死神 | ナノ


其れがたる所以  


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「可愛え、可愛え」


ギンは私にワンピースを着せた。
オレンジ色の裾が広がった、袖のないワンピース。
ギンは膝をついて私の頭を撫で、頬を撫で、肩、腕に触れた。


「僕の好きな柿の色やで」
「食べ物かーい」
「せやせや、これも付けんと」


懐から取り出したのは、梅のカンザシだった。
昔、一度、くれたものだ。ギンに棄てられるときに一緒に持っていかれてしまったもの。

あのときと同じように私の髪をくるくるとまとめて、カンザシを挿す。露になったうなじに触れて、満足そうに頷いた。


「可愛えね。よう似合う」
「ねえギン、何がしたいの? 私、グリムジョーと結婚したんだよ」


言うと、ギンは私の左手薬指にある指輪に触れた。グリムジョーから貰った、私とグリムジョーの関係の証。拾ってくれたあの日から側にいてくれたグリムジョーとの、証。

けどギンは表情をひとつも変えず、私の顔を見返してきた。


「ほんで?」
「…え?」
「結婚したから何やの? 僕と約束したやろ? 僕を忘れんて、約束したやん」
「でもグリムジョーが心配するし、せっかくノイトラとも仲良くなってくれて」
「せやから、それが僕と何の関係があるん? 僕はアラシと一緒におりたいのに、グリムジョーもノイトラも関係ないやろ?」


しばらくギンと見つめ合った。
いや、睨み合った。
先に折れたのはギンだった。


「アラシのために、ぎょうさん買うて来たんや。食べ」


手を引かれて隣の部屋に入ると大きなテーブルの上にホールケーキ、ホールピザ、チキン、ポテト、パエリア、グラタン、スープ、お肉、餃子、とにかくたくさんの料理が所狭しと並べられていた。
椅子はたったのふたつだけ。
大きなテーブルの割に奇妙なほど近く、隣同士に並べられた椅子のひとつに座らせられる。


「何が飲みたい? ジュースもお酒もあるで」
「ギン――」


言い掛け、ギンの笑顔を見て、口を噤んだ。

ギンは私を棄てた。

でもそれ以上に、初めに生きる気力を与えてくれた掛け替えのない人だった。

温度をくれた人。
また会いたいと、明日を楽しみにさせてくれた人。
私の支えだった人だ。

急に拒絶の言葉を失って、笑って「なんでもない」と首を振った。


「ギンが飲みたいのを飲もう。そういえば干し柿は?」
「見つからんかってなあ。明日、一緒に買いに行こか」
「そうだね。てかここ現世?」


ホールケーキを半分切り取ってお皿に盛る。大口を開けて頬張りながら問うた。
ギンは頬杖をついて、楽しそうに私を見ている。


「せやで。ここは霊圧が漏れへん作りになっとるから、誰にも見つからんで」
「へー。ギンは何も食べないの? 美味しいよ、ピザも美味しい」
「僕? せやねえ、僕は――」


言いながら、私の唇についていたクリームを指で拭って、舐め取った。


「これでお腹いっぱいや」


笑ってくれた。
いつも浮かべている決まりきった笑顔じゃなくて、雰囲気が柔らかくなった、本物の笑顔だ。

だからついつい私も笑ってしまう。

グリムジョーに助けてと言わないといけないのに、どうしてか言えない。拒絶したらギンが壊れてしまいそうで、喉が痞えて言い出せない。


「美味しいやろ?」
「うん、美味しいよ」


ギンが頭を撫でてくれた。
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