、音駒のネットギリギリのところへと落ちていった
誰もがここの役目を果たしながら、翔ちゃんをカバーして成長させようとしている…!
「入ってる!!」
「前前前!!」
大地さんが繋いだボールをなんとか研磨に繋げた7番の子
それを研磨は髪型が独特な子にあげた
「行くぜ日向ァ!腹に力入れてェ!ぜってえぬかせねえって気合い手に込めてぇっ!!せーーーの……」
龍もなんとか自分のできるアドバイスをしつつ、そのスパイクをブロックした
と思ったけど、音駒はレシーブを軸にしているチームだ
目立ってなかった相手のWSの人が、そのブロックされたボールをレシーブし、研磨へと返した
「研磨ァ!!!」
「!?」
「もう一本だコラァ!!」
さっきのスパイクがブロックされたのがよほど気に入らなかったのか、さっきと同じ人が飛んだ
「音駒のエースだ!!!オラァ!!!」
その威力は凄まじく、こちらの3枚ブロックを…というか龍を弾き飛ばした
「ッシャアアア!!」
「あの人、龍みたいですね」
「日向もだけど、田中もライバルを見つけたようだべ」
「確かに、ほかの人に決められるより悔しそうにしてますね…」
「そうやって強くなっていくんだ」
スポーツっていうのはそういうものも面白みの1つ…
「私も…選手だった頃はそうでしたけど、嫌な人も出来ます」
「?」
「会う人会う人が好敵手とは限らない…」
「柚葵…?」
「なるべく、皆さんにはそういう人ができないのを祈ってます」
「どういう…?」
挫折しないように、くじけないようにサポートするのが私の役目
……というかこんな話今するべきじゃない!
「ごめんなさい急に!気にしないでください」
「!」
「……柚葵」
「烏養くん、私語してごめん」
「いや、そうじゃなく」
「ごめん」
「!」
きっと多分今の私の顔、
真顔だ
「………ハァ」
「ありがとう」
その言葉で分かったらしい烏養くん
物分かりが良くて助かる
けど、空気を暗くしてしまった

「それより……翔ちゃんと飛雄の普通の速攻が使えるようになったら、攻撃の幅が広がりますね!」
「ああ!使いこなせるようになったら」
「鬼と金棒」
「じゃなく鬼と鬼だな」
うん、暗い空気は取り除けたかな?
「ナイッサー」
今度は研磨のサーブ
それは翔ちゃん目掛けて落ちる
絶妙な位置に落ちるそのボールを翔ちゃんは胸でレシーブした
…なんて器用なの翔ちゃん
「そいあっ龍!!」
「っしゃあああ!!」
夕のトスで龍が決めに入る
「ピンチの時に決めんのは旭さんだけじゃ、ないんだぜぇぇぇ!!ふんっ!!」
龍はさっきのお返しと言わんばかりに、音駒のエースのブロックを吹っ飛ばした
『ソイソイソォォイ!!!』
「……あのポーズ、なんだかイラってきませんか?」
「うん、西谷も田中もいい加減にしないと大地に怒られるぞ」
孝支先輩の言葉通り大地さんにつままれる夕と龍に笑った
「田中ナイッサ!」
サーブレシーブはきっちりとされ、音駒の攻撃
速攻がくる!と思った大地さんはブロックに飛んだけど、翔ちゃんは何故かブロックに飛ばない
「!」
速攻と思ったが、その後ろからあの7番の子が出てきた
翔ちゃんはそれを見破っていた
視野が広くなった!?
「ナイスワンタッチ!」
「チャンスボール!!」
そのボールを止めずワンタッチした翔ちゃんは、コートを走り抜けた
その速いスピードについていく7番の子
「音駒の7番も反応速い…!」
「…互いに影響し合って、己の実力を発揮する…まさに翔ちゃんの好敵手ですね」
ぺちっと可愛らしい音が響き、ボールは音駒側の床に落ちた
「よっしゃァ!!」
『もう一本!!』
「俺らも負けてらんないっス!」
「うん」

「らァ!!」
「!」
「ッシャアァ!!」
「くそっ…!」
またも音駒のエースに決められてしまった
これで18ー15
音駒が優勢だ
「…先に20点台に乗られたくないな…」
「そうか…25点試合の2セット先取だから、あと7点…獲られたらーー負ける」








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