落忍 | ナノ


皆が寝静まった丑の刻。
誰にも気付かれないように学園の外に出ると、雑木林の中に私を呼び出した人物が影を潜めていた。
素早く林へ体を滑り込ませると、樹に登るよう指示される。同じ枝に飛び乗り、ようやく会話が許された。


「雑渡さん、せめて日中の実習ついでに会えませんか? 夜中に抜け出すのって結構、気疲れするんですよ。先生方は優秀だし」
「うん、ごめんね。進捗状況が気になっちゃって」
「…またその座り方ですし」


相変わらず足を揃えて座る雑渡さんに嘆息つくと、包帯の中でくつくつと笑われた。


「あまり進展はありません。とりあえず生徒として馴染めるように劣等生を演じてはいますが…さっさと攻め入った方が手っ取り早く壊滅させられるんじゃないですか?」
「うーん。学園として機能しなくなればいいんだよ」
「雑渡さんが以前、伊作達に助けてもらった温情があるとしても、上の命令に従った方が早く仕事が終わりますよ。学園長を殺しただけではすぐに代役を立てるでしょうし、何なら先生方全員を始末しないと生徒を生かしたまま機能不全にするなんて不可能です」
「うん。じゃあ、やっちゃって」
「…先生を殺せと?」
「うん」
「わかりました。いつまでに?」
「…1ヶ月、かな。いや、待って、確認してみるから殺しは延期」
「わかりました。指示を待ちます」


じゃ、と言って立ち去ろうとしたのに、雑渡さんの手がそれを阻んだ。
何だと振り返れば、雑渡さんは顔の包帯をぐっと引き下げて唇を露にし、口付けをしてくる。

それは一瞬で、すぐに離れていった。


「女だって悟られないようにね。こういうこと、されちゃうよ」
「こんなことするの、雑渡さんくらいですよ」


そうして今度こそ学園へと戻った。
「そうかなあ」という雑渡さんの呟きは私には聞こえなかった。

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