シゲルの日常


簡単すぎる授業も終わり昼休みになった。だいたいボクはここに通っている意味があるのだろうか。おじいさまに勧められ入学したものの、今までそれなりに勉強してきたボクにとっては無意味とまではいかないがあまり意味がない。辞めてしまおうかとも思ったが、ボクには辞められない理由がある。


いつものように売店の隣の自動販売機で飲み物を買う‥のともう一つ。ある人を待っている。彼女は昼休みになると毎日売店に来るんだ。クラスが違うので昼休みにしかなかなか会える機会がなく、僕にとって昼休みはとても貴重な時間。そしてこの昼休みこそがボクの学校を辞められない理由だ。
噂をすれば後方から彼女の笑い声が聞こえる。と同時に、サトシの笑い声。ふと後ろを振り返ってみる。あれは‥追いかけっこか?どんどん近づいてくる二人。何でサトシと一緒に居るんだ。いつもはハルカとかいう女の子と一緒なのに。
すると彼女の動きが止まった。疲れている様子で息を整えている。一方サトシはそのまま売店へ突っ込んで行った。僕は迷わずに彼女に近寄る。


「シゲルくーん!今日はミルクティー?私もなの!」
「そうなのか。奇遇だね。」
「シゲルくん、あの、お弁当作ってきたから良かったら食べてくれない?」
「あ、ありがとう。いただくよ。」


まともに喋った事のない女の子に話しかけられる。いつもこれでナマエちゃんに近寄れなくなるんだ。女の子は嫌いではない。むしろ好きだから嫌ではないのだが、このお昼休みの時に話しかけられると少しイラッときてしまう。ボクの貴重で大切な時間だから。何とか女の子達から抜け出して、まだ息を切らしたナマエちゃんの元へ辿り着いた。


「ナマエちゃん…大丈夫かい?」
「あっ…シゲル!大丈夫だよ。ありがとう。サトシったら毎日ホットドックなの!おかげで毎日走らされるハメよ‥。」


そういってナマエちゃんは微笑む。この笑顔は凄い癒しのパワーがある。だが、その笑顔でサトシの話をされれば残酷なものになる。


「そうなのか。ま、ボクだったらナマエちゃんを無理して走らせるような事はしないけどね。」
「もう、シゲルったら!でもこれ、ダイエットになるかもだし!」
「そうかな?君は痩せなくてもいいと思うけど。ボクはそのままの君が好きだからね。」


そう言うとナマエちゃんは「冗談はよして」と言いながら顔を赤らめる。昔から、いちいち顔を赤らめる彼女が好き。可愛くて堪らない。ボクの言葉を本気で受けとってくれないのが複雑だが、むしろ助かってるのかもしれない。思い返すと何て恥ずかしい台詞を言っているんだ。こんな台詞は言い慣れてしまっているせいか、サラッと言えてしまう自分にびっくりする。


「ナマエー!!」


よく知っているこの声‥もう来たのか。自然とため息が出てしまった。


「やぁ、サートシ君。」
「おう、シゲル!」


サトシは一瞬こちらへ目を向けてから、すぐにナマエちゃんへと視線を移した。


「見ろよっ!今日もホットドックだぜ!はい、ナマエの分。」
「えっ?私の分も?嬉しいっ!ありがとー!」
「いつも走らせてるからな!」


ナマエちゃんは目をキラキラ輝かせながらホットドックを受け取っている。
微笑み合う二人。僕以外の人にその笑顔を見せないでくれよ。


「‥じゃあ、ボクはこれで。」
「あ、じゃあね!」
「じゃぁなー。」


何だか見ているのが嫌になったのでその場を去った。ボクは、本当にナマエちゃんの事が好きみたいだ‥。ボクは昔から何となくナマエちゃんに惹かれていた。だけど、別々に旅をする事になって。別れている長い間この気持ちは心の隅に置いて、それなりに恋愛経験は積んできた。そして、このタマムシスクールで再開して、少し大人っぽくなって綺麗になったナマエちゃんを目の当たりにして、僕の心に火がついた。こんな気持ちにはなった事はない。今までの恋愛はほぼ興味本位。この気持ちは、本気だ。殆ど経験してきたボクの"初めて"の相手。ナマエちゃんは必ず、ボクのものにする。


「シゲルくん?」
「はっ!なんだい?」
「シゲルくんの幼なじみの二人って、付き合ってるんでしょ?」


名前も知らない女の子の一言に一瞬頭が真っ白になる。


「えっと‥どうゆう事かな?」
「えーシゲルくん、幼なじみなのに知らないの!?あの二人いつも一緒に居てラブラブだって、今凄く噂になってるのよ!」


そ、んな。まさか‥そんな事がある訳ない、あってたまるか。


「幼なじみがラブラブでシゲルくんも寂しいでしょ?あたしが‥慰めてあげる。」


女の子はボクの腕にべっとりくっついて、上目遣いで見上げてくる。ああ、今はそんな気分じゃないんだ。


「ちょっと、ごめんね。」


ボクは女の子の腕を振り払って、スタスタ歩き出した。女の子の誘いを断るなんて初めてかもしれない。
ボクはその後の午後の授業には、なかなか集中出来なかった。




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