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部屋は広かった。

入るとすぐに広く開けていて、右手にソファとローテーブル、左手には小さなバーカウンター。

バーカウンターの奥と、ソファの奥に隣の部屋に続く扉があって、まずソファ側の扉に向かう。

寝室だった。

キングサイズのベッドが置かれていて、サイドにチェストがある。

そこを開けてみたけれど、当然ない。
あったのは聖書だけ。

バーカウンター側の扉に向かう。

書斎だった。

人が一人入るのがやっとな位の細長いクローゼットの前に高級そうな漆塗りのデスクがあって、その後ろに大きな絵画が掛かっている。

絵画が怪しいと踏んで外してみると、ビンゴ。
金庫発見。

幸いにも鍵式で、あたしは髪に留めていたピンを引き抜いた。

焦っているときほど手が震える。

そもそも宝に何でこんなことまでしないといけないんだ、と捻くれてみる。

がちゃん、とした感触があった。

開いた。

中には札束がいくつかと、時計、指輪などの金目のもの。

そして奥に、小さく畳まれた地図。

あたしはそれを取って、金庫を閉め、絵画を戻す。

隠し場所がなくて、地図をスリットから仕方なくショーツに挟んだ。
(ちゃんと腰の紐の部分)


ーーナミさんは無事。お坊っちゃまが戻る。急いで



サンジ君の声がイヤホンから流れてくる。

慌てて書斎を出ようとする。

部屋の出口のドアノブに触れたところで、ドアノブが回った。



ーー間に合わない。窓から



サンジ君の声に従って、とりあえず書斎に戻ることにした。

書斎に滑り込んだ瞬間、出口の扉が開かれる。

会場のメロディーが大きく聞こえて、ナミのじゃあね、という声が聞こえてから扉が閉まった。

再びくる静寂。

窓から出ようとして、肩を掴まれた。

驚いて振り返る。



「ぞ、」



ゾロだった。

口を塞がれ、人差し指でしーっとしてみせる。

黒服に身を包んだゾロはあたしを抱きかかえて、あの細長いクローゼットにあたし共々捩じ込んだ。

入れ違いに書斎の扉が開く。

あたしは息を呑んだ。

お坊っちゃまが入って来たのもそうだけれど、ゾロと引っ付いてるのもそうだ。

さっきまでのサンジ君とのそれとは訳が違う。

動かせるといえば指くらいで、それもほんの少しだけ。



「窓から出ればよかったのに」
「あの窓は嵌め殺しだ。開かねえ」
「え、ほんと?」
「ほんと」



お坊っちゃまは書斎に誰もいないかを確認しただけで、入っては来なかった。

ソファに座った気配がある。

出ていきたくても、あのソファに座ったのならクローゼットから出ただけで丸見えだ。

あたしは舌打ちをしたくなった。

ゾロの胸板が厚すぎる。狭い。



「地図は」
「手に入れた。ゾロが持ってて。見付かったとき、あたしが持ってると奪われやすい。ゾロなら逃げ切れる」
「お前、俺がお前を置いて逃げると思ってんのか」



肩をすくめてみせた。

そのときはそうしてくれという意味だ。



「とにかく、地図はどこだ」
「ショーツに挟んである」
「…どこだって?」
「だから、あたしの、パンツに、挟んでるって言ったの!」



ゾロの深い溜め息が耳や首に掛かる。

あたしだって何が悲しくて何度もパンツという単語を言わされなければならないのか理解に苦しむ。

羞恥心も一応はあるのだ。一応は。

そしてゾロは暗闇でわからないけれど、項垂れているに違いない。



「わかった。取るぞ」



ゾロの骨張った手が動く。

あたしの太股に掌が触れて、そしてそのまま滑るようにお尻へあがっていく。

スリットがあって良かったのか悪かったのか、あたしは心の中で今後は絶対こんなことしないと固く誓った。

ゾロの手がゆっくりとお尻を撫でて、小さく折り畳まれた地図を抜き取る。

もっと素早くやってくれればいいのに、焦らすようにゆっくりやるものだから、あたしは思わず耐えるように目をつぶった。

暗闇のせいで、ゾロの掌の感触が余計に強く感じられる。

早く終われと思っているのに、地図を抜き取り終わってもゾロの手は一向に離れなかった。



「…ちょっと」
「お前が誘ったんだろ」
「地図を取ってって言っただけなんですけど」
「声出すな」



言い終えるが早いか、湿った感触が首に触れた。

思わず声をあげてしまいそうになるのを、やっとの思いで堪える。

ゾロのキスは首筋から、肩、顎、頬にまで続いて、最後に耳を甘噛みする。

唇が触れるたびにびりびりとした痺れが爪先まで駆け巡るというのに、耳を噛まれたときは耐えられず体が震えた。



「ちょっと、やめて」
「本気でそう思ってんのか」



ゾロの吐息がすぐそこにある。

目が慣れてきたのか、ゾロの妖艶に光る瞳を見て魔法が掛かったように動けなくなってしまった。

再び息を呑む。

ゾロの唇が近付いてきて、止まる。



「動かねえなら、このまま続けるけど」



魔法をかけたのはゾロのくせに、動けないあたしにゆっくりとキスをした。

あの体からは想像も出来ないくらい柔らかな唇に夢中になってしまう。

右に左に角度をかえて襲ってくるゾロ。

なすすべがないとはまさにこのことで、されるがまま呆気なく舌を受け入れた。

こんな狭い空間でこんな熱烈なキスをしていたら酸素不足にもなるのは当たり前で、唇が離れたときにはお互いに息が荒かった。



ーーおっけー。全員撤収完了。窓ぶち破って出てきても大丈夫よー



呑気なナミの声が聞こえる。

それは無論、ゾロにも伝わっていた。



「俺が窓を破る。ついてこい」
「このハイヒールで着地出来ると思ってる?」
「宙で脱ぎ捨てろ。そんくらい、お前なら出来んだろ」



ふん、と鼻で返しておいた。



「行くぞ。3、2、1」



ゾロは思いきりクローゼットを開けた。

どこに隠していたんだかわからない刀で窓を破る。

お坊っちゃまの呆気に取られた顔は見物だったけれど、あたしも間髪いれずに後に続いた。

落ちながら、靴を脱いで手に持つ。

回転して着地をして、顔をあげたときにはゾロが手を差し伸べていた。



「キス、最高だった」
「黙れマリモ」



言いながらあたしはゾロの手を取って、お坊っちゃまの罵声を背中で受け止めながらあたし達は走り出した。




スパイミッション
(手に入れたのは地図だけじゃなくて)

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