落忍 | ナノ


暗い用具庫の中にいると、時間の経過は体内時計を頼りにするしかない。
けれどそれも確信できるほど宛になるものでもなく、もうどれほど刻が進んだのかわからなくなっていた。

けれど日は落ちたのか、だんだんと室温が冷え込んでいるのがわかる。
闇は深く、自分の輪郭も曖昧だ。手をかざしてみても影の濃淡でようやく肌があるとわかるほどには暗い。


「冷えるな」
「うん」


留三郎の呟きに頷く。
どこにいるのやら、扉を背にしている私から見て左奥に気配があるのはわかった。


「こっちに来られるか?」
「…生存術か。まあ、仕方ない」


忍刀を構えて障害物を探しつつ、留三郎の傍に向かった。
互いに手探りで相手を探し、体温に触れると求めるように抱き合った。
気色の悪い方法ではあるが、暖を取るにはちょうどいい。


「この術の欠点は眠くなることだな」
「そうだな。…寝るなよ?」


留三郎の声色が何だか妙に甘ったるくなり始めたので牽制したのに、案の定、すぐあとで寝息が聞こえ始めた。
忍者としてどうなんだと思いつつ、抱いておくのも腕が疲れるので膝を貸してやった。

それからまた刻が経って、明かりが差し込んできたので目が覚めた。

見れば、扉が開いて燭台を持った伊作が用具庫を覗き込んでいる。


「留三郎ー? アラシー?」
「伊作、ここだ。助かった――」


立ち上がろうとすると、させまいとする力が膝にあった。
私の胴に回された留三郎の腕力は凄まじく簡単にはほどけない。「離せ」と言っても、留三郎は寝たままだった。


「伊作、助けてくれ」


私達を見た伊作が苦笑しながらも入ってきた。


「ちょっと待て伊作、扉に突っかえ棒を――」


言い終える前に扉が閉まった。
伊作の不運を失念していたけれど、蝋燭が手に入ったからよしとしよう。

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