Where is Your Love? | ナノ

Where is Your Love?



窓の外をぼうっと見つめていた。外は雪が積もっているだけで、降っていない。
(あの真っ白な雪化粧されたグランドの中にバレンタインのチョコレートを隠したら、颯斗君、怒るかなぁ……)
と、来たる女の子の祭典、バレンタインに想いを馳せている夜久月子。
 そんな彼女に話しかける大学の友人たち。一体どうしたのか、と。
「そうだね。あの真っ白な雪化粧されたグランドのなかにバレンタインチョコを隠したらどう反応するのかなぁって考えていたの」
「チョコを隠すって……。変な考えをするのね、月子って」
「そうかもしれない。でも、私と颯斗君にとっては毎年恒例のイベントなの」
 チョコを隠す。それは星月学園のバレンタインのイベント。
 男子生徒が多かった星月学園でチョコを貰うことができない彼らに慰めを、ということで生徒会で考案したのがチョコを隠し、当たりを見つけた学生に願いをひとつ、叶えるというイベント。
「そのイベントに乗じてね、私と颯斗君は高校三年生の時、バレンタインとホワイトデーのチョコを隠したんだ」

――お互いの愛を確かめ合うイベントを――
 
 月子は当時のことを話し始める。

* * * * *

「申し訳ありません。まさか、卒業して一週間後にはウィーンへ旅立つことになりました。なので、僕からのバレンタインのお返しを直接お渡しすることができません」
 今年のバレンタインのイベントをどうするか、という生徒会の話し合いが終わった後、颯斗は月子に頭を下げるとそういった。
「それは急な話だね……」
「えぇ、本当に。僕の知らない間に事が進んでいたようです。せめて、ホワイトデーまで日本に居たかったんですけどねぇ。今の僕の力ではその予定を動かすことは不可能です」
 颯斗は困った笑みを浮かべて言った。まだ、力が足りない、とつぶやきながら。
「力が足りないって……。まだ、私達は高校生だよ? 大人の事情に叶うわけないよ」
「そうですが……。せめて、月子さんから頂いた愛を、直接僕の手でお答えしようって思っていたんですが、それを行うことができなくなったのは本当に悔しいです」
 大丈夫だよ、と月子は颯斗を元気づけるために明るい声で言った。
「今年は我慢して、来年は颯斗君の手でチョコを貰うの楽しみにしているから」
 この話はおしまい、と月子は颯斗の手を取る。一緒に帰ろう、と告げて。
 しかし、颯斗は気づいていた。月子は笑顔で明るく振舞っているが、少しだけ気落ちしているのを。
(やっぱり、無理を言って来月の十四日まで日本に……。だけど、予定を変える力が、僕には)
 ない、という結論を脳内で叩き出す。
 気丈に振舞っている月子に申し訳ないという想いを抱きながら、颯斗は彼女と一緒に生徒会室を出ようとしたが、
「話は聞いたのだ、そらそら、月子!」
 会議が終わったと同時に専用ラボに引き篭っていた、天羽翼が勢い良く扉を開けた。
「もしかして、僕達の会話を盗み聞きしていたんですか、翼君?」
「うぬぬ……ぬ、盗み聞きなんて人聞きの悪いこと言わないで欲しいのだ! ラボの間で話をしているから聞こえてきたんだ!」
「聞こえていてもここは聞かなかったふりをするべきだと、僕は思うんですけどね」
「まぁまぁ、颯斗君。それで、翼君。私たちの話を聞いて何か思いついたの?」
 うぬ、と翼は得意げに頷いた。
 そしてホワイトボードの前に立ち、ペンを持つ。そこにスラスラっと書いていく。
「これでよしっと……。そらそらー、月子ー、これを見て見て!」
 颯斗と月子はホワイトボードを覗き込む。そこには、
「……星月学園チョコ争奪戦争……?」
「しかも生徒会も含むって……。翼君、私達もチョコを探すってことなの? 主催なのに」
「うぬ! いつもどおり大当たりのチョコは用意する。そして、そのチョコを三人で一緒に隠したら、そのあと、そらそらと月子が俺の立ち会いのもとチョコを隠す。そしたら、俺はすべてのチョコの場所を知ることになる。だけど、そらそらと月子は一つだけチョコの場所を知らない。
 だから、それを探すっていう意味で生徒会を含むチョコ争奪戦争というわけなのだ」
 翼の考えになるほど、と颯斗は一応納得する。
「でも、その考えだと翼君は参加できなくなりますよね? 全てのチョコの隠し場所を知ることになるんですから……」
「俺は大丈夫なのだ! だって、大当たりのチョコが見つかったとき、生徒会室に誰もいなかったらマズイだろう? だから、俺はお留守番だぬーん」
「お留守番って……。確かに、いい考えですがちゃんと、生徒会室を壊さないで待つことできますか?」
「できる! 出来るったら出来るのだ! 俺だって生徒会長になったんだし、そらそらや月子は俺のこと心配せずにただチョコ探しに専念してくれればいいのだ!」
 颯斗の言葉に対して翼は自信を持って言った。自分は大丈夫、だと。
 そんな彼の態度を見た颯斗はうーん、としばらく考えていたが、
「わかりました。翼君の意見に乗りましょう」
「えっ、颯斗君?」
「ほんとか、そらそら!」
 驚いた表情をする月子に対し、パァッと顔を明るくし、笑顔になった翼。
「えぇ、本当です。今回、翼君にとって生徒会長になって初めてのイベントですからね。そろそろ、僕離れの証拠がひとつ欲しいなぁと思っていたところです。
 この企画、絶対に問題を起こさず最後まで運営してくださいね」
「うぬ! 絶対に成功させるのだー! そのために、発明品を……」
「作らないでくださいね、会長? ラボに引きこもる前にやることがあるでしょう?」
「ぬ……そらそらの顔が怖い……。今ならぬいぬいの気持ちがわかるような気がするのだ……」
 翼はラボに戻らず、生徒会長の席に座った。
 翼がおとなしく書類と格闘し始めたのを見届けると、颯斗は月子の手をとって、
「今日は寮に帰りましょう。翼君なら大丈夫です。僕と一樹先輩の意思をちゃんと引き継いでいますから。それに、いま彼に手を貸したら彼のためにならない。僕はそう思います」
 なぜなら二人が卒業したら一人で生徒会を背負わなければならないから。
「翼君……そう、だね。ここは我慢、しないと」
 きっと颯斗も手伝いをしたいんだろうなぁと月子は思った。だが、そのことを月子は指摘しなかった。
 ただ、頑張れ、と心のなかで応援して、静かに生徒会室を出た。

「そう言えば、今年は手作りのチョコを作ってくださるんですか?」
「あー……そんな約束をした、ね」
「もしかして、約束忘れていたんですか?」
「そ、そんなことないよ! で、でもね……」
「料理に自信がないから、美味しい物を作れない、と言いたいんですか?」
 颯斗の指摘に月子はうっと言葉をつまらせる。
 料理が下手なのは月子と関わってる人はほとんど知っている。そして、月子自身もわかっている。
「月子さんの料理の腕がどうであれ、僕は月子さんの愛がこもったチョコを食べたいんです。
 なので、なるべく手作りをお願いしますね」
「ど、努力します」
 月子は明日からこっそり特訓をしようと心に決めた。
(楽しみにしている颯斗君の気持ちを無碍にはできないからね)


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