落忍 | ナノ


山道から忍術学園への帰路に着いていると、背後に人がいるのに気が付いた。
少し離れてはいるが、一本道ということもあってずっと後ろにいる。

試しに歩調を緩めてみた。
私に合わせて歩く速度を変えるのであれば、私を狙っている。
だが背後の人間はむしろ早足になった。
何だ、こいつ。


「やっぱり、アラシだったか」
「利吉さん」


追い付いてきたので振り返ってみれば、私服姿の利吉さんがいた。


「忍術学園に帰るところかな? 私も父上に用があってね。一緒に行こうか」
「はい」


どちらともなく歩き出す。
正直なところ、ひとりでのんびりと歩くのが好きなのだが、仕方ない。
それよりも雑渡さんと密会していたところを見られただろうか。密会場所からそう離れていないのが気に掛かる。
それに、利吉さんは手練れだと聞く。
妙なところに勘づいてくれるなと祈りつつ、視界の端で動向を監視しながら歩いた。


「忍術学園は楽しいかい?」
「そうですね」
「授業も?」
「まあ、はい」
「苦手なものはないの?」
「戦闘訓練ですかね」
「ああ、君は少し華奢だからね。でも、きっと大丈夫だよ。忍者は力というより技術だから。もちろん腕力もあるにこしたことはないけれどね」
「ありがとうございます。精進します」


すると急に利吉さんがわざわざ前傾姿勢になって、顔を覗き込んできた。
思わず仰け反って距離を取ってしまうほど無遠慮な近さだった。


「何ですか」
「君は、あまり表情を作らない子だね」


がっつりと視線が交差する。
利吉さんは初対面の人にでも警戒心を抱かせないような柔和な顔をしているけれど、それでも眼差しは私の本質を見極めようとしている真剣さが宿っている。
いつの間にか私達は足を止めていた。


「そうですか?」
「うん。何だか、プロの忍者みたいだ」
「むしろ逆では? プロの忍者なら、変装も演技も必要な技術であると聞きますが」


見つめ合う時間は一瞬だったはずなのに、すごく長く感じた。
お互いが腹のうちを探り合っているのがわかる。
さすが。六年生とは違う。


「あ、待って。動かないで。髪に何かついてる」


ふと、利吉さんが手を伸ばして私の髪を撫でた。
身の危険を感じて、懐に忍ばせている苦無に癖で手が伸びそうになったけれど堪えた。
今はまだそのときじゃない。
ぐっと耐えて、戻ってきた指に掴まれていたのは、ああ白い花びらだ。
たった一枚の花びらが絡まっていたらしい。
雑渡さんの先の言葉が蘇ってきて、心が時間を遡った。


「何だ、ちゃんと笑えるじゃない」
「え?」
「他の人より冷静なだけなんだね。ちゃんと、優しい顔になってる。プロかもしれないなんて、私の考えすぎだったよ。申し訳ない」


そう言って、利吉さんは再び歩を進めた。

助かった。
でも、これからは利吉さんにはあまり会わないように努めよう。
ほっと息を吐いて、安心できない背中を追った。

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