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「こっちにはいないよー」


ーー了解。引き続きよろしく


「ほいよ」



あたしがサンジ君のラペルピンに扮した伝電虫に声を吹き込むと、片耳に嵌めているイヤホンからナミの応答がある。

どうしてこんなスパイ映画のようなことをやっているかというと、ナミが宝の在処を風の便りに聞いたことが発端だったりする。

この島を仕切るお坊っちゃまが、宝の在処を知っているというのだ。

しかも地図まで持っているとなると、ナミの根からの泥棒魂に火がついてしまった。

お坊っちゃまに接近するにはセレブになるのが一番。

多数が行き交う場といえば舞踏会だろうという考えから、あたしとサンジ君はドレスコードで参戦しているという訳だ。

あたしとサンジ君はお坊っちゃまを見付け次第、近付いて打ち解けなければならない。

なおかつあたしに至っては色仕掛けで地図の所在を聞き出さなければならないというのだから責任重大。

あたしはサンジ君とワルツを踏みながら、周囲を注視していた。

それにしても何故あたしなのか。

ナミもロビンも賞金首として顔が割れてるからとはいえ、言い出しっぺのナミが裏方というのは甚だ疑問ではある。

サンジ君の賞金首の写真がイラストだから選ばれたのは納得できるけれど。



それにしてもドレスは露出が激しい。

首も肩も腕も出してるわ、背中はがら空きだわ、タイトなスカートなくせにスリットはお尻すれすれまで入ってるわ、なんてドレスを選んでくれたんだナミ。

慣れないヒールに戸惑いながらも、何とかサンジ君のリードについていく。

サンジ君といえば、黒色の上下にワインレッドのワイシャツを着付けていて、シルバーのラペルピン(伝電虫)、黒色の光沢のあるネクタイを締めている。

そのどれもがサンジ君の金髪に映えて、言わずもがな多くの女性の注目の的。

質が悪いのは、それを自分でわかっているナルシシズムだ。



「綺麗だね」



急に耳元にサンジ君の吐息と声が振り掛かった。

ダンスをしているから当たり前なのだけれど、いざ声をかけられると距離の近さに驚いてしまう。

シャンパンタワーが目に留まった。



「ああ、本当だ。きらきらしてる」



シャンパンゴールドが照明に反射して、まるでイルミネーションのように美しかった。

お坊っちゃまはいない。

チビでデブだからすぐわかると言われたのだけれど、これだ、という奴がいない。

見逃したかな。



「違うよ。アラシちゃんのこと」



また吐息。

辞めてくれと言いたいのだけれど、言ってしまえばこの王子が図に乗る。

それって俺のこと意識してるのだの何だのと言ってくるのが目に見えている。

否定しても信じない。ナルシシストめ。



「初めてドレス着たからね。ありがと」
「人が多くなってきたね」



言う通りだった。

会場にはそれはそれはたくさんの人がいて、各々ワルツを楽しんでいる。

おほほ、というセレブの笑い声がどこかしこで聞こえる。

あははって笑えばいいだろうが。とも強く思う。

断じて金持ちに憧れたりなんかしていない断じてだ。



「もっと来て。危ないよ」



サンジ君は言いながら、さらにあたしの腰を抱き寄せた。

もう今でも充分くっついていたのに、今は文字通りべったりだ。

サンジ君の拍動や体温まで感じそうで実に脱したい。

心の中で舌打ちしつつ、お坊っちゃまの姿がないことに苛立って来た。



「いないね。休憩ついでに探して来ようかな」
「それって俺と離れたいってこと?」
「否定はしない」
「やだ」



サンジ君は口許に微笑みを携えている。

どこかの王子だと言われても疑いを持たれないだろうその優雅さは褒めたいけれど、そこまでの自己陶酔はいかがなものかと思う。

あたしは半ば強引にサンジ君から離れた。

あたし達2人だけワルツが止まる。



「ちょっと歩いてくる。20分経って戻らなかったら何かあったと思って探しに来て」



あたしはそれだけ言って、人波を掻き分けて中庭に飛び出た。

ほっと一息つく。

人混みはどうも苦手だ。

窮屈だし、息が詰まる。

中庭では中央にバーテンダーとテーブルが用意されていて、あたしと同じように休息に来たゲストに飲み物を提供している。

あたしの他にも何人かいるけれど、どれもカップルで甘い一時を過ごしている。

会場から漏れる明かりと、満月の光で中庭とはいえ薄暗い程度。

それでもあたしには充分だった。

バーテンダーに歩み寄ると、にっこりと爽やかな笑顔を向けてきた。

ノンアルコールを頼むと、オレンジジュースが出てくる。

いっきに飲み干すと、バーテンダーはさらに微笑んだ。

そこで、中庭から会場に入る小さなデブを見付けた。

タキシードがぱつんぱつんに張っている。

あれだ。

間違いない。

あたしはお坊っちゃまから目を離さずに、サンジ君のもとへ急ぐ。

背が高くて金髪のサンジ君は良い意味でよく目立つ。

レディーに囲まれていたけれど、お坊っちゃまが階段をのぼって2階にあがろうとしていたから構わずサンジ君を引き寄せた。

レディーの小さな悲鳴の中、サンジ君は驚いたようにあたしを受け止めた。

ラペルピンに報告する。



「ターゲット確認。2階にあがるところ。後を追う」

ーー了解。気を付けて。私とゾロもサポートに向かうわ



ナミの声を確認して、あたし達はお坊っちゃまの後を追った。

なるべく早く、けれど怪しまれないように。



「大胆になってくれたのかと思ったのに」
「そんな訳ないでしょ」



ーーお坊っちゃま自室に入ったわ。私が気を引くから、アラシは中で地図を探して。きっと金庫がどこかにあるわ



「了解」



見ると、ナミがこれまたセクシーなドレスでお坊っちゃまの入った部屋をノックしているところだった。

訝しげに出てきたお坊っちゃまはナミを見ると鼻を伸ばして廊下に出てくる。

なるほど、ナミはこのためか。
やはり色気役なら適任に違いない。



「サンジ君は廊下でナミが何もされないか見張ってて。お坊っちゃまがこっちに来そうなら教えて」
「仰せのままに」



あたしはナミが気を引いてる間に、部屋に滑り込んだ。

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