騎士団隊長首席なのよ?



ぽかぽかと心地よい日差しが街を照らす午後―。

帝都ザーフィアスの市民街をゆったりと散歩していたななしは、見覚えのあるオレンジを基調とした鎧の騎士を発見した。



『こんにちはっ!』

「おぉ、ななし殿!」


一般市民であるななしに律儀にも敬礼をしてくれる彼は、シュヴァーン隊の小隊長ルブランだった。



『見回りですか?』

「ええ、これも騎士の務めですからな」

『ご苦労様です!』


ふわふわとした笑顔を向けられてルブランは少しだけ頬を紅く染めると、それを吹き飛ばすように咳払いをした。



「ところで隊長は…」

『レイヴンさんならお城だと思います。私物を整理すると言って…』

「そうですか…。もう、戻られるつもりはないのですね…」


ルブランの少し寂しそうな表情を見てななしは、シュヴァーンはバクティオン神殿の奥で永遠の眠りについた、と言っていたレイヴンを思い出す。




『大丈夫です!きっとレイヴンさんはいつでも皆さんの事、気にかけてくれていますよ!』


ななしがニッコリとそう笑いかけると、ルブランはまた騎士らしい顔に戻る。


「ええ、そうですな」

『でも、私も…シュヴァーンさんとお話してみたかったです』

「隊長は素晴らしい方ですぞ!我々のような下の者にも声をかけて下さって、厳しさと優しさを兼ね備えた騎士の鑑のような方でした…!」


ルブランは胸を張りながら、まるで己の事のように自慢げに話す。ななしはそれを見てクスクスと笑みを零した。その時、得意気な顔をしていたルブランは突然何かを思い出したようにクワッと目を見開く。


『ル、ルブランさん?』

「貴女がここに居るということは、もしやユーリ・ローウェルもこの街に!?」


ななしはルブランの勢いに押されながらも、下町に居ると思いますよ?と答えた。ルブランは規則正しい動きで敬礼をすると、回れ右をして下町の方に降りていった。


『…言ってよかった…ですよね?』


ななしは誰に尋ねるでもなく、一人そう呟いて首を傾げた。




そして、その様子を影から眺める一人の男が居た事に誰も気付いていなかった。












「んー…これはいらない、っと…」


シュヴァーンに割り当てられた部屋で、レイヴンはゴソゴソと引き出しを漁っていた。


「溜まってた書類は全部フレンちゃんに押し付けたし…こんなもんかね」


元々私物と言える様なものは少なく、片付けは思いのほか早く完了した。



「まだお昼だし…ななしちゃん誘ってデートでも行こっかな〜vv」


レイヴンはそう言いながら、ウキウキと部屋を出て街へと繰り出した。







そして同じ頃―


下町でルブランを振り切って(というか気絶させて)市民街へやってきたユーリは、城へと続く道から見知った顔が歩いてくるのを発見した。彼は何かを探すように辺りをキョロキョロと見回している。



「おー、おっさん。何してんだ?ナンパか?」

「違うわよ!ななしちゃん知らない?」

「ななしなら市民街の辺り歩いてくるって言ってなかったか?」

「でも居ないっぽいのよねぇ…まさか貴族街に行くとは思えないし…」

「俺がここまで来る時には会わなかったぜ?」


顎に手をあてて、うーんと唸るレイヴン。ユーリも辺りを少しだけ見回して言った。


「もしかしてすれ違いになったんじゃないか?」

「そうかもねぇ〜、一旦城に戻ってみるか…」


そして、エステルに用があるというユーリと共に城へ引き返した。




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