拍手 | ナノ 夜中に甘いものは厳禁。
それはわかっているが、今日だけ特別。

今日は……というより日付を越えたら大好きな人の誕生日を迎えるのだから。

「む……ほ、本当に食べるのか?」
「食べるに決まっているよ!だって龍之介が、食べたいって言ったんだから!」
「確かに食べたいって言ったが……本気にするとはな」
「大切な彼氏の望みですから。それを叶えるのが彼女でしょう?」

二人の目の前にあるテーブルの上には大きなうまい堂特製ホールケーキがある。それを、日付が変わったと同時に二人で食べよう、というのだ。
なぜなら、日付が変わると同時に龍之介が一つ、年を取るから。
今年は誕生日を一緒に迎えて、一緒にケーキを食べようと二人で約束していた。だから、月子は今龍之介の部屋にいる。

「しかし、ケーキが目の前にあるのに食べられないとは……」
「もうちょっと待ってよ、龍之介。あと五分で日付が変わるんだから」
「……五分も、あるのか」
「五分しか、ないんだよ?」

そこで会話が終了し、部屋の中には二人の息遣いと時計の針が動く音だけ。

「何か話さないのか?」

黙ったまま二分が経過して、龍之介が口を開く。

「龍之介の方こそ、年を取る前の一言とかないの?」
「む……。そうだな」

月子の質問に龍之介は腕を組んで考える。そして、時計の針がもう一分進んだ後に、

「これからもよろしく頼む、月子」
「うん、私の方こそ。これからもよろしくお願いします、龍之介」

そこでまた会話が途切れる。
あと一分強で日付が変わるのに会話をしないのも変だなぁと思いつつ、でもこれが自分たちらしいかも、と月子はぐるぐると考える。
あと30秒、というときに龍之介がゴクリと生唾を飲み込む音が部屋に響く。

「龍之介、カウントダウンする?」
「カウントダウン?」
「うん、0時になるまで。行くよー。20、19、18……」

龍之介の返事を待たず、月子は勝手にカウントダウンを始める。

「……ごー、よーん、さーん、にーい、いーち。お誕生日、おめでとう、龍之介」
「む……。あ、ありがとう、月子」
「さて、ケーキが食べたいと思っている龍之介君。ここでどっちかを選んでもらいます」
「選ぶ……?一体何をだ」

すぐにケーキが食べられると思った龍之介は、眉にしわを寄せ、少しだけ不満そうに答えた
まぁ、そういう態度を取るだろうなぁと思っていた月子は龍之介の唇にちょんっと人差し指を置いて、

「私からのおめでとうのキスと、ケーキを食べるのとどっちがいいですか?」
「………む」

龍之介はさらに眉にシワを寄せる。そして、息を吐いて月子の両頬を両手で包み、

「答えはひとつに決まっているだろう……。そ、その……月子からの、おめでとうのキスが、欲しい」
「良かった。ケーキが欲しいって言うのかと思った」
「け、ケーキもいいが……。その……」

龍之介は顔を真っ赤にして口をもごもごさせる。
一体何が言いたいんだろう、と月子は不思議に思う。

「ちゃんと言ってくれないとわからないよ?」
「……そ、その……。せっかく自分の誕生日を迎えたんだ。い、一番最初に口に何かを入れるとしたら、月子からのキスがいいな、と思った、だ……む」

龍之介が言い終える前に彼の唇は月子の唇に塞がれた。

「い、いきなりキスするな!」
「だって嬉しかったんだもん、龍之介の言葉。それで?誕生日を迎えて、一つ年をとって口にしたキスの味はどうだった?」

そうだな、と龍之介はグッと月子を抱き寄せて、彼女の唇をふさいだ。

「い、いきなりのキスはずるいよ!」
「お前もさっきいきなりしただろう?それと同じだ」
「だけど、私の質問に答えていないよ!」
「だ、だから。その……」

顔を真っ赤にして龍之介は味の感想を月子の耳元で囁いた。

「……っ、バカ!」
「なっ、バカとはなんだ!」
「龍之介の変態!スケベ!」
「お前が味の感想を言って欲しいって言ったから思ったことを素直に言っただけだろう!」
「もう、この話は無し!ほら、龍之介が楽しみにしていたケーキだよ!」

囁かれた内容に顔を真っ赤にして月子は話題をそらすかのようにケーキを切り分ける。今、すべてのケーキを食べてしまったら確実に太ってしまうのが目に見えているので、最低限の量を切る。

「……少ない」
「今は我慢して、明日の朝残りを食べようよ。そうしないと太っちゃう」
「そうか?月子はもう少し食べたほうが……」
「龍之介、それ以上言うと大嫌いになるよ」
「それは困る」

龍之介がケーキを諦めたのを確認すると、月子はケーキにラップをかけ、冷蔵庫に入れる。そして、再び彼の隣に座る。

「食べるか」
「うん。でも、その前に」


あなたの好きな甘い味がする私のキスをあげる


(お前のキスはどんな甘いものよりも甘くてずっと味わっていたくなる)

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