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「くっそ昼寝も出来んわ!」



横でアラシが悪態をつき始めた。

俺のトレーニングに付き合わせて早くも90分。
初めのうちは空を見上げたり、呆けてみたりして時間を潰していたのだがそれもどうも飽きたらしい。

腹筋をするとどうしてもアラシの腕も動くため、寝ようにも寝られないようだ。



「あと腕立ても残ってる」



「どうぞー。もう好きなだけやってくれい」



胡座をかいて、その膝に頬杖をつくアラシは眠そうに欠伸を噛み殺した。
こいつは事の重大さをわかってるんだろうか。

飯ならともなく、手洗いも風呂も一緒だということを軽く考えてるんじゃないだろうか。

腕を通さなくても着替えができる服をウソップが超特急で作製中だからいいとはしても。

そもそもフランキーに無理だと言わせるこの鋼鉄は何なんだ。
何でこんなものがルフィの手に渡っちまったのかそこがまず間違いだ。

島につくまでどうにか乗り切らないことにはやっていけない。

ちらりとアラシを見ると、先と変わらない体勢でうつらうつらと船を漕いでいた。

今日は長閑な天気で、その上やりたいことも出来ないときてる。余計に眠気が増したのだろう。

腕立てを終え、嘆息つきながらアラシを見つめる。

細い腕に、この頑丈すぎる手錠はまるで似合っていない。

眺めていると、とうとう完璧に寝入ったのか小さく揺れる体の重心が傾いて、そのまま倒れかけた。

支えてやろうとするも、そうだ手錠で繋がってるんだと慌てて右手を伸ばすが間に合わず。
手錠のせいで俺まで引きずられ、一緒に倒れこむことになってしまった。

何とか右腕一本でアラシを抱きつつ、俺の体を支えたもののその距離は驚くほど近い。
肘を曲げているのだから仕方ないのだけれども。


ふれた。


絶対に触れた。というか、かすった。

唇、絶対にかすった。

俺は羞恥にわなないて、急いで体を起こした。
顔をあげた瞬間、ウソップと目があった。

いつからそこにいたのか、という問いさえ口から出てこず愕然とする。
一方でウソップも大量の洋服を抱えたまま驚愕の表情で固まりきっていた。

互いに沈黙したのち、ウソップは軋んだロボットのように回れ右を始めた。



「待てウソップ誤解だ!」



背中に声を掛けると肩越しに振り返って親指を立ててきたあいつを絶対に許さない。
(なんだその満面の笑みは)

そもそもの原因はてめえだと罵ってやりたいのに、アラシが寝ているからそれも出来やしない。

この手錠が外れたら絶対に三回は殺す。

立ち去るウソップの背中を見送りながら決心した。



「サンジーー! ゾロがアラシを押し倒してキスしてたぞー!」



前言撤回。今すぐ殺す。

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