「ユーリ!どうしてそう乱暴なんだ!」 「んな事してねぇだろ。そもそもお前が離せば済む話だ」 「ユーリこそ、離してくれないか」 「いやだね」 若人は大変ねえ フィエルティア号に響き渡る声。しかし、その場に居る人間は止めるでもなくいつもの事だと呆れたような顔をしていた。 『あ…あのぅ…』 「買い出しは僕とななしで行ってくるから」 「フレン疲れてるだろ?俺がななしと行ってくるから休んでろって」 黒髪の青年に右腕を、金髪の青年に左腕を掴まれて身動きのとれないななしはどうしたものかと悩んでいた。自分の頭上で言い争いをする二人は、声を掛けても聞こえていないのかこちらの話を聞いてくれそうにもない。 「いい加減にしてくれないか、ユーリ。ななしが困っているじゃないか!」 「だから、お前がその手離せばいいんだよ」 だんだんと険悪になってくる雰囲気にななしはオロオロとし始める。 「ちょっとお二人さん、ななしちゃんが困ってんでしょ?離してあげな…」 「おっさんは黙ってろ!」 「シュヴァーン隊長は黙ってていただけますか」 「………」 そこに、見かねたレイヴンが助け舟を出すが二人の青年にギロリと睨まれて思わず黙り込んでしまう。レイヴンは言い合いを再開した二人に小さく溜息をついてななしの顔を見た。 『レ、レイヴンさん…』 「しゃーないわね…」 ななしの助けを求める眼差しに、レイヴンはななしの腕を掴む青年二人の手を無理矢理引き剥がす。 「「!?」」 するとななしはささっとレイヴンの背中に隠れて、彼の羽織りをきゅっと掴んだ。その行動に内心ドキリとしながらも、レイヴンは驚いた表情の二人を睨みつける。 「いい加減にしなさいっての!」 「シュヴァーン隊長…」 レイヴンに叱られフレンは少しばかり反省の色を見せるが、ユーリはムスッとしたままそっぽを向いていた。 「やれやれ…。若人は熱いわねぇ、ホント…」 レイヴンはそう言って、自分の背中に隠れる少女にちらりと視線を送る。彼女は事あるごとに、ユーリとフレンの言い争いに巻き込まれていた。彼らがななしに好意を寄せている故に起こる事なのだが、彼らはどちらも全く引く気はないようで日々ヒートアップするばかりだ。そして心優しいななしもそれが嫌だと言えず、いつも困ったようにオロオロしているのだった。 「仕方ねぇ、ここはななしに決めてもらおうじゃねーか」 「そう、だね…。ななし、買い出しはどちらと行きたい?」 「最初からそうしなさいよ…」とレイヴンは心の中で呟きつつ、三人の動向を見守る。 『わ、私は…レイヴンさんと行きたいです…』 「……え!?俺様!?」 まさかのご指名にレイヴンは焦る。青年二人も予想外だったようで、ポカンとしてマヌケな表情を見せていた。 『ダメ、でしょうか…?』 「いや、おっさんは全然構わないんだけど…」 「…なんでおっさんなんだよ…」 「まさか、シュヴァーン隊長もライバルだったなんて…!」 フレンは心底驚いたように言って、グッと握りこぶしを作る。 「んじゃ、まぁ…ご指名いただいた事だし、行こっか?」 『はい…!ありがとうございます。あ、えと…ユーリさん、フレンさん、せっかく誘っていただいたのにすみませんっ!』 律儀にも二人に頭を下げて謝るななしに、ユーリとフレンは何も言えなくなってしまう。 「残念だけど…仕方ないね」 「ななしがそう言うんならな…」 口ではそう言う二人だったが、「ななしに手出したらぶっ殺す」というドス黒いオーラがムンムンと出ている事に気付いたレイヴンは急いで船を降りる準備をする。 「さ、さぁななしちゃん!準備しましょうね〜」 『はい!』 後ろから「リタに魔導器止めてもらう」だの「海に突き落とす」だの恐ろしい言葉が聞こえてきたが、レイヴンは気にしないようにその場から逃げ出した。 そして、無事に船から降りた二人は再び上昇して行くバウルを見送って街へと入っていった。 『皆さん、一時間後に迎えに来てくれるそうです』 「一時間かぁ、デートにはちと短すぎるわね」 『え!?デ、デート…?///』 頬をピンク色に染めてあわあわしだすななしに、レイヴンはクツクツと笑った。 「冗談よ、可愛いんだから♪」 『あ、冗談…でしたか』 ななしのその反応にレイヴンは少しばかり違和感を感じる。 「(もしかして…残念がってる…?)」 そう考えた瞬間、レイヴンの顔の熱が一気に上昇した。頭ではそんなはずないと否定していても、心の何処かでは期待している自分がいる。もしかしたら彼女も、自分の事を想ってくれているのではないかと―。 『レイヴンさん…?そろそろ行きませんか?』 「えっ、あ、そうね!」 『…?』 レイヴンは目的の店に到着するまで、ぐるぐるとななしの事を考えていた。いつも優しく微笑んでくれる彼女に、自分はいつしか惹かれていた。けれどユーリとフレンという美青年下町コンビもななしに好意を寄せている事を知り、レイヴンは身を引こうと考えていたのだった。 「(あの二人に言い寄られて落ちない女の子は、ほとんどいないでしょうよ…)」 いつもななしを巡って騒がしく喧嘩する二人に呆れながらも、心の底では羨ましくも思っていた。自分ももう少し若ければ、彼らと正々堂々勝負出来たかもしれない、なんて事を考える。 すると突然服の裾を引っ張られて、思考に耽っていた頭が現実に戻された。 「ん?」 『あの、お店に着きましたよ?』 「あ、そうなの?ゴメンゴメン!」 レイヴンは慌てて数歩戻ってななしに謝った。ななしは特に気にした様子もなく、『行きましょうか』と言ってにっこり笑っている。 店に入ると、ななしはメモを見つめつつ必要なモノを手際よく取って行き、レイヴンはその後ろをついて歩いた。 『レイヴンさん、パイングミって残り少なかったですよね?』 「んー、どうだったかねぇ…。最近リタっちがよく使ってた気はするけど…」 『じゃあ、それも買い足しておきましょうか』 そんな会話をしつつ、買い物は終了。ななしが会計を済ませ、レイヴンがグミやボトル等が詰まった買い物袋を持つとななしは『ありがとうございます』と嬉しそうにはにかんだ。 [#next]>> index; |