Lost Music World | ナノ

Lost Music World




これは2010年4月1日と7月7日に公式で行われた【Tears of the Polestar】と【Zodiac sign】の設定を使ったパラレル小説となっております


 少女は、目を覚ます。ごしごしと目をこすり、壁にかけている時計を見るといつもの時間を過ぎていて、慌てて身支度をした。
 外はとても良い天気だった。大通りを歩いて小道に入る。そこから四番目にある小さなカフェを経営しているところに入った。そこが、少女の職場だった。
「こんにちは。少し遅くなりまし……た?」
 少女が店のドアを開けると、見知らぬ青年がそこにいた。時間的には店はまだ開く時間ではない。
 青年は入ってきた少女を見てハッと驚いたような顔をしたが、それはすぐに消えて柔らかな笑みを向けた。
「こんにちは。貴女がこの店のウェイトレスをやっている夜久月子さんですね」
 名前を指摘された少女――夜久月子は目を丸くする。どうして彼が自分の名前を知っているのか。
 彼は常連ではない。常連だったら月子自身が覚えている。それに、彼は普通の人とは身分が違うのではと思った。雰囲気が、周囲の人とは違うのだ。
「えっと……あの」
「あぁ、初対面なのに名前を言って警戒していらっしゃるのですね。僕の名前は青空颯斗です。ここのマスター、不知火一樹の知り合いです」
「そう、なんですか……。まだ店は開店前なのですが」
「えぇ、それも知っています。本当は貴女が来る前にこの店を去るつもりだったんですが。どうも、今日はその気分じゃなくて」
 そっと、青空颯斗と名乗った青年はピアノの蓋を撫でる。そのピアノはいつもこの店の従業員の一人である、木ノ瀬梓が気まぐれに弾いているのを月子は見たことがある。
「……ピアノ、弾かれるんですか?」
「えぇ、元々これで食べていましたから。でも、今は弾きません。ほかの仕事ができましたし。このピアノは時々調律に来ていたんですよ」
「そうだったんですか。知りませんでした」
 それもそうでしょう、と言って颯斗はピアノの蓋を開けた。そして、鍵盤を綺麗な指先で一音一音奏で始める。
 しかし、その音は月子には響かない。何かの音が発しているとしか、聞こえない。
「………あの、ごめんなさい」
「どうかしたのですか?」
「私、耳は悪くないんですが……音楽に関しては全く聞こえないんです。原因はわからないんですが」
 月子はとても明るく笑って答えた。その明るすぎる笑顔に颯斗は少し恐怖する。
「……その、貴女はとても明るい方なのですね。普通、記憶を失くされている方はそのことに不安を覚える……そう、記憶がないことをネガティブに思う方が多いと思うのですが」
「そうみたいですね。でも、ずっとネガティブに思っていては前に進むことはできません。だから、記憶がないことは短所ではありますが、長所としてとらえたら素敵な人生が歩めると思いませんか?」
 月子の言葉になるほど、と颯斗は頷く。とらえ方によって人の考えは違うものだと納得する言葉だ。
 二人が話している間にカランコロンとドアが開いた。やってきた人物を見て、月子は嬉しそうに微笑んだ。
「梓君、お疲れ様」
「月子さん、こんにちは。まだ準備していなかったようですね。………それで、こちらの方は?」
 月子に梓と呼ばれた少年はこのカフェの従業員だった。といっても、彼がマスターと思っている人が多い。なぜなら、カフェのマスターである不知火一樹はなかなか姿を見せないからだ。梓は月子が支度していないことを咎め、開店していないのに颯斗がいることをいぶかしげに尋ねた。
「彼は青空颯斗さん。一樹さんの知り合いで、このピアノを調律してきてくれた人なんだって。私は知らなかったんだけど、梓君は知ってた?」
「………いいえ。全く知りませんでした。……はじめまして、青空颯斗、サン。僕は木ノ瀬梓と申します」
「……えぇ、はじめまして。木ノ瀬君。君がいつもこのピアノを弾いているそうで」
「はい。時々音がきれいに響くなぁと思っていたんですが、貴方が調律してくださっていたんですね。ありがとうございます」
「あっ、あの……。私、奥で準備してきますね!」
 月子は二人のただならぬ空気に気づいたため、準備をすることを口実にして奥へ向かった。そろそろ開店しないといけない時間というのもあったが。



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