つまり、私は裏切り者である。
プロの忍者で、雑渡さんの弟子でありながら忍術学園壊滅もとい機能不全のために潜入している。
壊滅させたいが表立って真っ向勝負はしたくないという理由からだ。
何故、くの一教室ではないのか。
それは女の特性のせいだ。
どうしても女は群れを作って動きたがる。厠、食堂、風呂、授業。何でもかんでも群れを成す。しかも単独で動こうとすれば揶揄され、除け者にされ、とまあ色々とやりにくい。
秘密裏に動いて欲しい雑渡さんとしては、男と偽って潜入した方が楽だったわけだ。
なかなか不便ではあるが、もともと痩せぎすで女らしい曲線もないので助かっている。
とりあえず、先生方が授業後にどこにいるのかを把握しておこう。
学園の全体像も頭に入れておかないと。
「アラシ、何してんだ?」
見ると、留三郎が手裏剣の的(まと)を持って立っていた。
「散歩。まだ学園のことをよく知らないから見ておこうと思って」
「ああ、なら案内してやるよ」
「何か委員会の仕事があったんじゃないのか? 歩くだけだから、ひとりでも平気だよ」
「ちょうど修理し終えたところだったんだ。水臭いこと言うなよ。同室じゃないか」
そういえばこいつはそういう男だった。
「用具庫に置いてくるから、待っててくれ」
「手伝うよ」
あわよくば学園がどの程度の武力を有しているのか覗き見るチャンスだと思った。
用具庫には、そうでなければ入る機会がほとんどない。そんなことを企んでいるとは知らずに、留三郎が明るく「ありがとう」と言ってのけるあたり、うまく騙せているようだ。
「ここに置いとけばいいか?」
「ああ。助かった! よし、それじゃあ学園の案内に――」
と、いざ行かんとしたときに用具庫の扉が風に煽られてばったんと閉まった。不運にも閂錠も下りてしまったらしく、開かない。
「修理の件は誰かに言ったのか?」
「伊作に言った」
「じゃあ夜までいないとわかれば探しに来てくれるだろう。わざわざ扉を破壊しなくても待っていればいい」
「そうだな」
そうして私達は少し距離を取って座った。
明かりのない用具庫は暗かった。
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