死神 | ナノ


其れがたる所以  


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※(結構)グロテスクな表現あり。あらかじめご了承をお願い致します。
※「静けさは時に不吉である」の続話ですが、単品でも読めますん。



 * * *



目覚めると、そこは見たこともない部屋だった。
天井から吊り下がる無影灯がひどく眩しく、顔をしかめてしまう。真っ白な光源から目を逸らしながら身体を起こそうとして、けれど抵抗があって出来なかった。
なんとか首だけを持ち上げて自分の身体を眺める。
着物は脱がされ、下着姿だけになっていた。
手首、足首はベッドに直接固定され、大の字に寝かされている。力を込めてみるけれど、数ミリも動く気配のないくらい頑丈な拘束具だ。


「あー…まずい…どうしようか」


記憶はある。だから、逃げたい。怖い。何をされるんだろう。いつ解放してくれるんだろう。何を調べたいんだろう。怖い、逃げたい。
頭の中をぐるぐると思考が回っていく。がしゃがしゃと手足をばたつかせてみるけれど、やはり、てんで無意味だった。

すると足下にあったらしいシャッタードアがするすると上がって、マユリがくぐって入室してきた。
手術器具の乗った銀色の台車を押してくる姿が、どうにも気色悪い。


「やあ、起きたかネ?」


ギンに変装したマユリに誘拐された理由は、何となくわかる。
じっとマユリを見返した。
白目の中でぎょろぎょろと動く小さな瞳が彼の器量の狭さを表しているかのようで末恐ろしい。爬虫類のように周囲をしきりに見回している。


「噂をネ、耳にしたんだヨ。弱小のアラシが、実は最強最悪の力を有し、かつ制御出来ない最凶で哀れな破面である、とネ」


事実だ。

私は藍染に産み出されたその瞬間から、霊圧も感じない、虚閃も撃てない、俊敏さもない出来損ないの破面だった。
けれど本当は、壮大な力を有しているくせにコントロール出来ない危険分子で、藍染に封印を施してもらってから手錠足枷をされて縛られていた過去がある。
それをマユリはどこかからか聞き付けてしまったのだ。
マユリは腰を曲げて、口付けする勢いで私の顔を覗き混んで来た。


「素晴らしいネ。今の君は蟻にも劣る霊力しかないというのに、どうやって力をその体で封じているのかナ?」
「私にもわからないし、どうやって力を出すのかもわからない。時間の無駄だから、帰して」
「まさか。さて、まずはサンプルを取ろう」


マユリは台車の上からピンセットをつまみ上げて、私の頭上に回った。
髪の毛を丁寧に一本掴んで、引き抜く。ぷちん。
抜いた髪の毛をガラストレーに入れて、今度はペンチを持った。


「爪を貰うヨ」
「…冗談でしょ……え、マジ…? ちょ、待っ…!」
「安心したまえ。一枚だけだからネ」


言いながら、マユリは私の左手中指の爪にペンチを捩じ込んだ。



 * * *



ギンは虚圏に来ていた。
待てども暮らせど、待ち合わせた場所にアラシが姿を現さなかったからである。律儀な性格をしているアラシが理由もなしに約束を反故にするはずがない。
訳を確かめるべく、虚圏を訪れたのだった。

グリムジョーとノイトラ、そしてテスラは霊圧を感知し、すぐに宮から出て来てギンと対峙した。


「ずいぶんとナメられたもんだなあ、のこのこと来るとはよ」


グリムジョーが言った。
だがギンは構わず本題に入った。


「なあ、アラシ、知らん?」
「…朝早くに出たぞ」


グリムジョーよりも理性的なノイトラが答える。ギンは「せやろな」と言いつつ、髪をぽりぽりと掻いた。
あの子は遅刻してくるような子じゃないのだ。わかっている。


「せやけど、アラシな、きいひんかったんよ。寄りそうな場所、心当たりないん?」
「あいつが約束を後回しにして寄り道するとも思えねえけど、現世なら石田か、黒崎のところなら有り得るかもしれねえな。けど俺にはお前と遊ぶとしか言わなかったぞ」

グリムジョーが少しばかりの落ち着きを取り戻して言うと、悪い予感を抱いたらしいノイトラが指示を出す。

「なら二手に別れて探すぞ。俺とテスラは黒崎、お前らは石田のところに行け」
「…どっちにも居んかったら、どないするん?」


ギンの問いに三人は何も言わなかった。
想定した場所にいないということは、非常事態を意味するからだ。
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