バレンタインデー



俺はなんとなくワカバタウンに来ている。そう、なんとなく。と言ったら嘘になるか。いや、とにかく‥なんとなくなんだ!
ワカバタウンの町並みを歩く。なんだか懐かしい。ここで俺はアイツに出会って‥


「はい、これ美味しいか分からないけど‥!」


遠くで聞きたかったはずの声が聞こえる。しかし、その一言で聞きたくもないものに変わった。俺はそこらにあったポストの後ろに隠れて様子を伺う。すると、やっぱり。アイツはあの幼なじみのヒビキとかいう奴に可愛らしいビニールで綺麗にラッピングされたチョコをあげていた。


「おお!ありがとう!」
「味に保障はないからね〜?」
「大丈夫、どんなチョコでもナマエちゃんの作ったのなら食べるし。」
「もう、ヒビキくんったらぁ!」


楽しそうに笑い合い、ほんのり顔を赤く染めたアイツと真っ赤な顔をしたヒビキ。ああ、なんかイライラしてきた。


「それに‥ナマエちゃんの作るチョコは毎年マジでうまいから大丈夫だよ。」
「そぉ?ありがとう‥!」


毎年!?‥やっぱりあいつら‥怪しいとは思ってたけど出来てたのか。気分わりぃ、もう、帰ろ。


「じゃ、またねヒビキくん!」
「えぇっ!?あ、また‥!」


アイツは俺の方へどんどん歩み寄ってくる。まずいだろ、これ。ああ、来るな来るな来るな!


「あ!シルバーくん!なんでポストの裏なんかに‥?」
「‥!いや、なんか歩き疲れて寄り掛かってただけだよ。」
「ああ?そう‥。シルバーくん、今日何の日か知ってる?」
「し、知らねえよ、!」
「‥ふぅん。」


アイツはバックの中をごそごそし始めた。今日は何の日かだって?知ってるよ。もし知らなくても、今嫌という程思い知らされたわ。何だコイツのニタッとした顔。自分は相手居るからって、俺が相手いないの知ってて馬鹿にしてるだろう。俺が、欲しかったのは、義理じゃない。
アイツはついにバックからものを取り出した。


「‥ふざけるな!お前のチョコなんて、いらないんだよ!」


ついに出てしまった、思ってもない言葉。アイツは俺に差し出したヒビキにあげてたやつとは全く違うもっと豪華な箱のチョコを引っ込めて、俺は目を見開いた。


「‥そうなのっ、なんか、ごめんなさい‥。これ、自分で食べるから気にしないでっ!じゃ‥!」
アイツは走り去っていく。待て、と叫びたかったのに、衝撃がでかすぎてすぐに声を出す事が出来ずにアイツは見えないとこまで走っていってしまった。追いかけなきゃ!
















走って走ってたどり着いたのは公園だった。私は先程好きな人に「お前のチョコなんかいらない」と言われてしまった。分かっていた、片思いって事くらい。シルバーくん、いつも冷たいもん。それでも昨日一生懸命作って勇気を持って差し出したチョコをあんな風に言われて、受け取りもしてくれなかった。いくらなんでも酷いよ‥。
私はラッピングをビリビリ破いて生チョコにかじりつく。その瞬間堪えようと思っていた涙が溢れてきて、ボロボロこぼれ落ちた。シルバーくんの馬鹿、シルバーくんなんてもう知らない。


「おいっ、‥やっと見つけたよ。」


いきなり耳に届いた痛いほど誰か分かる声に俯いてた顔をあげる。すると驚いた顔のシルバーくんがいた。


「おまっ、な、泣くなよ!それ、食うから‥。」
「同情なんて、いらないもん‥。」
「っ同情じゃねぇよ!」
「ああ、シルバーくん‥甘いもの好きだもんね。でも、私今全部食べちゃったんだ。後でチョコ買ってあげるね。」
「‥買ったチョコじゃなくて‥。」
「ん?」
「お前のっ!いや‥あーもう!」


シルバーくんがそう言った瞬間、シルバーくんがぐっと近付いてきて唇に暖かいものが触れた。


「ん、んまい‥。」
「へっ?」
「‥毎年、俺だけにこれ、作れよ、ナマエ。」


初めてシルバーくんに名前を呼ばれる。嘘みたい、信じられないよ‥。
驚きのあまり私はシルバーくんを見つめる。シルバーくんは顔を耳まで真っ赤にしていた。


「あ、あんまこっち見んな!」
「‥シルバーくん、ありがと、すき!」


私は嬉しくて嬉しくて、シルバーくんに抱き着いた。




end



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