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「あー。こりゃあ、無理だ」



「「げ」」



フランキーの呟きに、俺とアラシは思わず口を揃えた。

フランキーが食い入るように見つめているのは、アラシの右手と俺の左手をつなぐひとつの手錠。

ただの手錠ではなく、嵌め殺しといえばその通りで、巷では1度付けたら一生外れないと噂されていた代物だ。

普通の手錠と違い、左右の手首を結ぶ鎖がない。

密着されたままの手首が、がっちりと太い金属で固定されている。

困り果てて、フランキーに助けを求めたのだが、どうにも本当に外れないもののようだった。



「何だってこんなもん嵌めたんだ?」



俺とアラシは同時にルフィを指した。

ルフィとウソップが偶然手に入れたこの手錠を、面白がって俺に嵌めようとしたことが発端である。

片手を嵌められた時点で気付き、抵抗したところまではよかった。

だが諦めの悪い2人は尚も嵌めようとして取っ組み合いになり、そこへふと通りがかったアラシの腕に嵌まってしまったのがつい30分前のことだ。

当のルフィとウソップは冷や汗を垂らしながら口笛を吹いている。

少なからず責任は感じているらしい。



「まあ一生無理って訳じゃねえんだが、何せ今は道具がねえ。次の島に着くのはあとどれくらいだ?」



事の様子を見ていたナミに問う。

ナミは風を見てから、迷いなく応えた。



「10日ってとこね」



10日もこのままであるというのはなかなか長い。

いや、長すぎる。

敵に攻め入られたら、こいつを抱えて戦わなきゃならないってことか。

ちっさいこいつを担ぐこと自体は苦労しねえだろうが、さすがに動きに支障は出る。

頼むから誰も来ないでくれ。

そう祈るばかりだった。



「狙われたら一発でアウトじゃん。なら私が親指折ったらどうかね」



さらりと凄いことを言ってのけた。

ぎょっとしてアラシを見ると、飄々とした横顔は変わらない。

こいつは本気で言っているらしかった。

しかもそれが、大したことではないと思っている。



「それなら行けるかもしれねえが…10日我慢すりゃ外れるんだぞ? わざわざ怪我すんのか?」



「だって敵に狙われたら困るし。私が戦えないのはいいとして、ゾロが戦力にならないのはなかなかきついっしょ」



「馬鹿言ってんじゃねえ。なら俺が折る」



「ゾロが折っても駄目だな。てめえは手がでかすぎる。多分、抜けねえ」



フランキーは俺達の腕を見比べて、顎を擦りながら言った。

俺は舌打ちをした。

さすがに女に指を折らせることまではしたくない。

しかし本人は塵ほども気に止めなかったようだった。



「チョッパー、包帯とか用意しといて」



言いながら、何の躊躇もなく親指を掴んだアラシに全員が慌てて止めに入った。

それぞれの手がアラシの手を押さえる。



「とりあえず様子を見ましょ。敵が見えてから折ったっていいんだから。ね?」



ロビンもさらりと凄いことを言う。

対するアラシは「確かに」と呟いた。

時々、こいつらは頭がどこかイカレてるんじゃないかと思う節がある。

そうでなければ理解の範疇を越える発言が説明出来ない。



「骨折したほうが10日よりも長く掛かるんだぞ!」



チョッパーが嗜めた。



「なるほど、骨折り損になるのか」



しかし2人の言葉は妙に説得力があったのか、アラシは思い止まったらしかった。

いつもはあっけらかんとしているくせに、こういう時だけはやけに過激になるから予測がつかない。

ほっと息をついていると、後ろでエロコックが喚き始めた。



「待てよ…ならアラシちゃんはそれまでずっと寝るのも起きるのも食事もトイレもお風呂も全部一緒ってことか!?」



コックの言葉で、ようやく気付く。

そうだ。

敵云々だけでなく、その問題もあった。

ちらりとアラシを見下ろすと、アラシも俺を見上げた。

目が合う。

項垂れて、嘆息ついたのはほぼ同時だった。

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