落忍 | ナノ


「アラシ、どうした?」


声を掛けられて振り返ると、仙蔵が立っていた。
学園外から帰って来たところなのか、私服である。


「宝禄火矢の補習を受けることになって、その練習」
「ああ、アラシは自作が出来ないんだったな。教えてやろうか?」
「助かる」


仙蔵は私の横に座って、材料を集めた。


「火薬はそんなに入れなくていいんだ。土器をこうやって被せて」
「うん。土器は留めなくていいのか? 紐だけ?」
「そう。火縄を土器の隙間に差し込んで導火線にする。あとは土器が外れないように紐を十字に縛ればいい」
「縛れない」
「不器用だな。ここをこうやって持って一周、ここを押さえて、もう一周だ」
「うん?」
「…なぜ出来ない。ああ、手が小さいんだな。貸してみろ」


仙蔵は私の手を取って、自分の手と重ね合わせてみせた。


「ほら見ろ。指の長さがこんなに違う。だから出来ないんだ」
「仙蔵の指が長すぎるんだろ」
「やり方を変えよう。足で宝禄火矢を押さえるようにして結べば簡単だ」
「ああ、本当だ。出来た」
「…練習のしすぎだ。血が出てる」


この十二月の寒空の下、ずっと紐と格闘していたせいで乾燥した指先からは血が滲んでいる。馬油でも塗ろうかとしみじみ観察していると、ぺろりと仙蔵の舌が私の指を食んだ。


「…汚いぞ」
「練習は終わりだ。手当てしてやる」
「仙蔵が?」
「それくらい出来るさ」


ふむ。まあ、あとは反復するだけで補習は何とかなりそうだと納得して、仙蔵に従うことにした。


「それにしてもアラシの指は細いな。女みたいだ」
「…う、うん?」

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