死神 | ナノ


其れがたる所以  


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朝。
グリムジョーの宮にある調理室に、私はいた。

反りの合わないグリムジョーとノイトラ、テスラがようやく同じ空間にいてくれるようになって、私達四人は現世のゲームを夜通し楽しんだ。
藍染との戦いが終わって暇だったから、本当に仲良くなって良かったと思う。
それからお酒を飲んで雑魚寝して、起きて、朝御飯を作りに今に至る。

料理は少し出来る。質より量タイプの料理が主だけど、あの屈強なメンズがいるのだからそれで構わないだろう。


「よっ」


フライパンを引っくり返して皿に盛る。中々な出来映え。量もたくさん出来たし、足らないという事態には陥らない筈。

次はスプーンを四つ探さなくては。あと小皿と、トレイ。

そのとき、ノックがあった。


「グリムジョー? もう出来たから、ちょっと待ってー」


作業台に炒飯を置いたまま、その下の棚をごそごそと探す。

普段はグリムジョーと私の二人分しか使わないから、残りのスプーンがどこにあるのかわからない。
まだ死神と戦っていたときは階級の下のほうの人達しかここに入らなかったらしく、グリムジョー達の中でスプーンの行方なんぞ知ってる人はいないだろう。


がちゃり、と背後にあるドアが開いた。


「ねー、スプーンってどこにあったっけー?」
「そこちゃうで、上や、上。届かんやろ? 取ったるさかい、退き」
「あ、そうだっけ。ありが、と、う…?」


思わず返事をしてしまったけれど、その独特な言い回しは――。

市丸ギン。

振り返ると同時に首を掴まれて壁に叩き付けられた。
大きな音。
背中と喉を圧迫され、息苦しさが襲う。

それ以上に、目の前にいるギンが怖かった。無意識に身体が震える。

死んだ筈のギンが生きていると知ったのは、いつだっただろう。


「ギ、ギン…」
「言うたやろ? 『迎えに来る』て」


私は出来損ないの破面。
霊圧も感じない、虚閃も撃てない弱い破面。そのせいで、役立たずだと藍染に捨てられ、鎖に繋がれていた過去がある。

そんなときギンが初めて声を掛けてくれた。
羽織をくれ、カンザシをくれ、話し相手になってくれた。

でもギンは私を棄てた。

その筈だった。

それからギンをようやく吹っ切って、グリムジョーに拾ってもらって幸せに暮らしているのに、その筈なのに。


「な、何でここに」
「行こか。あの子らが僕に気付く前に、二人だけの世界に行こ」


連れ去られる瞬間、私は炒飯の皿を床に落とした。



 * * *



「何やってやがんだ。あいつは」


俺はいつまでも戻ってこないアラシを迎えに調理室に向かった。

部屋には、不愉快だがノッポとその付き人がいる。俺としちゃ一緒になんざいたくねえんだが、アラシが楽しそうにするもんだから仕方がない。

調理室のドアを蹴り開ける。

が、そこにアラシの姿はない。
代わりに床に炒飯が散乱していて、何が起きたのかをすぐに察した。

響転で部屋に戻ると、ノッポと付き人が訝しげに睨んでくる。


「アラシに何かあった」


そう告げた。
二人の眉間に皺が刻まれる、厳しい顔になった。


「どういう意味だよ」
「床に飯が落ちてた。痩せのバカ食いのあいつが落ちた飯をそのままにしてどこかに行く訳がねえ。連れ去られたんだ、誰かに。探しに行くぞ」
「誰かに、って、まさか――」
「ノイトラ様」


どうやらノッポと付き人は、合点が行ったようだった。
互いに顔を見合わせ、さらに険しい表情になる。俯き、陰った。


「誰か思い当たんのか」
「市丸ギンだ」
「あ? 死んだだろ、あいつ」
「生きてんだよ」


聞けば、俺がいない時に市丸の野郎がアラシに会いに来たらしかった。

当時の拉致はノッポ達が食い止めたようだが、アラシは心底怖がっていたという。それもその筈だ。藍染にも、市丸にも、アラシは棄てられたのだから。その傷はまだ癒えていない。証拠に、アラシは何よりも淘汰されるのを恐れている。

要らない、と背を向けられることに常に怯えているのだ。

市丸ギンが会いに来たということは、つまり一度、背を向けられた相手に狙われていたことを意味する。
傷が抉られる思いだったに違いない。


「何であいつは俺に言わねえんだ…!」
「そりゃ言わねえだろ」
「あ?」
「棄てられたとはいえ、市丸は初めてアラシに声を掛けた奴だ。忘れられねえだろうし、多分、嫌いにもなれてねえ。オメーと一緒にいんのに、そんな奴の話を出来る訳がねえだろうが」


舌打ちをした。

お前はもう俺の女なのに、どうしてそんな些細なことを気にするのかわからない。
いつだって護ってやれるのに。

とにかく、探しに行かなければならなかった。
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